フィンとリーフのトラキア博物館

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「剣聖と黒騎士と・・・」短編集(2)



最終更新情報:09年10月22日に第10話として『ランスリッター隊長の集中講義(その3)』をアップして、短編集パート2を完成させたよ~


<第6話・チュラとレイチェルのバーハラ珍道中(その4)>

レイチェルと別れたチュラは、舞踏会が終了する夕方まで時間があることもあり、バーハラの街を1人で散策することにした。

実はディアルトのいるバーハラ士官学校の授業参観をこっそり見に行こうとしたのだが、士官学校の生徒でもないチュラは校門で止められてしまい、さらにこっそり入ろうとした行動がフィンたちに見つかってしまい怒られてしまった。特にディアルトの妹のレフィルは鋼の槍をチュラの喉元に突きつけ『兄さんの授業の邪魔をしてからかうつもりなの?』と敵意むき出しであった。

やむなく士官学校から離れたチュラは街の闘技場に向かうことにした。

各地から腕自慢が集る闘技場は、チュラにとっても数少ない実戦経験の場であった。もちろん地元のノディオンにも闘技場はあるのだが、地元では一国の王子なので名は知られているうえに母マリータの流星剣のお仕置きが待っているのでうかつにも近づけない。
一応ノディオンの騎士たちがチュラの相手をするのだが、所詮騎士と剣士では戦い方が違う上、チュラの必殺剣『流星剣』もしくは『月光剣』が出てしまうとあっという間に勝負はついてしまうので、彼にとっては少し物足りないのだ。
最近ではチュラの母方の親戚でイザーク王家のグレックが出稽古を取ってもらうくらいである。

そして意気揚々と闘技場に入ったチュラだったが・・・

「だぁ~~っ!!どいつもこいつも手ごたえのない相手ばかりだっ!!」

1回戦から全部で7試合行ったものの、すべてチュラの圧勝であった。決勝戦のバロン(ジェネラルの上級クラス)でさえも流星剣と月光剣が同時発動したチュラの敵ではなかった。

とはいえ7試合での合計賞金17500ゴールドを獲得したこともあって財布の懐具合は温まった。
「まぁ、おかげで小遣いがもらえたからいいか・・・」

やがて街の中心部にやってきたチュラは、レイチェルにアクセサリーを買うため店内を散策していた。
なにを買うか迷っていたところ緑色の宝石をあしらったペンダントがあった。

(これレイチェルに似合うかな・・・色もあいつの髪と同じ緑だし・・・)

と、チュラが考えていると女性店員が現れた。

「お兄さん、もしかして彼女にプレゼントですか?」

「か、か、彼女だなんて、そんな!!俺とレイチェルは従兄妹同士で・・・」
しどろもどろになっているチュラを見て店員はクスリと笑みを浮かべる。

「そこまで慌てているってことは、それだけ彼女を大事にされているってことですね(^^)」

「あ・・・いや・・・その・・・」核心をつかれ言葉にならないチュラ。

「照れなくてもいいのに、素直な方ですね」ころころと笑う女性店員に顔を真っ赤にするチュラ。

(もしかして・・・本当に俺はレイチェルのことを・・・これが「好き」ってことなのか・・・?)

ようやく自分の気持ちに気付いたものの、ここが店の中だと思い出したチュラは慌てて胸を押さえ、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

代金を支払う際にも「彼女を大事にしてくださいね♪」と店員に言われ、最後まで振り回されっぱなしのチュラだった。
こうしてペンダントを購入したチュラは、再びバーハラ城に戻ることにした。

やがて舞踏会が終了しバーハラ城からレイチェルが現れ、嬉しそうにチュラに駆け寄ってきた。

「チュラ兄ちゃんっ!!」

「お帰りレイチェル。舞踏会は楽しかったか?」

「うん!!いろいろな国の人たちともお友達になれたしお話もできて、すごく楽しかった(^^)」

「そうか」レイチェルの笑顔を見て、チュラもほっと胸をなでおろす。

「ああ、そうだ。これレイチェルにプレゼント」慌てて思い出したチュラは、レイチェルに先程買って来た緑の宝石をあしらったペンダントを渡す。

「わっ、これ私の髪と同じ緑の宝石なんだ。すごくきれい~」

「レイチェルに似合うと思って買ってきたんだ。ああ、でもアレス伯父さんやリーン伯母さんにはもちろん内緒だぞ」

「ありがとう、チュラ兄ちゃん!!絶対大事にするね!!」

嬉しそうに抱きつくレイチェルを見て、少し戸惑いつつもチュラはレイチェルの髪を優しくなでた。

こうしてチュラたちは再び宿に戻り一泊したあと、翌朝アグスティへと帰国の途につくことになった。

第6話・完
第7話に続く・・・


<第7話・チュラとレイチェルのバーハラ珍道中(その5)>

舞踏会が終了し翌日バーハラを出発したチュラたちは、途中フリージで1泊してさらに翌日、アレスたちが待つアグスティ城へと戻ってきた。

アグスティ城ではアグスティ王のアレスと王妃のリーン、レイチェルの兄であるエルトシャン王子が出迎えてくれた。

「ただいま~お父さん、お母さん、お兄ちゃんっ!!」
レイチェルは真っ先に父アレスに抱きつくと、アレスも笑顔で娘の帰りを喜んだ。リーンとエルトシャンも笑みをこぼす。

「伯父上、伯母上、ただいま戻りました」
チュラが無事に帰還したことを伝えると、アレスから労いの言葉を受ける。

「レイチェルが世話になったなチュラ、礼を言うぞ」とアレス。

「いえ、俺は役目を果たしただけですから。それにバーハラでは久しぶりにフィンお祖父様とラケシスお祖母様、それにディアルトやレフィルにも会えましたし楽しかったですよ」

「伯父上と伯母上が!?お元気でいらしたのか?」

「ええ、相変わらず仲が良かったですよ。ちょうど俺たちが訪れた時は、今回の舞踏会ではレフィルが参加してまして、ディアルトは士官学校の授業参観日だったんですが、ちょうど日が重なってしまったので、どちらを見に行くかで困っていたみたいです」

「そうか・・・ところでチュラ・・・」
「はい、何でしょうか伯父上?」
するとアレスはチュラの耳元でぼそぼそ言い出した。

(私のことで何か言っていなかったか?ほら、今回エルトじゃなくてお前が行くことになったことで不審に思われなかったかな、と・・)

(エルトとミストルティンで稽古したことについてですか?俺は言うつもりはなかったんですが、レイチェルが全部話しちゃって・・・お祖父様は呆れていましたし、お祖母様は『一度アレスとは話し合わなきゃいけないわね』とおっしゃってましたが・・・)

途端にアレスの顔が真っ青になる。

「それは本当かチュラ?」
「はい、それはもう笑顔でおっしゃってましたよ(^^)」とチュラ

アレスが頭を抱えている様子を見てレイチェルが「どうしたのお父さん?すごい汗かいちゃってるけど・・・何かあった?」と訪ねる。

「い、いやなんでもない・・・」アレスは平静を保とうとしているが、リーンにはお見通しだったようで「またラケシス様に怒られると思ってるんじゃないかしら。エルトに対しては厳しいところがあるから」とため息をついた。

アレスが落ち込んでいる間に、チュラはいつの間にか怪我が治っているエルトシャンに駆け寄った。

「あれ?エルト、お前もう怪我が治ったのか?骨折だから1ヶ月はかかるんじゃなかったっけ?」
「うん、本当なら1ヶ月はかかっていたはずなんだけど、もともと怪我に関しては治るのは普通の人より半分の期間で済むって医者が言ってたし、だから2週間もあれば治るはずだったんだ。でも実はね・・・」するとエルトシャンはちらりとチュラとは別の方向にむける。

チュラも気になってエルトシャンと同じ方に向ける。すると・・・

「エイシャ!?」
「エイシャお姉ちゃん!?」
「お帰りなさい、お兄様、レイチェル!!」

チュラとレイチェルが驚くのも無理はなかった。ノディオン城にいるはずのチュラの妹エイシャがアグスティ城に来ていたからだ。エイシャは久しぶりに再会した兄に嬉しそうに抱きつく。

「な、なんでエイシャがここに来てるんだよ」
「もともとアグスティ城には用事があって、お父様から預かった重要な書類をアレス伯父様に渡すために来ましたし、それならついでにエルトのお見舞いをしようと思って・・・でも一刻も早く怪我が治ってほしかったから、ついリカバーの杖を持ってきたのです。それにお父様から『もうすぐチュラたちが戻るから迎えに行ってやれ』って言われて・・・」エイシャが持ってきた杖を入れる袋にはリカバーに加えてリターンの杖とワープの杖、さらにはエイシャ自身がワープできるためにリワープの杖と、万が一の失敗の為にとリターンリングまで持ってきていた。

「抜かりないよなぁ・・・エイシャって・・・」用意周到の妹にため息をつく兄チュラ。

「几帳面なところはお父様にそっくりね」リーンも感心しながら頷く。

「それだけ杖を使ってエイシャもよく疲れないよね、大丈夫かい?」杖魔法は精神力を多く使うことを知っていることもあり、エルトシャンもエイシャを気遣う。

「大丈夫よ、エルト。お母様からSドリンクを貰ってきてるから♪」にこ、と笑顔を見せるエイシャにエルトシャンも「そ、そうなんだ・・・」と笑みを見せつつも、ここまで細かい用意周到ぶりに心の中でため息をつくのだった。

その後チュラとエイシャはアレスたちに別れの挨拶を済ませると、チュラはエイシャからワープの杖で、エイシャ自身もリワープの杖で、ノディオン城へと戻っていったのだった・・・

<チュラとレイチェルのバーハラ珍道中・おしまい>

第7話・完
第8話に続く・・・


<第8話・ランスリッター隊長の集中講義(その1)>


「何?槍を習いたい?」

ノディオン国王デルムッドは先日『聖騎士(パラディン)』の称号を得た娘エイシャの話を聞いて「う~~ん」と渋い表情となる。

「そうです、お父様。私も聖騎士にクラスチェンジしましたし、剣だけではなく槍も教えて欲しいのです」
確かにエイシャの剣の腕は、騎士としては優秀である。ちなみに兄のチュラの場合は剣士であり、剣の腕はもはや達人の域に達していて、最近では騎士が相手だと稽古にならないとぼやいてはいるのだが。

「しかし何も今、槍を習わなくてもお前の騎士としての技量は皆が認めているし、なぜそこまでこだわるんだ?」

「だ、だって先日エルトも私と同じく聖騎士にクラスチェンジしましたし、一度槍で手合わせしたいと思って・・・」

するとエイシャの頬が赤く染まった。同い年の従兄で幼なじみでもあるアグスティのエルトシャン王子とは仲が良い。

(ははぁ、なるほど・・・相変わらずエイシャはわかりやすいな。すぐに顔に出るというのが・・・)デルムッドはため息をつくも娘の頼みを断るわけにも行かなかった。ちなみに彼女の性格はデルムッド譲りだというのはいうまでもない。

「そうか・・・わかった。私は槍は扱えなかったから教えるのは無理だけど、一度父上に頼んでみよう」

「えっ、お父様本当ですか!!」

フィンの名を出され、エイシャの表情は笑顔になった。
デルムッドの父フィンは、彼の故郷レンスターはもちろんのこと、ユグドラルでは知らないものはいない『伝説の槍騎士』であり、かの聖戦で最後まで戦い抜いた勇者の一人である。

「ああ、早速レンスターに手紙を出してみよう。そうだ、どうせならエルトも誘ったらどうだ。あいつも父上とは一度稽古をしてみたいと言ってたからな」

「分かりましたお父様。きっとエルトも喜んでくれると思いますわ」

それから1週間後・・・

レンスターから手紙が届いたと聞き、チュラとエイシャ、それにノディオンに遊びに来たアレスとリーンの子供たちエルトシャンとレイチェルが謁見の間にやってきた。

「お父様!!手紙が届いたと聞きましたが、フィンお祖父様は来てくれるのですか?」

「残念だけどエイシャ、父上はノディオンには来れないそうだ。レンスターでの仕事が忙しくて、休みがなかなか取れなくて、無理をさせるわけにも行かなかったんだろう」

手紙の内容を聞いたエイシャは思わずシュン、としてしまう。

「でも残念ですわ。せっかくエルトもお祖父様に稽古をつけられると聞いて、すごく楽しみにしていましたのに・・・」

「仕方がないよエイシャ。それにフィンお祖父様とはいつかはまた別の機会で一緒に稽古をしてくれるよ」とエルトシャンが慰める。

「そのかわり、父上に代わる別の人がこのノディオンに来るそうだ」とデルムッド

「お祖父様に代わって来てくれるのですか?でも、おじいさまに匹敵する槍の達人なんていましたかしら?」

「ああ、チュラやエイシャ、エルトやレイチェルももちろん良く知っているぞ」

「???」

チュラたちはお互い顔を見合わせ、首を傾げるしかなかった。

それからさらに数日後・・・

「デルムッド様、レンスターからあのお方が到着なされました」
兵士の1人がデルムッドにレンスターから使者が到着したことを知らせる。

「よし、わかった。すぐにここに来るように伝えてくれ」

そして謁見の間にやってきた人物を見て、チュラたちは驚嘆した。

「ディアルト!?」「ディアルトお兄様!?」「ディアルト兄貴!?」「ええっ、ディアルト兄ちゃんだったの!!?」
上からチュラ、エイシャ、エルトシャン、レイチェルである。

「お久しぶりです、デルムッド兄上。ディアルト槍の指導の為にレンスターから来ました」彼らの前に現れたのは、デルムッドとナンナの歳の離れた弟であり、チュラとエイシャの甥でもあるディアルトだった。

「ディアルト、はるばるレンスターからよく来てくれたな。すまない、今回このようなことになってしまって、ランスリッターの隊長としての仕事も忙しいのに・・・」

「いえ、エイシャたちの力になれるのであればと父上も喜んで送り出してくれました。それにランスリッターは妹のレフィルが見てくれています。あいつも副隊長の1人ですしね」とディアルト。

「そうだったのですか。でもディアルトお兄様もフィンお祖父様から直々に槍の指導を受けておられるのですから、いい稽古をつけてくれそうです」とエイシャも、もう1人の兄と慕うディアルトと稽古をつけられることに嬉しそうである。

「じゃあ、この稽古の間はディアルト先生と呼ばなきゃいけないよね。先生よろしくお願いします!!」とエルトシャン。

「先生・・・というまではありませんが、せっかくエイシャもエルトシャンも聖騎士になられたようですし、ビシビシとやらせていただきますよ(^^)」とディアルトも笑みを浮かべる。

「ディアルト先生だって!!なんだか変な感じだよね、チュラ兄ちゃん!!」とレイチェル。

「まぁ、俺とレイチェルは槍は扱えないからしょうがないけど。でも槍との戦い方に参考になるかもしれないから、見ておく必要はあるな。それにあいつの戦いぶりを一度見てみたかったこともあるし・・・」と、チュラは槍との戦い方に興味があるらしい。

こうして1週間エイシャたちとディアルトによる厳しい指導が始まる・・・


第8話・完
第9話に続く・・・

<第9話・ランスリッター隊長の集中講義(その2)>

デルムッドの弟で、レンスターのランスリッター隊長であるディアルトがノディオンに滞在して3日が過ぎた。

チュラの妹でノディオン王女のエイシャと、レイチェルの兄でアグスティ王子のエルトシャンは、パラディン(聖騎士)にクラスチェンジしたのだが、槍の扱いになれていないこともあり、ディアルトから直々に槍の持ち方や扱い方などを習っていた。
その後は素振りや突きなどを実戦に役立てるための稽古を行っていたのだが、稽古開始から1時間あまりで2人は息が上がっていた。

特にエイシャは体力があまりないこともあり、ディアルトが休憩にすると決めるとほっとしたように地面に座り込んだ。

「はぁ、はぁ・・・や、やっと休憩だ・・・そ、それにしたってディアルト兄貴、ちょっとペースが速すぎない・・・?」エルトシャンも息を整えるのがやっとの状態である。

一方ディアルトは父のフィンに普段から厳しい稽古をつけてもらっていることもあり、いたって涼しい表情である。

「何を言ってるんですか。本来であれば半年から1年かかってようやく習得できるくらいの内容を、わずか1週間ですべてを済ませるのですから、これくらいでへこたれては困りますよ」

「で、でもそれだけ槍を振り回して、よくディアルト兄貴は疲れないよね?普段どれくらい槍を振り回したり突きをしたりしてるの?」

「最低でも毎日1000回くらいはやってますよ。妹のレフィルは500回くらいです。初めこそ息が上がってましたが慣れてしまえば意外と苦にはなりません。それに父上はキュアン様から直々稽古をつけられていたときに、多いときには1日10000回も振っていたこともあるそうです」

「10000回・・・!!」あまりの数の多さにエイシャは絶句している。

「父上自身は気付いていなかったそうですが、1日中槍を振り回していたこともあって、かなり手の皮がめくれたそうです。リーフ様の母上のエスリン様に指摘されるまで気付かなかったそうで、あとでキュアン様がしかられたそうです。それでも父上はキュアン様やエスリン様の役に立ちたいと必死でした」

ディアルトからの話を聞いて、3人の稽古を見つめていたチュラも感心したように頷いた。

「俺もよく素振りして、手の皮がめくれることはあるけど、剣と槍じゃ重さがぜんぜん違うからな。フィンじーさんがいかに凄かったかよく分かるよ」

「私なんか槍を持ったのはいいけど、重くてすぐに手を離しちゃったもん。お兄ちゃんやディアルト兄ちゃん、エイシャお姉ちゃんはよくあれだけ振り回せるよね」とレイチェル。

「レイチェルの場合は持ったのが鉄の槍ですからね。初めての場合はこれよりも軽い細身の槍で慣れさせるんですよ」と、ディアルトはレイチェルに細身の槍を手渡した。

「本当だ~これなら私にも持てるし、ぜんぜん気にならないよ!!」初めこそ戸惑っていたレイチェルも、細身の槍の軽さに慣れたのか嬉しそうに槍を振り回している。もちろん人に向けては危ないので離れたところで振り回している。

「チュラもやってみます?細身の槍じゃ軽すぎるかもしれないので、この鉄の槍はどうですか?」と、ディアルトはチュラに鉄の槍を持たせてみる。

「う~ん、たしかにいいかもしれないけど、どちらかといえばもう少し重いほうがいいかも。これじゃ軽すぎて振り回したときに遠くへ投げてしまうかもしれないな」チュラがそう言うと、ディアルトは鉄の槍よりも重い鋼の槍を持たせてみる。

「これなら俺の腕にもしっくり来るな。重さも気にならないし、思いっきり振り回しても飛ぶことはない」よほど手にあったのか、チュラは突きの構えをしたりぶんぶんと槍を振り回している。

「間違ってもこれなら「流星剣」や「月光剣」などは発動しないでしょうね」とディアルトが安どの表情をする。

「あら、そんなことはないですわディアルト兄様。お兄様は以前ユングヴィ城で、リュカお兄様と弓の対決をしているときに弓で月光剣を発動させたこともありますよ♪」と、にこやかにエイシャが笑う。

「チュラ・・・それは本当ですか?」

「残念ながら事実だ。あとで母上に物凄く怒られたけどな。しょうがないじゃないか、出てしまったものは!!」と、チュラが拗ねてしまう。

「・・・もしかしたら槍だけじゃなく斧でも流星剣や月光剣を出すんじゃないでしょうね・・・」と、ディアルトが背中に冷や汗を感じていると、チュラがあっさりと言い出した。

「え、母上から聞いた話だと、母方のお祖父様は斧でも流星剣を出したことがあって、ロプトの魔法戦士たちを一度に5人倒したって聞いたけど」

「え、兄貴それほんとう?」恐る恐るエルトシャンが訪ねる。

「本当らしいぞ。斧で流星剣を発動させて、とどめには剣で月光剣も出したらしい・・・相手の首領をねじ伏せたらしいぞ」

「よかった・・・チュラと手合わせしなくて・・・」ディアルトが心のそこからほっと胸をなでおろしている。

「仮にディアルトに流星剣でも発動してみろ。母上だけじゃなく父上や下手するとフィンお祖父様になんていわれるかわかったもんじゃない・・・」と、チュラも冷や汗をかいている。

「アグスティとレンスターの外交問題にも発展しかねないしね・・・」ありえる話だけにエルトシャンもため息をついた。

「と、とりあえず休憩は終わりにしましょうか。これ以上話を続けていたらとんでもないことになりそうです・・・」と、ディアルトが休憩の終わりを宣言すると、エイシャとエルトシャンは再び立ち上がって槍の稽古を再開させることにし、チュラやレイチェルも3人の槍の稽古を見守ることにした。

休憩からすでに1時間ほどが経っていた・・・

第9話・完
第10話に続く・・・

<第10話・ランスリッター隊長の集中講義(その3)>

ディアルトによる槍の集中講義は1週間が過ぎた。

初めの稽古こそ槍に振り回されることが多かったエルトシャンとエイシャだが、日にちが過ぎるうちに多少重い鋼の槍でも、簡単に振り回すなどうまく使いこなせるまでになった。

そして講義の最終日となり、この日は1対1の実践的な稽古を行うことになった。

まずエルトシャンとエイシャが試合を行った。ただし本物の槍では怪我をさせてしまうので、槍の先端は木製である。
まずエイシャが先手を取ったものの、エルトシャンは軽く受け流す。何合か打ち合ったのだが、やがてエイシャの体力がなくなり動きが鈍くなったところをエルトシャンの槍が弾き飛ばした。エイシャは思わず痺れからか右手を庇うしぐさをした。

「大丈夫かい、エイシャ?」エルトシャンが駆け寄ると、エイシャはニコッと笑顔を見せ、エルトシャンの手を優しく握った。

「ええ、ありがとうエルト。負けたのは仕方がないけどでもやっぱり悔しいな。エルトったら全然息が乱れてないんだもの」
「そんなことはないよ。僕だって君の攻撃を受け止めるのに精一杯だったからさ。勝てたのは運が良かっただけ。エイシャだって自信を持っていいと思うよ」
「本当?ありがとう、エルト!!」
「ええ、エイシャももっと自信を持ってください。この1週間ですっかり槍の動きが前とは見違えるようになりましたからね」
と、ディアルトが褒めると、エイシャも「ありがとうございます、ディアルト兄様、わたしこれからも頑張ります!!」と嬉しそうに語った。

そして今度はエルトシャンとディアルトが試合をすることになった。
エルトシャンの従兄で、ディアルトの甥でもあるチュラが興味津々の様子で2人の勝負の行方を見守っている。

「実際にディアルトが稽古とはいえ戦っているところは、一度も見たことはないからな。じっくり見させてもらうぞ。もちろんエルトの戦いぶりもな」

「アニキに見られながら戦うなんて、ちょっとプレッシャーだよね・・・って!!いきなり何するのさディアルト兄貴!!まだ『始め!』の合図言ってないじゃないか!!」いきなり自分の顔をめがけて槍を突き出したため、エルトシャンが抗議をする。

「あ、申し訳ない。さっきは自分が審判していましたからね。ついつい自分のペースで始めてしまいましたよ」と苦笑いのディアルト。

やがてチュラの合図で試合が開始された。
まずディアルトが先手を奪うものの、エルトシャンも懸命になってディアルトの攻撃を凌いでいく。
すると一定の間が開いたあと、今度はエルトシャンが反撃に転じ、槍を突き出したりディアルトの槍をはらおうと攻勢に出る。

一進一退の攻防にエルトシャンの妹レイチェルも興奮しながら応援をしている。
「がんばれ~お兄ちゃん!!ディアルト兄ちゃんに負けるなぁ~」
「ディアルトの奴、エルトシャンにあわせて戦っているな。あきらかに『いつでも攻撃できるぞ』っていう姿勢がみえみえだ」とチュラが釘をさす。
「そんなはずないもん!!お兄ちゃんだってこの1週間頑張って稽古したんだから、きっとディアルト兄ちゃんにだって・・・」と、レイチェルが反論していたが、やがて勝負は決した。

ディアルトの目が一瞬鋭くなり、エルトシャンが退いた瞬間ディアルトの槍がすっと走った途端、エルトシャンの槍がはじき出された。

「勝負あった、ですね」ディアルトがにこ、と笑みを浮かべるとエルトシャンは両手を挙げて「降参」の意思を示した。

「あ~あ、負けちゃったか・・・やっぱりディアルト兄貴は強かったよ」エルトシャンも苦笑いしながら自分の槍を拾った。

「1週間前のことを考えたらエルトシャンもずいぶん強くなりました。ですが、攻撃するときやや躊躇するところがあるみたいですね。稽古とはいえ真剣勝負なのですから一瞬の気の緩みが命取りになりかねませんからね」と、ディアルトが解説していると・・・

「とはいえ1週間で互角に息子と打ち合うようになったのだから上出来じゃないですか、エルトシャン王子」
ディアルトが慌てて振り返ると、ディアルトの父であり、チュラたちの祖父であるフィンが優しい笑顔で見つめていた。

「ち、父上!?」
「フィンお祖父様!?」
「フィンおじいちゃん!?」
ディアルトはもちろんのこと、チュラとレイチェルは驚き、エルトシャンとエイシャにいたっては呆然とした表情で見ていた。

「ち、父上・・・どうしてここに?」
「ディアルトの稽古の様子が気になってね・・・というのは仮の理由で、本音は、久しぶりにかわいい孫たちの顔が見たくなったのだよ。もちろんラケシスもここ(ノディオン)に来ているぞ」
「母上まで!?」
「兄さん~!!」
と、ディアルトが振り返ると、今度はディアルトの妹であるレフィルが抱きついてきた。

「レフィル!?どうしてお前まで・・・第一ランスリッターはどうしたんです?」もっともな理由をレフィルに訪ねるディアルト。
「だってお父様やお母様がノディオンにいくって言うのに、私だけ置いてけぼりなんてずるいもん!!ランスリッターはデュラン兄さん(リーフとナンナの息子)に預けているから心配いりません!!」とレフィル。

「ちなみに父上や母上は知っていたのですか、フィンお祖父様たちが来られることを?」とチュラが訪ねる。
「いや、もちろん内緒に決まっているじゃないですか。さっき城を訪れたらデルムッドたちが驚くこと驚くこと。アレス様に至ってはラケシスの姿を見た時の驚きようったら顔面蒼白でしたからね。見ていて楽しかったですよ」ニヤニヤと、意地悪な笑みを浮かべるフィン。

(お、お祖父様ってもしかして意外とお茶目なのか・・・!?)

尊敬していたフィンの意外な一面にチュラは思わず頭を抱えそうになったのだった。

「とりあえずは城に戻りましょう。デルムッドたちもお茶の用意をして待っているそうですし、皆さんいきましょう」
フィンが言うとチュラたちは一時稽古を中断し、城内に戻ることになった。

第10話・完
第11話に続く・・・

リーフ:短編集(2)はここまで!!続きはパート3に移るよ~

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