颯HAYATE★我儘のべる

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青いのは芝生だけ? 2



「やあ」

呼び出しをかけられ、ホテルのロビーに出ると類が待っていた。

「ちょっと・・・仕事中に呼び出さないでよ。」

「―――昼休みでしょ。メープルの企画室はお昼もとれないの?」

確かに今は正午を10分ほど回ったくらい。

ホテルの表舞台と違い、交替休みというわけではないので12時とともに1時間の休憩がある。

つまり、あと50分は休憩時間ということだ。

「何か急用?」

質問には答えず、自分の疑問を尋ねた。

おそらく道明寺から何か言われたに違いないと察していた。

「久しぶりに一緒にランチとらない?」

「―――忙しいんだけど」

「忙しくてもご飯は食べるでしょ。よし、行くよ。」

類も顔に似合わず強引なところがある。

あの道明寺と長年、親友をやっていられるのだから当然か・・・。仕方なく類の後ろをついていく。






類が行ったのはホテル近くの公園だった。

そこのベンチに腰かけ、私にも座るように目線で促す。

「はい」

いきなり出されたものは小さな弁当箱。

荷物を持ち歩くことのない男が、大きなバッグを持っていると思ったら弁当を入れていたらしい。

少し大きめの弁当を自分用に出している。

「どうしたの?」

「うちのシェフに詰めさせた。」

「―――は?」

「今日、牧野に会うから久しぶりに弁当を食べたいと思って。」

類のこの言い方からすれば間違いなく偶然ではないし、ついでの訪問でもない。

私に会うためにここまで来たということだ。

「―――道明寺に何か言われた?」

私がそう問うと類はニッコリと微笑んだ。

「牧野はわかっているんだね、自分が司を心配させているってことが、さ。」

その通りだ、私自身、焦っていることも・・・それが司を心配させていることもわかっている。

だけど考えれば考えるほど、早くあの道明寺楓に認められたいという思いは強くなって焦ってしまう。

余裕がどんどんなくなっていく。

「―――わかっているけど、どうしたらいいのか・・・ね」

「牧野はさ、何をそんなに急いでいるの?」

「え?」

「急ぐ必要があるの?」

類の言っていることがよくわからなかった。

「―――何を言っているの?」

「牧野は、司が頼りにならないと思っている?」

本当に何を言っているのだろう。

そんなはずはないじゃないか、以前の道明寺ならともかく、今の彼は財閥を背負っていけるだけの力を身につけつつある。

そんな男が頼りにならないわけはない。

「そんなわけないでしょ」

「ふうん。―――ねえ牧野、牧野はどうしたいの?司のおばさん・・・鉄の女になりたいの?」

類はそう言うとつくしの返事も聞かず、「ごちそうさま」とベンチから立ち上がった。

その姿を訳もわからず、ただ呆然と眺めていた。

「牧野、ゴメン。時間切れだ。とにかく、色々考えてみなよ。牧野は雑草だろ、雑草が蘭にはなれないよ。

あ、弁当箱は捨てていいからね。じゃ!」

言うだけ言うと、手を振りながらサッサと行ってしまった。

「雑草は雑草に決まっているじゃない。―――まったく、金持ちって・・・弁当箱は使い捨てじゃないっつうの。」

つくしはボソっとつぶやくと弁当箱を手に取り、ホテルへと戻っていった。





類の言うことを少しは理解できる。

たぶん、私が道明寺楓に早く認められる存在になりたいと焦っていることを言っているのだろう。

急ぐというのはそのことかもしれない。

でも、彼女は随分と先にいるのだ、追いつくのは無理というもの。

だからこそ、少しでも差をつめたい・・・この気持ちはF4や滋さん、桜子にはわからないと思う。

小さい頃から英才教育を受け、何不自由なく育った人間には難しいと思う。

「焦るなって言われてもね・・・」

つくしはそう言いながら、自虐的な笑みを浮かべた。




翌日、西門さんがホテルへやってきた。

類のようにわざわざ来たのではなく、メープルで西門流の茶会が開催させるのだ。

茶会は企画室が受け持っているので、私も裏方として立ち会うことになるが、殆どお弟子さんがするのであまりすることはない。

ただホテルとして、お客様に不備のないように注意するのが私の役目だと思っている。

「よお、牧野」

和服姿の総二郎がつくしを見つけ、声をかけてくる。

「久しぶりだね。和服がさまになってるねぇ。」

「お前、誰にそれを言っているんだ?」

「西門さん」

「だから、俺を誰だと思っているんだってことだよ!」

「あ~・・・西門流の次期家元・・・だね」

「和服がさまになっていない茶道の家元がいるかよ」

言われてみれば、その通り。だけど、西門さんの和服姿なんてあまり見たことがない。

学生時代にお茶を点ててくれたことがあるが、数回のことで・・・キチンと和服姿で点ててもらったのは2回だろうか。

高校の時にF4や滋さん、桜子と花火をしたときは和服と言えば和服だったな・・・浴衣だけど。

ちょっと考えていると、西門さんがコツンと頭を叩いて笑った。

「お前、相変わらずしっかりしているのか、ボケているのかわかならい奴だな」

「なにソレ」

「昔からそうだろ。金銭面ではしっかりというかケチだけど、他のことではボケボケの奴じゃん。」

思い返せば、そうかも・・・という記憶がある。

だけど、F4から見れば誰もがそうなのではないかと思ってしまう。

「―――仕事、いいの?」

「俺の仕事は茶を点てて、客を寛がせること、もてなすこと。他の準備は弟子の仕事だよ。

俺も小さい頃はやってきたことだぜ?」

「そうなの?」

人の下について、仕度をする彼を想像するのは難しい。

F4はみんな、生まれついての指導者というイメージがある。人の下にいる4人を想像できない。

「お前、何か誤解してないか?俺たちだって修行ってのはあるんだぜ。

司だってそうだろ、あの傲慢で俺様な男だってNYでおばさんや秘書の西田・・・だっけ?

彼の下でミッチリ鍛えられたんじゃないか? 成長して帰ってきただろ。」

当然のことだ。だけど言われないと気がつけない。

何も学ばずして人の上に立つことはできないだろう。

私はそういうこともわからないほど、煮詰まっているのだろうか。

つくしは呆然としていた。総二郎はその様子を見て、微かに笑い、また拳骨でつくしの頭を軽く叩いた。

「準備ができたみたいだから、俺は行くよ。お前もしっかり仕事しろ。

不手際があると西門流の名折れだからな、俺の顔を潰すんじゃねぇぞ!」

そう言い捨てると、さっさと弟子の元へと行ってしまった。

「―――ホント、何をやってるんだろう・・・」






さらに翌日、美作さんがホテルの企画室を訪ねてきた。

「牧野」

「―――美作さん!?」

「久しぶりだな」

「って何、こんなトコに入り込んでいるわけ?」

「いや今日さぁ、ここで取引先と約束があって、今それが終わったんだ。

次の約束まで時間があるし、牧野の顔でも見ていこうかと思ってね。

フロントに言ったら、ここまで案内してくれたんだが・・・」

―――それは美作商事の御曹司だからでしょうね・・・

一般人が仕事中にホテル正面を訪ねて来ても、ここまで案内なんて有り得ない。

普通は入り込めない領域なのだ。

つくしはため息をついて、席を立った。

「で、もう見たでしょ」

「うわ、冷たいヤツだな」

いつもの軽い会話をしていると室長がやってきた。

「牧野くん、立ち話もなんだから応接室か会議室に行ったらどうだね?」

「え?あ・・・っと、そのへんの給湯室でいいですよ」

つくしがそういうと室長の顔色が悪くなった。

私にとっては友人だが、室長にとっては大得意のお客様。

それも美作商事という超大手企業の次期社長だ、機嫌を損ねるようなまねはしたくないのだろう。

「―――牧野くん・・・」

「あ、俺は別に給湯室でOKですよ。コイツの性格はわかってるんで」

気配りの人、美作あきらはニッコリと笑って室長を安心させた。

安心はしたようだが、私の態度はお客様空いてとしては怒られるべきだろう、室長のつくしを見る目はまだ険しいものだった。

「美作さん、会議室へ・・・」

つくしはまたため息をつくと、あきらを会議室へと案内した。





「お前も大変そうだな・・・」

「うん? 別に。働いていたら、こういうことなんて当たり前でしょ。

私が仕事中に友達モードになったのが悪いんじゃないの?」

「そうかもしれないが、俺は別に仕事として訪ねたわけじゃないからなぁ。

久しぶりに友達の顔が見たかっただけだし。」

類が来てからというもの、交代でF4がやってくる。嫌でも気がつく。

「で、道明寺に何か言われたわけ?」

「―――いや、類に。」

予想外の答えだった。なにか言ってことを大きくするのは道明寺だと思っていた。

類?なんで―――? 疑問が顔に出たのか、あきらはクスリと笑った。

「突き詰めれば司だろ、類は司に頼まれたわけだから。

それで、牧野に会った類が俺たちに言っただけだからさ。」

「何て言ったわけ?」

「う~ん、なんていうかねぇ・・・類は話すのが下手だし、言いたいことが伝わりにくい。

お前はお前で鈍感だし。総二郎は遠まわしに言うのが得意というか、くせというか。

だから俺がハッキリと言いに来たわけだ。―――わかる?」

いや、わからない。F4の言いたいことは何となくわかるが・・・でもハッキリとはわからない。

あきらは暫く考えて、言葉を吐き出した。

「おまえ、テンパってるんだって?」

「類?」

「まあな。でも、これは司も言っていたぞ。」

「そう・・・そうなんだよね。類にも西門さんにも言われたけど、私って焦りすぎかな?」

「何を目指しているのか俺にはわからないからなぁ、焦っているかどうかなんて知らないよ。」

何を目指しているか・・・。私はただ、道明寺楓に認められる存在になりたいだけだ。

目指しているとすれば、道明寺楓を目指している。

だけど・・・

「道明寺楓という存在が凄くて、追いつけないのはわかっているけど、せめて彼女に近づきたいっていうのが今の目標かな。」

「―――なんのために?」

「え?」

「なんのために近づきたいんだよ。」

なんのため?それは道明寺との未来のためだ。二人のことを認めてもらうために・・・。

無理矢理に認めてもらうのではなく、自分の力で彼女に認めてもらいたい。

「道明寺とやっていくには彼女に認められないと・・・」

「そこが根本的に間違っていると思わないか?」

「え?」

「司は、おばさんに認められなくてもお前と一緒になるつもりだろう?」

「それはそうだけど・・・でもせっかくなら、彼女にも祝福されたいし。」

道明寺の家族に祝福されない結婚は不幸になるのが目に見えていると思う。

「―――お前が仕事で認められないと祝福してもらえないのか?」

「え・・・?」

「司が求めているのは、牧野つくしであって、道明寺楓じゃない。

お前、それをわかっているか? 道明寺家にはすでに彼女は存在している。

そして彼女は司に安らぎや愛情を与えたことがない。少なくとも司はそれらを得たことがない。

司はお前との間にそういうものを求めているんじゃないのか?」

何も言えなかった。道明寺が昔、彼女を嫌っていたことは知っているし、

彼女が不器用な女性で、愛情をうまく表現できないことも知っている。

道明寺を育てたのは椿お姉さんと使用人頭であるタマさんだと言って間違いない。

親の愛情を知らない道明寺―――。

「―――牧野、人を頼っていいんだぞ。」

「―――え?」

「苦しい時は相談しろよ。俺たちでもいいし・・・いや、まずは司に相談しろ。

そうしないと、アイツはすぐに嫉妬するからな。」

思わず噴出してしまった。道明寺の独占欲は凄かった。思い出すと笑いが出てくる。

「牧野、良い仕事は心にユトリがないとできないぞ。」

「―――そうだね」

「俺たちが言ったことを考えてみてくれ。お前が道明寺楓になっても仕方がないんだ。」

「うん・・・ありがとう」

類や西門さんにも言われたことを、美作さんはハッキリとした言葉にしてくれた。

そういうことも気がつけないほど、自分を見失っていたのかとやっと気がついた。

「私がやるべきことは道明寺家を支えることじゃなくて、道明寺司を支えることなんだよね。」

そう言うと、美作さんは笑った私の頭をポンポンと叩いた。

そして「じゃあな」と軽く手を振ると会議室を出て行った。

本当は忙しい中、私のために時間を割いてくれたのだろう。

「あ~あ、私ってば本当に・・・」

道明寺楓になるなんて無理! そんなこともわからないなんて。

美作さんに言われるまで気がつかなかった。

私は無意識に彼女になろうとしていたんだ―――

「道明寺に・・・電話しなくっちゃ。」







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