前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

雲泥の差じゃけん!




 前代未聞だ。なんと、試合中に主力選手がベンチ裏で喧嘩をするとは…。

 4月6日、広島市民球場でおこなわれた広島-中日の8回裏、広島の攻撃中に、ロペスがベンチ裏で前田に暴行した。前田の走塁に腹を立てたことが原因である。

 伏線は2度あった。2回一死二塁と8回無死二塁。ロペスはいずれも中前打を放ったが、足に不安を抱える二塁走者の前田は、点差が開いていることもあり、三塁でストップした。自らの打点が増えなかったロペスがこれに怒りを爆発させたのだ。

 事態を重くみた山本監督は、「自分の成績だけを考えてプレーする者はチームに必要ない」と、ロペスの登録抹消を発表した。球団も、厳重注意を含めた処分を下す予定である。

 この事件について、広島ファンの友人に意見を聞いてみた。
「どちらに非がある、とは思わない。どっちもどっちだからね。むしろ、悪いのは監督かな。前田や野村、緒方に対する贔屓は目に余るし、ロペスに対する思いやりのない発言には心底腹が立ったよ」
なるほど、そういう見解もあるのか。暴力は言語道断だが、それ以上に問題なのは、配慮の足りなかった広島首脳陣というわけか!

 前田が全力疾走できないことは承知の上、その結果、こういったホームインできない状況が起こり得ることも予測できたはずである。前田を代打専門にすべきとは言わないまでも、打順を後ろのほうにするとか、8回なら代走を出すなど考慮すればよかったのだ。それこそ、首脳陣がやるべき采配である。

 そういえば、ロペスがヒットを打ったシーンがスポーツニュースで流れていた。前田が三塁で止まった時、「オイ、どうしてマエダはホームに突っ込まないんだい?」というように両手を広げ、何か言葉を発しながらアピールしていた。その視線の先にはベンチにいるディアス、さらには腕組みをしている山本監督。この時点で何もしなかった首脳陣にも責任があるのではないだろうか。明らかにコミュニケーション不足だと思う。

 それにしても、いきなり殴りかかるとは、以前から積もり積もっていたものがあるのだろうか。消化試合の帳尻あわせでもないし、自分の打点の一つや二つでそんなに怒るとは思えないのだ。

 元々判断の悪い選手や足が遅い選手だったら、ここまでこじれるはずがない。前田という抜群のセンスの持ち主が、全力疾走できなかった。もしそれが、怪我をかばってのプレーであれば怠慢と、ロペスをはじめ他の人に思われても仕方がない。しかも前田はここ数年、ろくに出場していないのに、過去の実績でもって球団から寵愛されている。そんな過剰な特別扱いとでもいおうか、それに対する苛立ちは存在するのではないか。

 ロペスは勝負強いバッティングで毎年安定した成績を残し、打点王にも輝いている。チームの誰よりも得点に貢献しているのに、契約はあくまで単年である。

 外国人選手の立場は厳しい。日本人がスタメンで活躍すると、怪我をしても何年も待っていてもらえるが、外国人は違う。怪我をしたり、不調になればすぐクビである。日本人なら年棒ダウンで済むのに…。それに、外国人はどんなに頑張っても、チームの顔である日本人選手より年棒が上回ることはない。こういう歪んだ組織に、ロペスは憤りを感じたのかもしれない。故障で何年も働いていないのに年棒は自分の五割増し、しかも自分だったらあっさり解雇されるような成績でも、残留どころか特別扱いされている前田は、ロペスの目にはどう映るだろうか。

 実は、ロペスは打点重視の契約をしている。球団からお墨付きで、個人記録のために頑張れといわれているようなものである。馬の前にニンジンをぶらさげるようだが、その気持ちを利用して、ロペスに活躍してもらおうという、出来高制の契約である。数字を残さなければ簡単に切られてしまうわけで、そんな必死の努力を、自分とは比較にならないほど恵まれた立場にある選手が阻んだ、という意識があるのかもしれない。

 だからといって、殴っちゃいけません…。自分を正当化する手立てにはならない。

 前田の心境も心配だ。一選手として、全力で走れないのはどういうことか。それは彼も痛いほどわかっているだろう。今後、同じような状況でランナーになったら、どうしても今回のことが頭をよぎってしまうだろう。これまで、チームに迷惑をかけた、一生懸命応援してくれるファンのためにも、もう怪我はしてはいけない、と足をかばってしまうこともあるだろう。人間だもの…。

 シーズンは始まったばかり。今年の広島は前評判がよく、かなり不気味である。上位進出のためには、前田もロペスも欠かせない戦力。内紛で崩れるなんてもったいない。厳重注意でとどめてほしい。くれぐれも、早まってロペス退団なんてことのないように!円満に解決することを心から望んでいる。




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