前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

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南セントレア大騒動




 愛知県知多郡美浜町と南知多町は合併にむけての準備が進められていた。合併後の新市名は法定合併協議会から公募したが、応募中になかった「南セントレア市」に突然決まった。これには地元のみならず全国からの批判が相次ぎ、協議会は新市名を一旦白紙に戻し、両町民にアンケートを実施することになった。公募の「南知多市」「美南市」など応募数の上位の作品と「南セントレア市」の中から一つを選択するというものである。しかし、アンケートと同時施行された合併の是非を問う両町の住民投票の結果、両町とも反対が賛成を大きく上回ったため合併話自体がご破算に追い込まれ、名称問題は雲散霧消となった。

 美浜町長は「美浜町民は現状のままを選んだ」と受け止めたが、「南セントレア市」騒動が影響したことも否めない。美浜町の反対派の住民は「協議会が一度出した新市名を再び見直すなんて、これまでの協議そのものにも不信感が募る」と指摘した。

 「南セントレア市」、なんとも奇抜な名前だ。このほど開港した中部国際空港の愛称セントレアにちなんだ命名で、それ自体、英語のセントラル(中部)とエア(空)を融合させた造語である。新市名アンケート結果も、一位の「南知多市」10296票に対し、「南セントレア市」は1988票の三位で、仮に合併賛成だったとしても、この無国籍的市名は誕生しなかったことになる。

 平成11年7月に合併特例法が施行されて以来、いわゆる「平成の大合併」が急速に進んだ。行政の効率化は望ましいことだから、合併そのものにはとやかく言わないが、地名は歴史であり、伝統であり、文化である。それらを無視し、近くにできたランドマークの名前を借用し、方角を加えただけとは、なんたる安易な決め方だろうか。もっと知恵を絞るべきではないだろか。

 愛知県では、これ以外にも首をかしげたくなる新市名がある。師勝町と西春町が合併してできる「北名古屋市」、大治町、七宝町、美和町が合併してできる「名西市」、佐屋町、佐織町、八開村、立田村が合併してできる「愛西市」。これらの名称は、名古屋や愛知の名称を借用し、位置関係を示したものにすぎないのだ。

 ところで、「南セントレア市」について、ふと気づいたことがある。良い、悪いという以前に、言葉の用法がまちがっているのだ。地名で、南○○、東○○という場合、○○とは、より大きな地域のことをさす。たとえば北アルプスというのは、日本アルプスの中の北の部分をさしている。南知多町は、知多半島の南端に位置している。しかし、これが「南セントレア市」になったら、知多半島全体が「セントレア」でなければおかしいということになる!



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