【 傘 】

彼女が彼と知り合ったのは、あるサークルに入ったのがきっかけだった。
老若男女、学生はいないが、主婦や様々な職業の人がいた。
彼は彼女より5歳上だが、年齢に関係なく和気あいあいとしたサークルで、集まりの後は二人を含めた仲間でよく飲みに行った。
次の日が休みだと、車に乗り合わせて遠くへドライブに行ったり、集まりが無い日も誰かの家に遊びに行ったりしていた。

その日は小雨がちらついていた。
サークルの発表会のあと打ち上げがあり、二次会へとつぎつぎ向かう。
たまたま彼女と彼は最後になった。
外に出ると相変わらずの雨。
彼女は傘を開き、なんのためらいもなく彼の上に差し出した。
彼は傘を持っていなかった。
「俺が持つよ」
二人で一つの傘に入り二次会の居酒屋へと10分程歩いた。

彼と二人だけで話すのは初めてだった。
とりとめのない事、彼ははにかみながら、彼女も少し照れながら話した。
ほろ酔い加減が気持ちよかった。
「実は前から気になっていたんだ」
「・・・・・」
本当は彼が自分のことを気にかけていたのを彼女は感じていた。
「本当? 少しうれしいな」
「少し?」
「だって奥さんと子供いるじゃない」
他の仲間はどんどん先に行ってしまい、二人の視界から遠ざかる。

お店に着くと入り口で彼は彼女を見つめた。
「もっと早く出会いたかった」
彼は彼女にそっと口づけをした。
彼女はうれしかった。本当は彼女も彼のことが好きになっていたのだ。
自分の心にブレーキをかけていた。

二次会の席で並んで座った二人は、他の人に気づかれないように、テーブルの下で足を付けたり手を握りあったりしていた。
気持ちが通じあったことの喜びでいっぱいだった。

二次会が終わり外へ出ると、雨は雪に変わっていた。
この地方では雪で傘はささない。

「おーい、三次会行くぞ~!」誰かが言った。
彼と彼女はまた最後になった。
一つの傘、二人並んでみんなの後ろをゆっくり歩いて行った。





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