僕等の世界

僕等の世界

暖かい笑顔



彼は周りにいた男達を難なく倒し、最後に残ったダルマのように太っている男に近付いた。
どうやらこのダルマ男が頭らしい。
彼と他の男の死体を交互に見ながら後ずさりしていく。それでも尚ダルマ男に近付いていく彼は少し呆れた表情をしている。

ガチガチと震え怯えているダルマ男は、思い付いたようにスーツの胸ポケットから草の入った袋を目の前に突き出した。


「こ、コレが目的なら好きなだけ持って行け!!だから、命だけは助けてくれ!!!」
「・・・」
「スピード!!ぃや、Hも付ける!」
「・・・」
「チョコ!!・・・えぇいっ、スノー!!!」
「俺、競りやってる訳じゃないんだケド」


ダルマ男の口からは意味不明な言葉が次々出てくる。スピード、H、チョコ、スノー・・・敦には何の事を指すのか検討も付かなかった。


「く、くく、来るなぁ!!!」
「無理だって、殺さなきゃならないンだから」
「来ないでくれぇ!!」
「・・・全く、しょうがない」
「た、助けてくれるのか!?」
「今更何言ってんの?来るなって、アンタが言うからココから止まってやっただけ」
「・・・ハ、ハハハッ!!」
「気でも狂った?」
「お前は近付かなければ殺せないのだろう!?だったら逃げれば殺されやしないじゃないか!ハハハッ、逃げてやるぞ!!!」
「何か知らないけど自分で宣言してるし・・・馬鹿?」
「どうとでも言え!!!逃げ切ってやる!!!!」
「やっぱ馬鹿だ」


ヒュン


「がっ!!!!」
「誰が、近距離じゃないと殺せないって言った?俺は別に近距離でも遠距離でも、ドッチでも良いんだよネ。言ってる意味、判る?」
「ヒィッ!!!」
「俺ダーツって苦手でさぁ、狙ったトコに当たらないんだョ。この距離じゃ心臓、頸動脈ドコも一発じゃ当てる自信ないなぁ・・・」


逃げようとするダルマ男に向かって彼が投げていたモノは、小さなナイフだった。丁度足に刺さった為ダルマ男は転び、そこから動けない。それでも彼は面白くなさそうな顔をしている。


ヒュン、ヒュン


「ごぁっ!ガハッ!!!」
「何か、あんたみたいなダルマ相手にしてても何の面白意味もないネ。手応え無いし。良いよ、苦しいでショ?・・・殺してアゲル」

ヒュン


「ゥグッ・・・」


ザクッ

先程のダーツ苦手宣言は嘘だったのか、ナイフはダルマ男の頸動脈を的確に貫いていった。
ピクピクと首から血を吹き出しながら呻いていた男も、次第に動かなくなった。


「ハイ、さよーなら」


小さい子供に向かってするような笑顔で、彼は残酷な吐き捨てた。
彼はナイフを拾い上げると敦の方へ近付いてきた。当の敦は、腰が抜けヘナヘナと座り込んでしまった。


「やぁ、少年。大丈夫?」
「・・・」
「ァレ?腰抜けちゃった?立てるカナ?」
「・・・しい・・・」
「何だ、喋れるなら大丈夫だネ」
「おかし、い・・・」
「・・・」
「おかしいよ・・・」
「・・・うん」
「アンタおかしいよ」
「うん」
「アンタ、おかしいよっ!!」
「うん・・・そうだネ」


彼は笑った。
人を殺した人間とは思えないほど、暖かく、柔らかく。
敦はそんな彼が理解できなかった。どうして人を殺してしまうのか?自分とあまり歳も違いそうにない彼が、何故?疑問は次々と浮かび上がり敦の頭は混乱していく。


「なんで殺しちゃったんだよ。なんで、なんでこんな・・・こんなヒドイことを!?」
「ヒドイ、か・・・確かにヒドイな」
「どうしてっ・・・!!!」
「君は、知りたいのかい?」
「ぇ・・・」
「知ってもね、多分判らないョ」
「っ・・・狂ってる」
「うん、俺達は狂ってるから・・・君には判らないだろうネ」
「俺、たち?」
「・・・・・君には、殺したいほど憎い人って居る?」
「殺したいほど・・・」
「もし、ソイツを殺せたら・・・自分は幸せになれると思う?」


敦の頭には両親の顔が浮かんでいた。
しかし幾ら憎んでいるとは言え自分一人の為に殺せはしない、と頭を振りその思考を頭から消し去った。


「俺は・・・思わない・・・」
「そうだね、それが普通なんだョ。そう思える君には、狂った俺たちが考えることなんて判らない」
「何が、言いたいんだ?」
「君みたいな人間は、俺たちみたいな奴のコト理解しようとしちゃ駄目ってコト」
「なんで・・・?」
「そうだなぁ・・・君まで狂っちゃうから」 


やはり彼はまた笑った。そしてバイバイ、と敦に言うと後ろを向き倉庫を出ていった。
誰が思うだろう。誰が予想するだろう。
彼が、あんなに暖かく笑う彼が人を殺したなんて・・・。


7/3 UP


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