RSプレイヤーによる日記のような何か兼レビュー倉庫

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リングテイル 勝ち戦の君


 第6回電撃ゲーム小説大賞受賞作であるが、それまでの受賞作がSFに偏っていたのを考えると少し毛色が変わった印象を受ける。だが「正統派ハイ・ファンタジー」と銘打っているだけあって、非常にエンターテイメントなファンタジーに仕上がっている。著者の円山氏は大学院で中世イギリス史を専攻されていて、その知識を生かした工房や重苦しい城塞などの描写には生々しい現実感が感じられた。
 このようないわゆる「剣と魔法のファンタジー」における一つの重要な要素として「魔法の体系」がある。ありえないことを引き起こすギミックとして使われる「魔法」をどう導入するかに著者のセンスが現われてくるのだ。これがあまりにご都合主義だったり陳腐だったりすると、他のキャラクターや世界観が良くても一気に興ざめしてしまう。この点、この作品では魔道師見習の少女を主人公に据え、彼女の成長とともに魔道体系から「護符」とよばれる秘密の魔法具に至るまで順を追って明らかにされていくことで読者を納得させている。魔法を使うためには正確なイメージを形作らねばならず、そのためにデッサンの修行をする、というのがユニークで面白い。また、舞台となる異世界の描写も典型的な中世ヨーロッパ風で驚きは無いものの、魔法や物語の鍵にもなる「怪異」とも絡めながら堅実にされている。
 勝利を得るためには何かを犠牲にしなければならないなど、和製ファンタジーの匂いがぷんぷんしてくるところは人それぞれ受け止め方に違いが出てきてしまいそうだが、少なくとも中世ヨーロッパ風YAファンタジーのなかでは頭一つ飛び抜けた出来であることは確かだろう。

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