RSプレイヤーによる日記のような何か兼レビュー倉庫

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塩の街


 最初の切ないエピソードからこの「塩の街」の世界に惹きこまれた。そのイメージ、キャラクターが、どうにも読者をそわそわわくわくさせる。そうさせるだけの筆力がこの作者にはある。「海に行きたい」という男性の物語は、後半に出てくる「愛」に関する話題のとても大きな伏線になっている。一つのエピソードをまるまる「愛」を語るための伏線にする力量には感服した。前半のSF的な展開を少女の恋物語に置き換えていく構成が特徴的で、独特な世界観を作り出していて非常に魅力的である。
 ある日突然訪れた滅び。その時に人間がどんな行動を、心理を見せるのか。運命を受け入れてただ滅びゆくのか。実際我々がそんな事態に直面したら、そうなってしまうかもしれない。だがこの作品では、愛を貫くために滅びに立ち向かう男女が描かれている。「愛は世界を救う」でも無く、「愛はかかわった当事者達しか救わない」でも無い。「世界を救うべき者達の愛は世界を救う」ということだろう。「普通の女の子が一生懸命恋をして、最後に少しだけ世界が変わったら素敵だと思います」とはあとがきでの作者の言葉で、実際そんな話だ。全体を通して美しい恋愛物語が楽しめる。
 だが、前半部の密度に比べ、後半は少々薄い感じがしてしまう。米軍基地襲撃は秋庭の最大の見せ場になるべきだが、ここが省略されていて物足りなく感じる。この物語は恋愛が主軸になっており、その辺りは仕方のないことであるが、読者の立場からすると秋庭の活躍も見たいところである。少し厚くしてでも入れて良かったのではないだろうか。

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