RSプレイヤーによる日記のような何か兼レビュー倉庫

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クリス・クロス 混沌の魔王


 日本初のバーチャルRPGノベルということで、作者への敬意も含めてラノベ好きなら読んでおくべき作品だろう。「ダンジョントライアル」のクリア条件は魔王「ギガント」を倒すというごく単純なものだが、「リザレクション」などのいわゆる「生き返り魔法」が無く、読んでいても中々のスリルを味あわせてくれる。緩急のしっかりしたゲーム進行や、くどくなりがちなルール解説を上手くすっきりとしていることなども、飽きさせずに最後まで読ませる良いポイントになっている。
 また、この作品の特徴は、通常、世界を創ったら後は傍観者であり続けるはずの神(ゲーム製作者)が下界(プレイヤー)に干渉してくるということだろう。だから、「神」の理不尽な娯楽に付き合わされる哀れなプレイヤーたち、というはらわたが煮えくりかえるような理不尽な話も嗜好によっては楽しめるかもしれない。
 さらに凄いところは、今まさに過剰なまでに問題視されている「現実と仮想現実の区別」についてをテーマにしている点だ。特に深く言及しているわけではないが、執筆された時代を考えると作者の発想力は称賛に値するものがある。しかし面白いのは、「もうゲームは終わったから安心していいんだよ」とは言ってくれない所だ。あえてフィクションとノンフィクションの線引きを曖昧にし、プレイヤーあるいは読者を恐怖と不安のどん底に陥れている。にくい書き方だ。結末でも真相を明らかにしなかったのは、もしかしたら近い将来バーチャル技術が進歩し、「ダンジョントライアル」が実現した時のための警鐘なのかもしれない。

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