小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

ちょうちょ結び




たぁ君が、一生懸命ちょうちょ結びをしています。

『えっと。こうなって、こうなるの。
そいでえいってひっぱって・・・あれれ?』

なかなか上手にできません。
ゆみこちゃんは泣き出しそうです。

せっかくお母さんが、髪に結んでくれた綺麗なリボン。
たぁ君てば、ふざけてほどいてしまったのです。

ひらひらと、嬉しそうに揺れていたちょうちょは、
ただの白いリボンになって、くったりと垂れ下がってしまいました。

『ちょうちょさんが、いなくなっちゃったよぉ。』

とうとうゆみこちゃんは、泣き出してしまいました。
たぁ君もなんだか、鼻の奥がつんとしてきました。

『ごめんね』の言葉は、たぁ君の喉に引っかかったまま、
ブランブランと揺れています。

その時、本物の蝶が、ひらひらふわふわと、
たぁ君とゆみこちゃんのところに飛んできました。

『あっ!ちょうちょだ。』
ゆみこちゃんは泣き止んで、叫びました。

『よし!僕が捕まえてあげるよ!』
たぁ君は張り切りました。
虫を捕まえるのは、得意中の得意です。

ちょうちょは、何かを探すかのように、あたりを飛び回っていましたが、
やがて花壇の薄紅色のたちあおいの花に羽を休めました。

たちあおいの花は、たぁ君よりもずっと背が高いのです。
でもたぁ君は諦めませんでした。

麦藁帽子を脱いで、そうっと爪先立ちで近づくと、
えいっ!
麦藁帽子がふわりと浮き上がり、花を掠めて地面の上に着地しました。

たぁ君はゆみこちゃんを手招きしました。
『ここが破れているだろ?こっそり覗いてごらんよ。』

たぁ君は、麦藁帽子についていた、青い飛行機のワッペンを、
ちらりとめくって見せました。

なるほど、親指の先ほどの穴ぼこが、麦わらがほつれて開いています。

ゆみこちゃんは片目をつぶって、穴ぼこに、
もうひとつのほうの目を、押し当てて見ました。

麦藁帽子の中は、真っ暗かと思ったのに、
網目の隙間から、日の光がたくさん差し込んで、
ぽうっと明かりを灯したようでした。

黒い地面に、細い細い光の糸が、たくさん編みこまれていました。
その中で白い蝶は、パタパタと羽音を立てて、一生懸命飛び回っています。
まるで、光るくもの糸に絡まって、必死に逃げようとしているようでした。

『すごいだろ。こんなにおっきなちょうちょ。』
たぁ君は得意げです。

本当になんて大きくて、なんて素敵な蝶なのでしょう。

『ちょうちょさん。かわいそう。』
ゆみこちゃんはつぶやきました。

たぁ君は困ってしまいました。
この蝶を、ゆみこちゃんにあげようと思っていたのです。

ゆみこちゃんがなおも覗いていると、だんだん、蝶はおとなしくなり、
麦藁帽子の裏に止まったまま、じっと動かなくなってしまいました。

『ちょうちょさん。死んじゃったのかな。』
ゆみこちゃんの目に、また新しい涙の粒が盛り上がりました。

たぁ君はびっくりしました。
せっかく泣き止んだと思ったのに、
本物の蝶をプレゼントしようとしてたのに、
ゆみこちゃんは泣いているのです。

たぁ君は、もじもじしました。
それから麦藁帽子をやにわに掴むと、いきなりさっと持ち上げてしまいました。

『あっ!』
ゆみこちゃんが声を上げると、麦藁帽子の中から、
ひらひらと白い大きな蝶が飛び出してきました。

『ほら、生きてるだろ?』
たぁ君がゆみこちゃんに言いました。

大物の蝶を逃がしてしまって、たぁ君はちょっぴり残念です。
でも、ゆみこちゃんは、嬉しそうに笑っていました。

『よかったね。ちょうちょさん。もうつかまらないでね。』

だけど、どうしたことでしょう?

白い蝶は、ふたりの間を飛び回るばかりで、逃げようとはしません。
おまけに蝶の飛び方が、なんだかダンスでも、踊っているみたいに、へんてこなのです。

 ふわり ふわり くるり ふわり

『わかったぞ!』
突然たぁ君が叫びました。

それからたぁ君は、もう一度ゆみこちゃんの髪のリボンを、
結びなおしてみました。

 ひらり ひらり くるり ひらり

そう。白い蝶の飛び方のように。

『できたぞ!ちょうちょ結び!』
たぁ君は自慢そうです。
ゆみこちゃんも大喜びです。

白い蝶は、たぁ君がリボンを結び終えると、そのまま舞い上がり、
青い空にゆっくりと、ふわりふわり飛び去ってゆきました。

不思議な蝶だったなあ。
それともあれは偶然かしら?

たぁ君は首を傾げました。
そうしたら、
『ごめんね。ゆみこちゃん。』
たぁ君の喉に引っかかっていた言葉が、
まるで開放された蝶のように飛び出してきました。

ゆみこちゃんはうなずいて、
『ありがとう。』って、にっこりしました。

これで、このお話はおしまいです。

でもね。
二人の知らないことがひとつだけ。

ゆみこちゃんのリボン。
時々こっそり、空を飛んでいるってお話です。
空を見上げてみてください。
なんだかおかしな白い蝶が、ふわふわ飛んでゆきませんでしたか?




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