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madamkaseのトルコ行進曲
Yaprak dokumu(落葉) その6
第61話
家ではシェヴケットとフェルフンデが待っていた。家の前までタクシーに分乗してきた2家族はそこで別れた。今夜の母は勇ましくネジュラの口惜しさを晴らしてくれた。ネジュラは母に礼を言う。だがレイラは不機嫌に窓から外を睨んでいる。門から入ってきた父と目が合ってしまい、無性に悲しくなって泣き出してしまった。
ネイイル親子を門口まで送ってきたアフメットは誕生日を祝って貰ったので「素敵な夜をありがとう」と礼をいう。ネイイルもアフメットの気持ちがわかり、ほのかに心が傾いているようだ。アフメットは幸せな気分で帰っていった。
サロンに落ち着いたみんなが楽しく今日の出来事を語り合う。ネジュラの嬉しそうな顔を見ると一旦は降りてきたレイラが、逃げるように2階に上がってしまった。みんながネジュラをちやほやして外で食事までしてきたことが不快でならないのである。
アリ・ルーザとハイリエも席を立った。フェルフンデが部屋に入ろうとシェヴケットを誘うと彼は「眠くないんだ」と立たなかった。レイラは2階でなにやら支度を始めた。
一方アダパザールではタフシンとフィクレットが甘いものを食べて楽しげに語り合っている。例に
よって姑は嫌がらせをするが、フィクレットは以前ほど辛いと思わなくなった。そんなフィクレットを見て、タフシンはポケットからそっと指輪の箱を出す。
「これは、結婚式の日に君にはめてやるつもりでいたんだけど、今になってしまった。いいよね」
「ええ、ありがとう」
フィクレットは嬉しそうに手を差し出し、2人はニキャーフ・トレニ(結婚式)から8ヵ月余りも経ってから初めて結婚指輪を嵌めたのだった。
同じ頃、レイラは孤独の殻に閉じこもって泣いている。そして刑務所ではタラットがしきりにオウスのそばにやってきて何か言いたげな表情をするのだが、オウスは一瞥したきりで取り合わなかった。
土曜日の朝が来た。食後アリ・ルーザは書斎に1人こもっているレイラのそばに行き、ネジュラと仲良くさせようと諭すのだった。サロンではネジュラと母ハイリエがたくさんの洗濯物にアイロンをかけようと準備している。フェルフンデが何も手伝わないのでハイリエはアイロンかけをやらせようとする。しぶしぶフェルフンデはアイロンをかけ始めた。
ネイイルにアフメットから電話が来た。セデフが母とアフメットを取り持とうとしている様子である。シェヴケットにはヤマンから電話が来たので、彼は家を出た。外に出ると、ちょうど出掛けるセデフと出会い、船着場のカフェでお茶を飲みながら語り合う。セデフは「あなたが何かで必要ならば私のお金を使ってもいいわよ」と言うのだった。
フェルフンデがアイロンをかけたので、レイラとネジュラの服の区別がつかず、レイラのブラウス類の中にネジュラのブラウスが混じって部屋に置かれていた。レイラは烈火のごとく怒ってネジュラの部屋に押しかけブラウスを投げつけネジュラの頬を叩いた。
「サラック(間抜け)! 自分のものぐらいちゃんと自分で始末しなさいよ!」
アリ・ルーザはこれを聞きつけると険しい顔で眉をひそめ、「お前達は何をしているのだ、もう何も聞きたくない!」と2階の自室に引っ込んでしまった。
レイラは美容院に行くつもりで、フェルフンデと一緒に家を出た。船着場に来ると、お茶を飲み終わってカフェから出てきたシェヴケットとセデフにばったりと出会う。シェヴケットが船に乗るセデフと別れたあと、フェルフンデは「ヤマンさんのところに行くなんて嘘をついたのね」とひどく怒った。
ネイイルの家ではハイリエが胸につかえる悩みを聞いて貰っている。ネイイルはカーヴェの主人アフメットが結婚を申し込みそうだと語る。
「だけど、セデフを片付けないうちにはその気になれないのよ。縁談があればねえ」
「あらあら、うちの娘達にも縁談があるといいのにね」とハイリエ。
「だから私、おまじないしてるのよ。母親がやると効き目があるというんだけど」
「え、どんなおまじない? 私もやるわ、教えてくれない?」」 ハイリエは思わず身を乗り出した。
家ではネジュラが父に「家を出たい」と言う。
「ネジュラ、家族でも十人十色の人間が一緒に暮らしているのだから、思うようにばかり行かないこともある。時を待ちなさい」とアリ・ルーザは娘を説得するのだった。
フェルフンデやシェヴケットと別れたレイラは海辺に行きジャンに電話するが、ジャンの家では妻と子がそばにいたので電話に出ることは出来なかった。
その日、アダパザールではフィクレットと娘デニズが夕食の支度を始めようとすると、タフシンがファスト・フードから買ってくるから何も用意しなくていいよ、と車で出掛けて行った。
「ふん、休みのたびに外食に行くだの、持ち帰りで食べるだのと、すっかり横着な嫁の言いなりだわ、この無能女、どれほどうちの倅に無駄遣いさせる気だい!」と姑は相変わらず憎々しく文句を言うが、指輪もはめてしっかりとタフシンの心をつかんだフィクレットにはもう痛くも痒くもなかった。
文句を言った割には姑ジェヴリエはチキンのブロイラーを見ると子供のように喜んでよく食べた。
「そうだ、この骨でラーデス・ゲームをしようよ」と子供達が提案すると、みんなたちどころに賛成し、ジェヴリエはいたずらっ子のように喜んで参加した。 ※ラーデス・ゲーム(後記)
アリ・ルーザの家ではハイリエがあちこちの引き出しを開けてはベルトを集めていた。おまじないに使うのである。ジャンを呼び出せなかったレイラはむっつりとして帰ってきた。アリ・ルーザはハイリエに宣言させる。
「これからはみんな家で揃って夕食をとることにする。外に出ているものも夕食までに帰るよう言いなさい」
シェヴケットがセデフと密会していると誤解したフェルフンデは、夫をもっともっと締め付ける気でいたが、呼び返されて不承不承家に戻ってきた。フェルフンデにとっては、若夫婦だけで少しは外で遊びたいと思ってもなかなか叶わないので、不服そうに聞いた。
「今夜はなにか、格別なことでもあるんですか、お父さん」
「そうだよ。今晩から夕食は全員揃って食卓を囲む。反論は許さん。そういう日なんだ。いいね」
ネジュラも席に着いた。母を間にして座ったレイラはまだ怒っていた。
アダパザールではみんなが賑やかにチキンをほおばりともかくも楽しく食事をしているのに、アリ・ルーザの家ではまるでお通夜のように全員がひっそりとむっつりとフォークを運び、盛り上がらないこと夥しい。 しかしアリ・ルーザは家長としての威厳に満ちて言うのだった。
「みんなが一つテーブルで一緒に食べることは非常に大事なことだよ。これからはいつもこうするつもりだ。みんなそのつもりでいるように」
アダパザールでは夕食後、ラーデス・ゲームをしている。ラーデスはチキンの翼の付け根にあるV字形の骨のこと(Rades kemigi)で、2人でそれぞれの手に持ったラーデスを絡ませて引っ張り合う。どちらか骨が切れずに残ったほうが仕掛人の権利を獲得、相手に何食わぬ顔で品物を手渡す。そのとき渡されたほうは「アクルムダ(分かっているよ、憶えているよ)」と言えば、いまゲーム中だということを認識していて騙されないわけで、仕掛け人はまた別の手を考えなくてはならない。もし、騙されて黙って受け取ったら、仕掛け人の勝ちである。
家族全員が参加して勝ったり負けたりしながら楽しい時間を過ごしていたが、食事の後片付けをしているフィクレットにジェヴリエがまたぐずぐずと文句をつけ始めた。黙って聞いていれば際限なくエスカレートしていくジェヴリエの嫌味に、フィクレットはついに怒って、
「なんとでもおっしゃい! ああ、もうたくさんよ、もう嫌! 私はイスタンブールに帰るわ。終わりよ、この家の暮らしも終わったわ!」と甲高い声で叫びながらギリギリ指をひねって指輪を外し、ジェヴリエの手にバン!と押し付けた。
その剣幕に驚き、指輪を握って呆然と口を開いたままフィクレットを見つめるジェヴリエ。タフシン始め子供達も息が止まるほど驚いて、どうなることかと固唾を呑んで見守っている。し~んと凍りついたような数秒が過ぎた。突然フィクレットが沈黙を破った。
「あーっはっはっは。ラーデス、ラーデス。ジェヴリエ・ハヌム、まんまとひっかかったわね!」
ジェヴリエはまさかフィクレットがラーデス・ゲームを仕掛けたとは夢にも思わず、驚いて「アクルムダ」と言うのを忘れたのである。
その晩、タフシンは「フィクレット、君は俺をどんなに驚かしたか分かるかい。本気で言っているのかと思って、心臓が口から飛び出しそうだったぞ。子供達だってそうだよ」と言った。
「うふふ、ごめんなさい、つい・・・」
「ラーデス・ゲームをやってもいいが、指輪を道具にしてはいかん。いいか、二度とその指輪を外すんじゃないよ。俺は万事休すかと思ったよ。俺にとっては君がどんなに大事か、考えてくれよ。俺だけじゃない、子供達にとってもだ」
「もう指輪は外さないわ、許してね、ジャヌム(あなた)」
まんまとジェヴリエをわなに嵌めたフィクレットは満足して笑う。その笑顔がタフシンにはたまらなく魅力的だった。タフシンは母親に邪魔されずフィクレットと心身ともに結ばれたかった。その願いは果たしていつの日叶うのだろうか。
イスタンブールでは、ネイイルが意を決してアフメットに電話し、週末に会う約束をする。
アリ・ルーザの家の夜更け。レイラは明日の出勤に着ていく服などを揃えて支度している。一方弁護士ジャンも長い考慮の末、思い切って夫人の部屋に入り、寂しいのだ、と告白する。オヤ夫人も心が離れた、と思っていた夫がそばに来て嘆願するのを見ると胸がいっぱいになって思わず抱きしめた。夫妻は長いトンネルから抜け出そうとしているかに見えた。
アリ・ルーザの家では親夫婦がまだサロンにいる。ネジュラが部屋に入ろうと階段を登ってくると出てきたレイラと鉢合わせになった。レイラは妹を睨みつけながら言った。
「ちょっと。一緒に夕飯食べたのはお父さんが言ったからよ。そうでなければ、あんたと同じテーブルで食べたくなんかないわ。何一つ、昔と同じになんかならないのよ。それを期待しているなら図々し過ぎるわ」 レイラはつくづくネジュラを連れ戻して、と言ったことを後悔していた。妹の顔を見るのさえ不快なのだった。
深夜、バルコニーに出てきた母ハイリエの手には数本のベルトが握られていた。それを束ねて、西か東を向いて大きく振りながらまじないの言葉を繰り返すと、娘に縁談が舞い込んでくるというのである。長女はともかく、1人の男を巡って人生を大きく狂わせた姉妹を救いたいと、藁をもつかむ気持ちでまじないを繰り返す母。こうしてまたアリ・ルーザ家の1日が過ぎていった。
第62話
(撮影の仕事で視聴できなかったので、ざっとあらすじのみ)
家庭内部の不和、ごたごたに最も影響されているのは小さなアイシェだった。ある日、小学校の担任から電話が来て両親は呼び出された。担任の先生は「この頃のアイシェは注意散漫、勉強に身が入らず、著しい学力低下が見られます。ご両親もお兄さんお姉さん達も、もっとアイシェに愛情をそそいでやってほしい」
アリ・ルーザとハイリエはハッと胸を打たれた。担任に示されたアイシェの作文に、家庭のごたごたが語られ、親兄弟にかまって貰えない寂しさがにじみ出ていたのだ。
フェルフンデとレイラが仕事の休みの日に出掛け、さるカフェテリアで休憩したあと、フェルフンデがふと見ると、斜め横の席にオウスの子をベビーカーに乗せたジェイダが、母親と食事をしているところだった。
フェルフンデは赤子を褒める振りをして、嫌味を言う。レイラと来てはジェイダに挨拶もせず店を出た。その後レイラは一人でジャンのオフィスを訪ねた。そこにオヤ夫人がやってくる。彼女はレイラが来ているのを知ると、きびすを返して出て行ってしまった。
その日、刑務所ではタラットの金が何者かによって盗まれ、タラットをおおいに激怒させた。そして同じその日の夜、家に戻ったジャンとオヤ夫人は互いに激しくなじりあい、やはり別れは決定的になってしまった。
一方、アダパザールのタフシンは、フィクレットを連れて2泊3日の新婚旅行に出る。どうしても一緒に連れて行けと主張する母親をタフシンは退けたのだった。2人は初めてジェヴリエに邪魔されずに旅に出たのである。その夜、湖畔のホテルの晩餐で、着飾った2人はムーディな音楽に合わせてダンスを踊り、1年近くかけて育んだ互いへの愛を確信した。
アリ・ルーザ家ではレイラが眠れずにいる。母ハイリエはフィクレットを案ずるが、アリ・ルーザはこともなげに「新婚旅行に行っているんだ。心配することはないだろう」と言った。
ジェヴリエはタフシンの携帯に何度も電話を入れるが、彼は母親からと知ると切ってしまい、出ようとしなかった。口惜しがったジェヴリエは、日ごろこつこつと励んでいるフィクレットの刺繍を引っ張り出し、布をじょきじょきと鋏で切り刻んだ。
そうした姑の嫉妬をよそに、その夜タフシンとフィクレットには至福のときが訪れた。2人は初めて本当の夫婦になったのである。
第63話
次の朝、アダパザールでは切り裂かれたフィクレットの刺繍を見たデニズが、祖母のジェヴリエに「誰がこんなことを?」と聞いた。ジェヴリエは「私が知るかい。男の子達がいたずらして切ったんじゃないのかい」と小さな孫達のせいにする。
家では2階の寝室から同時に出てきたレイラとネジュラがにらみ合う。アリ・ルーザはレイラに、
「どうしてオヤ・ハヌムのカウンセリングに行くなんて嘘をついたのだ」と問い詰めた。
「ジャン氏とオヤ夫人はもう離婚寸前だと聞いた。お前が関わっていることはないだろうな、レイラ」
「お父さん、誓って言います。ジャンさんとは何もおかしな関係はありません」とレイラは泣いて訴えた。
シェヴケットとネジュラが一足先に出掛け、レイラには会社から迎えの車が来た。レイラは出かける前に父に打ち明ける。
「オヤ・ハヌムとのことを昨日はジャン・ベイに聞きに言ったのよ、お父さん」
「そうか、分かった。レイラ、何があろうと隠しごとをするんじゃないぞ。何かを隠せば自分を失うだけだ」とアリ・ルーザ。そして父と娘は連れ立って迎えの車に乗ったのだった。
シェヴケットとネジュラがミニビュスに乗っている。兄と妹は仲直りしたとは言いながら複雑な気持ちである。
刑務所ではボスのタラットが看守に言いつけて盗まれた金を探させる。いつもタラットにべったりの腹心の男が、自分の布団の下に隠したらしい空き缶入りの50YTLが発見された。
「兄貴、とんでもない。これは何かの間違いだ! 誰か、兄貴と俺の仲を裂こうとしたヤツの仕業に違いない」と必死に弁明する男に、タラットは冷たく言い放った。
「よせ、哀願しても俺は聞かないぜ。自分のやったことを考えろ。俺達のコウシュ(房)から出て行け!」
男はなおも「俺じゃない!」と叫びながら看守に引っ立てられていった。不快そうに手下を見送り次にタラットはオウスを見た。彼は相変わらず高慢に構えて横を向いたが、とうとう邪魔な腹心の男をタラットから引き離すことに成功したのである。オウスの口元には不敵な薄笑いが浮かんでいた。
外に出る家族を全員送り出したあと、家ではハイリエとフェルフンデが珍しく話し込んでいる。
「お母さん、ジャン・ベイはお金持ちで弁護士よ。年齢も相応だし、レイラの相手としてぴったりじゃないの。レイラがいようがいまいが、あの夫婦はとっくに終わってしまっているのよ。ジャン・ベイがきちんと別れてレイラに結婚を申し込んだら反対する理由はないじゃないの」
「そうかしら・・・フェルフンデ、あなたもそう思うのね。フィクレットにも聞いてみようかしら」
「そうよ、いま電話してみたら?」
フェルフンデはタフシンに電話してフィクレットを呼び出し、お母さんが話したがっているから、と無理にハイリエに受話器を押し付けた。
ちょうどそのとき、フィクレットはタフシンと共に最高の幸せ気分で、湖畔の景色を眺めつつルームサービスの朝食を取っていたのだった。母ハイリエの心配そうな声に「アンネ、メラーク・エトゥメイン、ヘルシェイ・ヨルンダ(お母さん、心配しないで。すべてうまく行ってるわ)」と笑顔で答えた。
次の日、アダパザールに帰ってきたタフシンとフィクレットは思ったとおりジェヴリエの大不興に遭遇したが、もうゆるぎない妻の座を獲得したフィクレットは余裕でこれを交わした。
アリ・ルーザ家でも夕食の支度が始まった。シェヴケットが残業で遅くなるといい、その実トランプ賭博に夢中になっているのだった。ジャンからフェルフンデの裁判の件で電話がかかってくる。
夜遅くシェヴケットががっくりして帰ってくる。両親は寝ずに待っていた。フェルフンデは親達に取り繕ってシェヴケットを部屋に連れて行った。アリ・ルーザとハイリエも床に就いたが、寝付かれないでいるとレイラに電話がかかってきた様子である。
アリ・ルーザはむっとしてハイリエにレイラの部屋に行かせた。ジャンがその夜、家には帰らずオフィスで夜を過ごす無聊からレイラに電話してきたのだった。母の姿を見るとレイラは慌てて電話を切って、誰と話していたの、と聞かれると言葉を濁した。
「レイラ、お母さんは思うんだけど、ジャンさんが本気なら受けてもいいじゃないの。きちんと離婚してからお前を貰いたいという話ならお母さんは賛成よ」
ハイリエが昼間フェルフンデと話していた通りに言うと、レイラは呆れて目を見張った。
週末には出かけることになったので、アイシェの髪を結いながらまたレイラとネジュラの口喧嘩が始まった。
アダパザールではタフシンが男の子達とプロレスごっこをして遊んでいる。フィクレットはやりかけの刺繍を探したが見当たらない。そのうちに無残に切り刻まれた布が別な戸棚から出てきた。
「誰、こんなことをしたのは・・・なんてひどいことを・・・」
デニズが悲しみにくれるフィクレットを見て、祖母に言った。
「おばあちゃん、さあ、誰がやったの、これ?」
するとジェヴリエはとぼけて下の男の子2人を呼びつけ、「正直に白状しなさいよ。あんた達のどっちがこんな悪さをしたんだい。嘘をつくと罰が当たるよ!」
「おばあちゃん。僕達は何にもしていないよ。どうしてそんなこというの?」と兄のメフメットが言った。誰がやったかは明らかだったが、誰も面と向かってジェヴリエには言えなかった。
乗馬クラブのサロンでは、シェヴケットが賭博にふけっている。負けがどんどん込んで行き、次の勝負で取り戻そうと必死である。フェルフンデはいたたまれず外に出た。ヤマンが新しい恋人のエスラを連れて現れた。フェルフンデに恋人を紹介し、ヤマンは中に入っていった。そのあとフェルフンデはジャンの姿を見つけ近づいていった。
その日、両親に手を引かれてアイシェはおもちゃ博物館に行った。そこにはオヤ夫人が娘のヤームールを連れて来ていた。挨拶を交わす親達を離れて、ヤームールとアイシェがおしゃべりをしている。
「ねえ、3階はもっと面白いのよ。あなたもおじいちゃんにお許しを貰って上がりましょうよ」
「ああー、ひどいわ。あれはおじいちゃんじゃないわ。お父さんよ」
父のアリ・ルーザを祖父と間違えられたアイシェは大むくれである。親同士は型どおりの挨拶をし、別れた。
留守番をするかっこうになったレイラは、ネジュラの部屋に忍び込み、そっと鞄を開けてみた。すると、自分と別れたオウスがネジュラと寄り添って幸せそうに笑みを浮かべる写真が出てきた。思わず悔し涙が溢れ、レイラは悲しみにくれた。
一方ネジュラはバイト先の出版社から、新進の建築家として頭角を現した若い女性建築家ハンデの取材に行ったが、そこに現れた彼女の婚約者はほかならぬあのジェムだったのである。めまいを起こしそうになってネジュラは責任者の許しを得て早退させて貰った。
※ ジェム=ネジュラの元婚約者。大学の同期生。2人の婚約式の日に、当時はレイラの夫であったオウスが、ネジュラの前に現れてそそのかしたため、婚約直後にネジュラはオウスと駆け落ち、ジェムを裏切った。傷心のジェムはアメリカへ留学してしまっていた。
シェヴケットは負けが込んで、もう賭ける金がなくなっていた。家にいるレイラに電話して、へそくりを届けてもらうことにした。彼女が出かける支度をしていると、両親とアイシェが帰ってきた。彼らは家の前で、ネイイル親子とアフメットが連れ立って外出から戻ったところを見たので、挨拶を交わしてから中に入った。すると外出着に着替えたレイラが出掛けるところだった。
「どこへ?」とアリ・ルーザは聞いた。ジャンのところにいくのではないかという疑いがちらと脳裏をかすめたからである。
「兄さんが忘れ物をしたので届けにいくのよ、お父さん」
「そうか。気をつけて行ってきなさい」
レイラを送り出したあと、アリ・ルーザはフェルフンデの携帯に電話してどこにいるのか聞いた。
「ああ、クラブにいるのでご心配なく。ジャン・ベイも一緒だし・・・」
何気なくフェルフンデは答えたのだが、アリ・ルーザはかっと血圧が上がった思いでレイラの後を追った。外は寒く、小雪のちらつくあいにくの天気だった。クラブの車寄せでタクシーを降りたアリ・ルーザを、少し早く着いたレイラと散歩中のジャンが垣根越しに見た。レイラは胸がどきどきした。シェヴケットが賭博をやっているうえに、自分はジャンと一緒にいるのが露見してしまうからだ。
アリ・ルーザは2階のサロンに上がっていった。会員制のクラブだがヤマン氏の知り合いということで中に入れて貰ったアリ・ルーザは、そこで見てはならないものを見てしまい、絶句して立ちすくんだ。わが目を疑ったが、それは現実だった。そこには、夫婦があらん限りの愛情をそそいで育てた孝行息子シェヴケットが、血走った目でカード賭博にのめり込んでいたのである。
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