raskiのマジックとミステリの部屋

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セルフ・ワーキング・マジック



 まずは、弱点のほうを見てみたいと思います。セルフワーキング好きの私としては、そんなものはないといってしまいたいところですが、それもどうかと思うし、必ずしもそうは言い切れないので考察を加えることにします。

 1つ目の弱点としては、手順を覚えるのが大変だということがあります。特に、計算を必要とするものはその傾向があります。また、技法を使うマジックと違い、「やっているうちに体で覚えてしまった」ということがないのも理由のひとつです。ただし、ミラスキルの手順はおそらく忘れないでしょうし、技法を使ったマジックでも、ツイスティング・ジ・エーセスなどは手順を忘れる可能性があります。

 2つ目の弱点としては、観客の操作負担が大きいということがあります。何回も配ってもらったり、計算をしてもらったりというものがあることは事実です。その操作自体がトリックになっているという場合が多いので致し方ないことともいえます。ですから、演じるときは、この手のマジックをまとめてやらないなどの工夫が必要です。

 ただし、この弱点をもたないトリックも多く存在しますし、演出やストーリーで長さを感じさせないこともおそらくは可能です。たとえば、スリー・ジャック・ディールでは配ることを繰り返すことによって、さらに不思議さを増すという面があります。また、前に日記で書いたマグネティック・フォースは演出効果によって、たくさん配ることの冗長さを解消しています。

 3つ目の弱点としては、視覚的な現象ができないということがあげられます。セルフワーキングで、カードのカラーチェンジやコインを消したり出したりすることはなかなか大変です。(誤解の無いように言いますが、コインを使ったセルフワーキングマジックはちゃんとあります。カールファルブスやボブ・ロンジのテキストなど。)個人的な見解では、これがかなり大きな弱点だと思います。前の2つを克服しているマジックはいくつも思いつくのですが、この弱点を克服しているものがあまり思いつかないからです。

 ですが、メンタルマジックのような分野もあるのですから、悲観することはないと思います。

 個人的な考えですが、従来上二つの弱点によってセルフワーキングマジックを考える傾向が強かったように思われます。しかし、そうでないセルフワーキングマジックも結構あるということもまた重要だと思います。

 次には、長所について考えてみたいと思います。

それは、技法を使わないという一言に尽きると思います。(ただし、技法を使うとよくないという意味ではまったくありません)定義上、これはすべてのセルフワーキングマジックに当てはまります。では、技法を使わないことによってどのようなよいことが発生するのでしょうか?

 一般的には、技法に集中させるべきエネルギーを演出にまわすことができるということがよいといわれています。技法ひとつを行うには、タイミング、指先、ミスディレクションなどさまざまなところにエネルギーを使うわけですからそれを演出に向けるなら、理論上は演出が強化されることになります。ただし、手順を思い出すことにエネルギーを使ってしまう場合は例外です。

 2つ目は、カードの質にあまり左右されないということです。この点に関しては、あまり議論がなされていないような気がしますが、案外重要なことだと思います。

 プラスチックのトランプや、古くなったトランプ、使い慣れていないトランプで高度な技法を行うことは難しいと思います。しかし、カードゲームをやっているときのマジックをすることになったり、観客の家にあったトランプを借りてマジックをするということもあるかと思います。このようなときに、セルフワーキングマジックは活躍します。

 また、技法の使いにくい大きなトランプや、小さなトランプを用いることもできます。大きいトランプを使って、フォーエースのマジックを行えばインパクトが強いでしょうし、小さいトランプを使えば、それだけで演技にアクセントを加えることができます。

 そのほかには、種がわかりにくいと言うことが考えられます。自分で練習していて、どうしてうまくいくのか自分でも不思議になってしまうという経験をしたことがありませんか?そういうことです。ただし、種が分からなくても、「これは数学トリックだ」という風に疑われてしまう可能性はあります。

 確信はありませんが、そういうときには「数字には不思議な力があります」などといって演技を始めるのもひとつの方法ですし、「すばやい計算トリック」のように、超人的な数学能力があるように見せる演出にするという切り抜け方もあります。

 このように、弱点はあるものの、セルフワーキングマジックは結構魅力的だということができるのではないでしょうか。

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