いよいよ帰省することになった。
前日、動物病院で食事用のグロース缶を購入した。宅配便で送れるものは全て実家に先に送った。獣医さんから、「水を飲まさなくても6時間ぐらいだったら大丈夫。ただ、酔うかもしれませんね」と言われたので、出発の朝は、早めにご飯を食べさせた。
新幹線の中では、るんは本当に静かだった。足元にキャリーバックを置いていた。あまりにもあまりにも静かだったので、死んだのではないかと、ときどき、洗面所でキャリーバックの中を覗いた。生きていたのでほっとした。
それほど、いい仔にしていてくれた。
新幹線から降りて、タクシーに乗ったとたんに、るんは大騒ぎしだした。
キャリーバックの中がなにやら臭う・・・。うんちをしていた。そして、
嘔吐も・・・。運転手さんがさっと窓を開けてくれた。本当にごめんなさいというのがやっとだった。
家に着いて、父の部屋にキャリーバックを置いた。父が「犬はどこにいるんだ?」といったとたんに、キャリバックが大暴れしだした。慌てて、るんを出してやると、父の顔が一気に緩んだ。
父はもっと大きい仔犬を想像していたらしい。あまりにも小さい命に戸惑いの表情となんともいえない愛しさを隠しきれなかった。
父はるんのためにケージを用意してくれていた。
るんは初対面の父にも愛想よく飛びついて、嬉しくて仕方ない様子だった。
こうして、るんの初めての新幹線の旅はあっさりと終わった。
そして、その夜、そろそろ寝ようかと思ったとき、父がトイレから私を呼んだ。トイレの便器の中に鮮血が飛び散っていた。その年の8月にも父はおしっこに血が混じっていると言ったことがあった。かかり付けのお医者さんに話したら、お年寄りにはよくあることだから、大丈夫でしょう・・・ということだった。でも、今回はとても嫌な予感がした。