まほろばのカンガルー

コアラ読書日記(1)

イラクの中心でバカとさけぶ
橋田信介　アスコム　1500円（税別）

先日イラクで亡くなったこともあり、何気に手に取った一冊。
戦場やるなら現地に入らねば！と過去にもベトナム戦争や湾岸戦争に乗り込んでいる。戦争の現場が好きなんでしょうね。
手段は行き当たりばったりのため、イラクに入国するのに偽物のビザだったり、自分もムジャヒデン（イスラム義勇兵）だと言い張ったり（どっからどう見ても日本の老人）、やってることはハチャメチャなんだけど、運がいいのか人徳か、うまく転がってしまう。ハッタリである。「戦場ジャーナリストは詐欺師」でないとやってられんと堂々と言ってしまう。
本の中で気になったのはこんな一言。
「命は使うときに使わないと意味がない」。そう言っておきながら「果たしてこの戦争で命を捨てるのに意味があるかどうか」と自答自問している。その後一度はイラクを出国したが、みなさんご存知のとおりまたイラクに入り、今回の事件になっている。テロリストは落とした爆弾の数だけ新しく生まれるのだと訴えながらも、自らがそのテロリストに狙われて命を落としてしまった彼の生き様はなんだかちょっと寂しくて切ないなぁと感じた。
あのイラクの少年の目に新しいイラクが写ることを祈りつつ合掌。
2004/6/5　22：42

うつくしい子ども
石田衣良　文藝春秋　1524円（税別）　

石田衣良といえば「池袋ウエストゲートパーク」ですが、他のも面白い。主人公の少年の弟が小学生の女の子を殺してしまい、その後加害者の家族として生活してゆくストーリー。周りの友人たちに支えられ、何故弟が犯罪を犯すことになったのかを、兄である自分が解明しようと奔走する。主人公も弟も中学生である。神戸の事件にインスパイアされてる話は最近多いが、これは事件の特異性より、事件の後に動き出す社会の様子に視点を措いている。事件のカラクリもあり、最後まで一気読みしました。
主人公の妹（小学生）が事件後、家族と追われるように家を出て、新しく移ったアパートの押入れの中で泣き疲れて眠ってしまうシーンではちょっとうるうるヤラれました。
5/30のＮＨＫトップランナーに石田氏がゲストで出演していました。
「変化しないものは滅びる」という一言が響きました。
6/5　17：15

犬連れバックパッカー
斉藤政喜　小学館　1200円（税別）

だいぶ前の本ですが、手に取ったのはつい最近。図書館のリサイクル本で無料で持っていっていいよという時に手に入れた一冊。
ヒッチハイク旅で著名なシェルパ斉藤が子供のためにゴールデンレトリバーを購入し、ヒッチハイクしながら家路に辿り着く旅の様子から始まる。生後六ヶ月のゴールデンのニホはなんとベビーカーに乗って最初のたびに出るのだ。私も無類の犬好きで、こんな犬連れのバックパッカーがいたら車に乗せてしまうだろう（必ず）。
気に入ってるシーンはこんなところ。八ヶ岳から東京へ向かう何度目かのヒッチハイクの途中・・・。寒い中、なかなか車が停まってくれず、途方に暮れていると上級セダンの品のいい夫婦に拾われるシーン。後部座席のドアを開けると、すでに犬が座席に上がってもいいようにとシーツが用意されていた。何気ない出会いかもしれないがやさしさが伝わってくる。
旅本なんだけど、一度読みに終わらず、何度も文中のニホに会いたくなるから不思議だ。読み返すたびに犬に触りたくなっちゃうんだよな。（犬がいないのでカンガルーでも触ってみます）。
6/6　8：14
波の上の魔術師
石田衣良　文藝春秋　１３３３円（税抜）

ちょっと前の作品。新米株式トレーダーの話。一気読みだけど内容が内容だけにスムーズには読めず、頭の中を整理しながら。
大学を卒業してパチプロになろうかな～という青年が自称個人投資家の老人にスカウトされ、株の売買をマスターしていく話。ほとんど実在の金融事件をベースに話は作られている。「波」というのは株式の上下する波のこと。金融を扱った小説はたくさんあれど、これまでに読みたいと思うものは少なかったが、さすが石田衣良氏。堅苦しくなく、最後まで読める。ところどころにサラリーマンの苦しさや、老人のこれまでの人生なども散りばめ、金の世界にも人情はあるよといってるような気もします。ただ最後のオチはどうなんだ？とちょっと思ったかなぁ。カンガルーも個人投資家の一人だから読ませたいな。主人公がカンガルーで、老人はいかりや長介・・・と想像して読んでました。経済にウトい人にもオススメの本です。
６/２１　１２：０５

生まれる森
島本理生　講談社　１３００円（税別）

女の子の高校３年生～大学１年生のことに起こった恋愛模様。島本理生は何度か芥川賞候補なりながらもまだ受賞には至ってない。透き通った生活感を表現出来る作家だと感じている。
誰が父親か、わからない子を妊娠するという気持ちは分からないが、１８歳の頃のちょっとフワフワしたような、まだ自分の確立した居場所がまだ見当たらない頃の気持ちを読んでて思い出した、というか「そういう時期」だったんだなぁと懐かしく思えた。こういう心情って「少女時代の終わり」ってことなのね、とあとがきで８４年生まれに教えられました。
高校のクラスメートでほとんど口を利いたことのない子と、その後卒業して仲良くなるというのは、私自身同じ経験があるのでその雰囲気がすごくよく掴めた。
少女時代を「森」と例えてる。
確かにあの頃の独特のもやもや感とか、自分の心に鬱積しているような気持ちって「森」なのかもね。中高生よりは、それをとうに過ぎた３０歳ぐらいの人が読んだら、いろいろ自分のことを思い出しながら読める本。
６/２１　７：００

思いわずらうことなく愉しく生きよ
江国香織　光文社　1800円（税別）

江国香織の本は好きでほど全作読んでいます。
このヒトの作品の主人公はたいていちょっと変わった考えの持ち主が多く、しかしながらその変わった考えの持ち主の行動一つ一つに「んー、そういうこともあるよな」と納得させられるのが多い。
「思いわずらうことなく愉しく生きよ」は年増の３姉妹の恋愛模様を通して、この３人のつながりが通常の家族のそれよりも濃厚であることを、あっさりとした（？）会話を繰り広げながら描かれている。
こんな姉妹はいるだろうかと思いながらも、「自分もそうするかも」と、自分とはまったく違う姉妹たちの中に、自分にもある感情を思いながら読み進めた。
姉妹たちの家には家訓があった。
「人はみないずれ死ぬのだから、そしてそれがいつなのか分からないのだから、思いわずらうことなく愉しく生きよ」というもので、３人はそれぞれに実践していた。
しかし、読み終えた後の「それはそうなんだけど、この読み終えた後のモヤモヤは一体？？？？」という気分になった。特に次女が恋人と別れた後、自分は相手をまだ好きだと分かっているし、相手もそうだと分かっているのに「いずれ同じこと」と修復しないのは理解できない・・・と思ったのは私がまだ子供だからなのか。
7/19　14：17
あなたが担当で良かった！
中村友紀子　青春出版社　１３００円（税抜）

もしも会社でお客様に接するような仕事についてる人にぜひ読んでもらいたい本。
クレーム処理の達人である著者がこれまでに経験してきたお客様からの苦情に対応した実話集である。
まだ文句を言われるだけならよい・・・こちらに非があるなら謝るのは当然ですからね。しかし相手側の勘違いによる一方的な罵声や、脅迫を持ったクレーマー、世の中にはいろんな人がいるものである。
それとは反対に、こちらのミスを気持ちを込めて謝罪した結果、相手から逆に励まされたり、お礼の手紙をもらったり・・・会社で読んでて思わずホロッときてしまいました。
一つ一つ話が区切られているので、短編小説を読む感覚で読むことが出来る。
苦情の対応をきちんとしてることが企業の商品の改善などにつながるため、その企業の体質みたいなものが見えてくる気がしますね。
７／１８　１４：４８

たったひとつのたからもの
加藤浩美　文芸春秋社　１４００円（税抜）

会社でＨさんが袋にいっぱいの本を持ってきて「この中で欲しい本があったら持っていってくれ」という中にあった一冊。以前からカンガルーと話題にしていた本だったため頂いた。明治生命のＣＭで話題となった著者の息子「秋雪くん」との６年間を書き綴ったものである。
父親が息子をギュッと抱きしめ、自分の頬を押し付けている。
何気ないワンショットであるが、その子供はもうこの世にはいない。
ダウン症と心内膜床欠損症を抱え、すでに生まれてすぐに命の宣告を受けるが、親子三人で頑張る姿は悲そう感より、限られた時間だからこそ充実しているようにさえ思える。
６年間の人生は短い。両親の苦労というものは想像以上に苦しいものだろうが、その一瞬一瞬に凝縮された時間というものは彼らにとっては永遠だろう。こんなに親に愛された秋雪くんは間違いなく幸せだったに違いないと、読んだ後にちょっと涙が出ました。
９／１２　１４：１９

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