僕等の世界

僕等の世界

第二章 売れない歌



ガラッ・・・


定休日と札を掛けてあった筈なのに、一人の男が平然と入ってきた。
そして迷わず斎の目の前の椅子に座る。斎が読んでいる本から目を離し男を見ると、目があった瞬間男は薄く笑った。




「・・・よぉ、斎。今日は何人とヤッたんだ?」


斎は溜息を吐いた。

どうしてコイツがココに居るんだ。本なんざ興味ねぇクセして・・・。


「溜息吐くと幸せ逃げるぜ?」
「・・・ウザ。」
「酷ッ!・・・てか、教えてくれよ。俺達の仲じゃん?」
「どんな仲だ。」
「良いから良いから。なぁなぁ、何人なんだよぉ?」
「・・・・・・3人。」
「ぉ、マジ?ったく、1日で2万近くも稼ぐ高校生なんざ他にいねぇぜ?」
「全員お前が情報売ったんだろ。」
「ぁ、バレバレ?」


さっきから俺の話しかけてくる中肉中背の男。

「情報屋のタケ」

本名は「大武和也」胡散臭い呼ばれ方だが、大武自身は気に入ってるらしく客に広めているらしい。コイツを簡単に説明すると、掴み所の無い変な奴であり、斎の情報をネタにして金を稼いでいる情報屋の一人でもある。一人と言っても、他の情報屋はまず大武から情報を買い、それを売っている。斎の情報の出先を辿っていくと、大抵大武に辿り着くことが多い。
人数を聞いてきたのは、恐らく情報を売った人数と照らし合わせる為。


「幾らで売ってんだよ?」
「2000円♪」


大武は右手でVサインを作りながら笑う。
2000円×3人=6000円


「・・・お前だって1万近く稼いでるだろ。」
「アハハ、でも俺が売ってんのは情報だからね。これ以上値上げ出来ないの。」
「俺には関係ないことだけどな。」
「でも俺が情報売るから斎は稼げるんだぜ?感謝してもらいたいね。」
「感謝はしてる。だけど俺が頼んでる訳じゃない。」
「素っ気ないねぇ・・・。ま、俺も稼がせてもらってるし?別に良いけどさ。」


そう言うと大武は自分の鞄から菓子を取り出し食べ始めた。


「食う?」
「要らない。」
「美味いのにぃ。」
「ウゼェ。」
「ぅわ、ショッキングピンク!!」
「・・・もういい。」
「ぁ、悪かったってばぁ。ところで・・・今、幾ら貯まってんのさ?」
「・・・・・・・60万。」
「まだ初めてから2ヶ月だっけ?凄い額だこと。」
「4ヶ月だ。最初の2ヶ月は人に知られてなかったからな・・・入れなくても良い。大体2日に4人。それが2ヶ月だ・・・普通だろ。」
「えー、俺その半分にも満たないんですけどぉ?」
「当たり前だ。俺はお前の倍以上働いてんだぞ。」
「まぁね・・・。」
「・・・。」
「何?」
「・・・食う。」
「・・・ははっ、良いよ。ハイどーぞ。」
「サンキュ・・・。」




          『___幻愛の世界へ逝こうじゃないか
                振り返っても現実は辛い
                イマ売って ミライ買って

                幻愛の世界へ逝こうじゃないか
                見下ろしても現実は辛い
                ミライ買って イマ売って___』




着信音にでもしているのか、大武の携帯からあの曲が流れた。
しかし、大武は携帯を確認する事もなく、静かな図書室に響く曲を聴いていた。


「この歌の曲名、何だったっけ?」
「知らないのに着信音にしてるのかよ・・・。」
「良いだろ?売れてないみたいだけどさ、何か良いなって思ったんだよ。で、曲名は?」
「・・・【イマ売り人】」
「へぇ・・・何とも言えない名前。斎に、ピッタリの歌だよなぁ。」
「誉めてるのか貶してるのか判らない。」
「ぅーん・・・どっちだろうね?」


大武は斎を見て少し考え、肩を竦め苦笑いをした。


「・・・俺は、自分に似ていると思った・・・。」


読みかけの本に目を戻しながら斎は呟いた。大武に聞こえるか、聞こえないか位の小さな声で。


「あぁ・・・そうか・・・似てるよ。」


斎は大武を見たが、またすぐ本に目を戻した。


「イマ売ってるトコも、ミライ買ってるトコも・・・探してるトコも、な。」


図書室にはまだ携帯から流れる曲が響いている。
大武はその音に合わせ、小さく口ずさんでいた。




          『___君が居ないイマなんて詰まらない
                ミライを買って探すから
                ソコに君が居るのなら
                イマを売って探すから
                ソコに君が居るのなら
                きっと君を探し出すから
                きっと君を見つけ出すから___』




              “ソコに君が居るのなら・・・。”




5/2 UP



© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: