RSプレイヤーによる日記のような何か兼レビュー倉庫

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ほうかご百物語


「いきなりで悪いけど、あなたの血、吸ってもいいかな」
 だが、彼は妖怪マニアの先輩の言葉を思い出しその場をしのぐことに成功する。彼女の正体はイタチで、正体を見破られた妖怪は大人しく退散しなければならないのだ。けれど彼は凛とした彼女の容姿に心底惚れてしまっていて、彼女と『いつの日にか絵のモデルになって欲しい』という約束をした。いつになるかはわからないけど、それまでに彼女を描くに相応しい技術を身につけようと決意を秘めながら。
 ところが、翌日早々にイタチさんは美術部に出没。どうやら約束を果たす時まで彼のことを守ってくれるようだ。だが、時を同じくして学校内で不可思議な現象が起り始めて――
 「キノの旅」の時雨沢氏も評するとおり、「イタチっ娘萌え」な話。ちょっと言葉が拙くて、恥ずかしがり屋で、けれど一生懸命なイタチの物の怪イタチさんがヒロインで、この作品の唯一と言って良いほどの非常に大きなアピールポイント。もし彼女がいなかったら(もしくは設定が異なっていたら)、この作品は大賞をとれなかっただろう。それほどまで、台詞からイラストまで「可愛らしい」という言葉が似合い、男女問わず(明らかに男性の方が多いだろうが)気に入る人は多いのではないか。逆にいえば、「イタチさん」を生み出した作者はとてもいい仕事をしたといえる。
 しかし、うんちく、萌え、コメディと、バランスよく安心して読める反面、残念ながら「安定し過ぎ」ていて小さくまとまってしまっている。「新人らしくない」と言ってもいい。読んだ後に、「イタチさん可愛かったなぁ」くらいの感想しか持てないのだ。そこのところが、大賞としてはどうなのかな、という疑問ではある。が、しっかりまとまった上の「イタチさん」であるので、理論的には全く問題は無いのかもしれない。

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