RSプレイヤーによる日記のような何か兼レビュー倉庫

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キーリ―死者達は荒野に眠る


 「孤独な少女キーリと、生きる意味を見いだせない青年ハーヴェイの変化」や、「兵長を送り届ける」という大きなテーマと、「××で出合った○○という霊の話」という短編集的なテーマを同時に楽しめ、なかなか面白い。そのせいであっという間に読み終わってしまい、少々物足りなかったというのはほめ言葉である。
 旅の始まりのちょっと浮ついた空気と、幽霊話のゾッとする感じと切なさと、ハラハラドキドキ感が絶妙にブレンドされて、読んでいて飽きの来ない「読ませる」文章になっている。そんな意味で、2話の「切符を拝見いたします」は特に面白い。また、いつもおとなしいキーリの時折見せる過激な言動は、この作品の強烈なスパイスになっていて、これも多くの読者が「キーリ」に引き込まれる大きな要因だろう。『神さまというのは きっと完全無欠に立派で公平な人格者で、強い者にも弱い者にも、お金持ちにも貧乏人にも、ただ平等に見守るだけで 決してどちらか一方をえこひいきして手を差しのべるなんてことはしないのだ。なんてありがたいんだろう。死んじゃえ。』
 キャラ作りもしっかり工夫されている。物静かだけれど案外行動的で過激な一面もあるキーリ、普段は素っ気ないけれどちゃんとキーリを大事にしているハーヴェイ、個性的で口の悪い霊の憑いたラジオ、と、主役達の組み合わせも話を面白くしている。
 ただ一つ気になったのは。ハーヴェイとヨアヒムの敵対する理由がちょっと弱いのではないか、ということ。もっと明確に、説得力のある感じで書いて欲しかったな、というのはある。しかし、そんな些細なことは問題ではなく、この作品は十分良作といえるだろう。

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