僕等の世界

僕等の世界

第四章 ネタ帳



「『永尾 修一』」


月曜、斎はクラスメイトに渡されていたテキストを本人達に返し、いつもと変わらない一日を送ろうとしていた。
・・・筈だったのだが、何故か目の前には片手に単行本サイズの黒革の手帳を持った大武が居た。


「・・・何修一だって?」
「永尾」
「で、誰?」
「だから、ソイツが斎のライバル宣言した奴の名前。」
「へぇ・・・。」


名前なんかどうでも良かった。別に永尾修一とか言うヤツに興味がある訳じゃないし、ライバルだなどと言われても日常に変化を及ぼす事んど一つも無いだろうから。そう大武に言うと、甘いんだよなぁ。と鼻で笑い返された。


「ソレは何だ?」
「コレ?ネタ帳。」
「・・・。」
「何だよ。」
「別に・・・。」


普段は真面目には見えない大武も、それなりに有能な情報屋なのだろう。ネタ帳と題す手帳は使い込んである様で、少しばかりボロボロになっていた。そして間には写真、ノートの切れ端、その他諸々を挟んでいて普通の手帳より分厚くなっている。このネタ帳は、「情報屋のタケ」としての苦労の結果なのだろう。


「コレ写真ね。」


そんな中、大武が手帳から一枚の写真を引っぱり出した。中央には一人の少年が写っている。この少年が永尾なのだろう。華奢な体に男の割に小柄な背丈、小さく女のような顔。どちらかと言えば、抱くより抱かれる専門に見える。


「この写真どうしたんだよ・・・?」
「写真部に頼んで撮ってもらった。ま、それなりに金払ってるから。」
「自分じゃ撮らないのかよ。」
「偶に撮ることもあるけどさぁ、何かあった時に写真部の写真の方が言い訳出来るだろ?」
「そう言うことか。」
「そう言うこと。で、写真の感想は?」
「良いんじゃねぇ?アングルも良いし・・・。」
「そか、良かったぁ・・・って、違うし!!永尾だよ、永尾。」
「あぁ・・・コレ、女だろ?」
「正真正銘の男。」
「見えねぇ・・・。」
「お前もあんまり言えた義理じゃないぞ?」
「俺はココまで女顔じゃねぇ・・・。」


斎は全て否定はしなかった。女顔であることで今は最大の収入源、稼ぎになるのだから。


「ま、コイツは女が男の制服着てるみたいだしねぇ。ついでに言うと、コイツは抱かれる専門。しかも男限定。」
「ホモか。」
「ホモだな、ホモ。モーホー。」


アッサリと永尾がホモだと認める大武。それ程に、永尾は重度のホモセクシャルなのだろう。


「『女は下品で嫌い』なんだと。」


手帳を片手に苦笑する大武。


「男の方が下品の割合高いと思うぞ・・・。」
「アレなんだよ。」
「アレ?」
「M。」
「サイズ?」
「そっちのMではなくて・・・SMの。つまり早い話がマゾ。」
「あぁ・・・男限定の?」
「そ。名付けて【マゾっ子修ちゃん】なんてねv」
「パクんなよ。」
「イイじゃん。てか、突っ込み所はソコじゃないと、ボケた俺自身が思う・・・。」
「はぁ・・・。」
「どうした?」


斎は頭を抱え溜息を吐いた。


「こんなMヤローにライバル宣言されたかと思うと頭痛が・・・。」
「まぁ、お前リバだしな。SでもMでもねぇし。その気持ちは判らなくもない。」
「そう言うお前は何なんだよ。」
「俺?俺はバリバリのノーマル。」
「嘘吐け。」
「マジマジ。てか俺彼女居るし?」


笑いながら良いだろ?と自慢し始める大武。まさかと思っていた為、斎は目を丸くして驚いていた。


「・・・嘘吐け。」
「嘘じゃねぇって。雪絵って名前なんだけどさ、ちゃんとした良い子よ?」
「ちゃんとした良い子って・・・じゃあ、何でこんなヤツと付き合ってんだろうな。」
「失礼だなぁ。」


ホラ、と言い小汚いネタ帳とは打って変わって綺麗な定期入れを斎に差し出した。大武と細身で小柄な女の子。2人とも満面の笑みを浮かべている。どうやらこの子は本当に大武の彼女らしい。


「この子は・・・お前が情報屋って知ってんのか?」
「勿論。『頑張ってネ♪』って言われちゃった。」
「・・・へぇ。」


「彼女バカ」きっとこの言葉は大武の為にあるんだろう。中3の頃から付き合い始めただとか、初めてデートした場所だとか、苺アイスを食べた後のファーストキスの味は甘酸っぱい苺の味だったとか・・・。結構意外だ。情報屋って悪く言えばストーカーだろ?それなのに彼女が居るのか・・・。彼女の情報とか実はネタ帳に書いてあったり・・・。それこそ、ストーカー・・・。

笑みを浮かべながら、永遠と話し続ける、大武。斎は後から聞くと彼女の情報は書いていないらしい。彼女のプライバシーは守るとか・・・。




「何か新鮮だろ?最近、男×男って話が多かったから。」
「・・・まぁな。俺の周りには何故こんなにもホモが多いんだ・・・。」
「男子校じゃないんだけどねぇ・・・。っと、話ずれた。『村上 聖治』コイツが俺のライバル宣言した超バカ。」


写真には、眼鏡を掛けた大武と同じ位の中肉中背男が写っていた。輪郭もハッキリして、鼻筋もスッとしている。
大武曰く、あまり関係無いが、この様な輩は眼鏡を取ると結構美形が多いらしい。それには大きく分けると4パターン有り、1つ目は自分に自信の無い控え目タイプ。2つ目は、根は真面目だが外見の所為で不真面目だと勘違いされやすいと言うガリ勉タイプ。3つ目は自分に気付いていない天然タイプ。4つ目はコンタクトにするのが面倒臭いと思っている面倒嫌いタイプ。恐らく村上は2タイプらしい。
ズボンのポケットには、大武のネタ帳と同じ様な手帳がペンと一緒になって入っている。情報屋とは、皆常日頃からネタ帳を所持しているのだろうか、と斎は呆れていた。


「余談だけどさぁ、コイツは前に永尾と付き合ってたらしいぞ。」
「何だソレ・・・。」
「だから、コイツもモーホーだって。」


斎と大武は次第に先程自分達が口にした問題の答えなど、もうどうでも良くなっていた。


「・・・何で別れたんだ?」
「村上がな、ノーマルに戻ったんだと。女を好きになったらしい。所謂一目惚れってヤツで。その女が誰なのかは、未だ判んねぇけど。」
「永尾が振られたって訳か・・・。」
「いや、永尾が振ったんだ。村上がその女に言い寄ってるトコに遭遇してなぁ、悲惨だったらしいぜ?永尾がヒステリック起こして、その場で村上の顔ぶん殴ったって話。」
「永尾にしてみれば悲劇だな。」
「女の恨みは怖いからな・・・。ぁ、男か。ま、結局村上はその女に相手にもされなかったらしいけど。何でも彼氏が居るって言われたらしい。」
「で、何でそんな奴等が手ェ組んでんだよ?」
「お前と、永尾が狙ってた男が寝たんだと。」
「誰と誰だって?」
「永尾が前々から狙ってた男がお前の客になっちまったから、永尾がお前に敵対心抱いてんだよ。」


お手上げ、と言わんばかりに肩を竦め苦笑する大武。相手からすれば大事なのかも知れないが、此方にしれば迷惑極まりない。


「言い掛かりだろ・・・。俺が頼んで寝た訳じゃない。頼まれたからヤッただけだ。」
「向こうはそう思ってねぇんじゃねぇの?」
「お前の方は何なんだよ?」
「俺?実はなぁ、ソレが判んねぇんだよ。俺と村上の通点は情報屋ってコト意外何も無い。でも、情報屋ってだけで恨み買ってんのは明らかに変なんだよ。俺の他にも荒稼ぎしてる奴は沢山居るしな・・・。」
「その内判るんじゃねぇか?ソイツ等潰すのが今のところ一番手っ取り早いと思うぜ?」
「まぁ、そうだな。」


大武は納得したように頷き、ボロボロのネタ帳を閉じた。




5/3 UP




© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: