僕等の世界

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第三章 夢



土曜、斎は町の図書館へ来ていた。
昨日、クラスメイトから渡されたテキストをやる為。斎はココの静かな雰囲気が好きだった。順調に黙々と問題を解いていく。

ガタッ・・・


また、か。


「い・つ・き・君。」
「毎度の事だが、クソうぜぇ・・・。」


目の前の席に座った男は少し大きめの帽子を被っていたが、昨日と同様、紛れもなく大武だった。
何故斎がココに居るのを知っているかと言うのは、敢えて聞かない。


「何でココに居るのが判ったんだ?って顔してるなぁ・・・。情報屋を甘く見てもらっちゃ困るぜ?」
「誰もンな顔してねぇし・・・。」
「そう怒るなって。それにしても、何で休日潰してまで他の奴の宿題やんだ?」
「客じゃないクラスの奴等と教師に怪しまれないようにする為。あんな仕事してるからな、色々普段の生活で気を付けてないと危ねぇんだよ。高校止める訳にはいかねぇし。生活態度が良いと教師は何かあったとしても疑って来ないだろ?だからだ。」
「ご苦労様。ま、頑張れよ。」
「そう思うなら今すぐ帰れ。」
「まぁまぁ、今日は良いネタ持って来たんだ。」


フフン、と鼻高々に言う大武に周囲は、静かにしろ。という冷たい視線を送ってきた。斎は溜息を吐き、小さな声で聞き返した。


「・・・何だ?」
「ライバル情報だぜ?」
「ライバル・・・?」
「そ。ライバル・・・情報欲しい?」
「手持ちが無い。有ったとしても要らない。」
「まぁまぁ、そう言わずさぁ。」
「要らない。」
「・・・じゃあさ、手ェ組む気無い?俺と。」


斎は手を止め持っていたペンを置き、大武に不審な視線を送った。


「・・・何故いきなり違う話に飛ぶんだ?」
「違う話じゃねぇのよ、コレが。」
「何だよ。」
「それがなぁ、そのライバルって奴の裏に情報屋が潜んでんだと。ソイツ、俺のこと極端にライバル視してるみたいでさぁ、元々お前をライバル視してる奴の一人に情報渡してるんだよ。まぁ、俺の収入の7割がお前の情報だからな、お前を潰せば俺も、みたいな?相手も考えたみたいだ。で、相手も5000円という破格の値段。向こう方はもうやる気満々、俺達と客足競いたいんだってよ?」
「俺には、関係無い。」
「そう言うと思った。・・・でもな、このまま放って置いてもお前の痛手になるだけだ。」


先程まで笑っていた大武が真剣な表情になり、斎を見据えた。


「痛手、だと?」
「・・・薄々気付いてるんじゃねぇの?」
「・・・。」
「良いのか?コイツに客取られちまうと斎、お前稼げなくなるぜ?」
「・・・。」


斎は目の前に広げてあるテキストに目を戻した。問題を解く訳でも無く、唯ジッとやりかけの問題を見ていた。


「・・・ま、お前が稼げなくなると俺も収入無くなっちまうからな。助言したまでだけど、後はお前が決めろよ。」
「・・・・・・寄こせ。」
「何?」
「お前が持ってるソイツの情報を寄こせって言ってんだよ。」
「・・・交渉成立ってか?じゃ、これからはパートナーってヤツだな。」
「ソイツら潰したら止めるからな。」
「判ってるって。さて、情報代はパートナー割引で1500円でどうよ?」
「バカか?手ェ組むんだろ、誰が金払うかよ。」
「ははっ、冗談だよ、冗談。」


一通り話が済むと大武は暇だから、と言って何度か本棚から本を探してきては読んでいた。斎はテキストの続きをやりだした。スラスラと、答えを全て知っているかのように問題を解いていく。
しかし頭には問題など入ってはいなかった。

俺の事をライバル視してる奴は何人かは居るだろう。その内の一人と競ったって別に俺には関係無いし、コイツと手を組むのも気が引ける。けど、稼げなくなるのは辛い。今は金が要る。その為なら何をしてでも・・・。





青い空の下、遠くに消え行く白い煙を見送る、まだそれ程大差の無い背丈の学生服を着た男と女。
見覚えのある後ろ姿・・・誰だ?


『斎、』
『何だよ・・・。』
『行こう?』
『・・・。』
『今からお昼だって言ってたよ。』
『・・・。』
『・・・。』
『判った、行くから・・・。』


俺達だ。まだ中学生の頃の・・・。


『・・・私じゃ、ダメかな。』
『?』
『私じゃ、あの子の代わりにはなれないかな・・・。』
『いきなり何言って・・・』
『私はずっとココに居るよ。斎の傍に居る。体って丈夫だし、斎より先に逝ったりなんかしない。約束する。だから、』
『・・・梓。』




「ぃ・・・おいっ、斎・・・起きろよ。」
「ん、ぁ・・・俺、寝てたのか。」
「ったく、もう閉館だとさ。」
「ぁ、あぁ・・・。」


顔を上げ窓の外を見ると、既にオレンジ色に染まった雲が通り過ぎ、小さな光が所々に散らばり光っている。


「パートナー一人、残して帰れねぇからな。」
「・・・サンキュ。」
「イエイエ。」




懐かしい夢を見た。アイツが消えた時の・・・アイツが、起きていた時の夢。


夜毎繰り返す悪夢。あの日起こったことをリアルに感じる。深い眠りに落ちる前、俺は君に酷い仕打ちを、君の心に傷を付けてしまった。俺は謝ることも出来ないまま、白い空間に君を一人置き去りにしたまま俺の時は進んで行く。君の周りは、其処だけ時が止まったかの様に静かで。
償っても償えきれない程の痛み。君は俺を恨むだろうか?俺を憎むだろうか?
今度こそ、傍に居て守ろうと誓ったのに・・・もう二度とあの辛い思いを繰り返さない為にも、この手で守り抜こうと誓ったのに・・・俺はまた、守れなかったのだから・・・。




5/3 UP




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