自分のしあわせ願うことわがままではないでしょ？

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2004年05月23日

自分のしあわせ願うこと　わがままではないでしょ？

(2)

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何も危惧することはなかった。

昨日、15時。
待ち合わせ場所に現れた殿は、げっそりとやつれていた。
元からデブじゃないのに、身体が一回り小さくなったような気がする。
肩口のあたりもなんだか華奢で、首周りもほっそりしちゃって、可憐な女の子と歩いているようだ。

美術館を一周するとすっかりくたびれてしまったようで、
館内のベンチに崩れるように座り込んだ。

聞いてみれば毎日1時過ぎまで働いて、休日もないそうな。

「午前中は鍼打ってこようと思ってたんだけど、目が覚めたら12時半だった…」

「うん、肩と腰が痛くて…なんか手もしびれるし…」
「…」
「あとこないだサッカーやったときから足が痛い…」
「お願いだから休日出勤より先に病院に行ってください!!!!!」
「うーん…」

なんだか物凄い罪悪感。
そんなにしんどいのに無理やりひっぱりだして。
どうして想像できなかったのだろう。俺は馬鹿だ。

私が車を運転できたなら、ただちにクロロホルム嗅がせて後部座席に押し込み、
拉致って病院に担ぎ込むのに。
（嗅がせる意味がない）

時計を見たら6時前だったが、食事をとることにした。
生ビールを1杯ずつあけて、タイ料理をたいらげた。
色白の殿の顔は、グラスを半分もあけないうちに桃色に染まっていた。

食事を終えて駅に向かう途中、殿の携帯電話が鳴ってそのまま立ち話を始めた。
およそ25分間。

しかしそれを顔に出すわけにはいかなかった。

途中の駅で殿と違う電車に乗り換えた。
4時間弱しか一緒にいられなかったけど、
疲弊しきった彼にとって十分すぎる努力の結果の時間だと思うと、
1分でも早く帰してあげたかった。

ひとりの人間にそこまでの負担を強いる社会の仕組みというものが、
憎いですよ。
仕事の代わりをできる人間は他にもいるけど、
殿の代わりになる人はどこにもいない。
ふざけんな、休ませろ、これで殿が身体壊したりしたら会社に乗り込んでいって体制を改善しようとしないぼんくらどもの喉笛食いちぎってやる。

1ヶ月間で、ぱっと見てびっくりするぐらいやつれるだなんて。
沸々と怒りがこみあげてきて、涙が出てしょーがない。

でも、仕事をすることの大変さとその責任は殿ほどではないにしても、自分も少々わかるから、
そんなに働かないで、とか、休んで、とか逆撫でするような労りは口が裂けても言えない。
自分が同じこと言われたら「しょーがねえだろ!!」と言い返すに決まってるもの。

けれども、本心はもちろん、無茶はやめてほしい。ほんとやめてほしい。
最終的に会社は助けてはくれないんだから。
言えないけど。うぐぐぐぐぐ。

等等考えて茶の間で目を赤くしていたら母にどうしたのかと聞かれたので、
これこれかくかくしかじかで、こういう会社で大変な思いをしている知人がいるのだがフザケルナ、
とぶちまけたら
「うちにもそういうのひとりいるわね、人のこと心配する前に自分のこと心配したら？」
とあしらわれた。
ぜんっぜん違う、殿に比べたら私なんかガキの手伝いも同然だ。

そこで。
私にできる唯一の親愛の表現を考えた。
一切連絡しない。
これしかないだろう。
好きだからこそ余計なことで煩わせたくない。

自分の幸せを願うことは、わがままでしかないときもある。
それでもあなたを抱きしめたい、と思ってもだ。
ていうかそれはエゴで思い上がりだ。
殿が抱きしめたいのは枕だけだよ。当然だ。

さあ、携帯のメモリを消そう。

と、決めたものの、まだ消せないでいる（数時間経過）。
こんなことで一日中ウジウジして勝手にしょぼくれて、日が暮れてしまった。

いつもいつも気づかないうちにのめりこんでいて、
冷静にならなきゃと思ったときには、ひけなくなってしまっている。
学習能力というものがないのだな。

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