颯HAYATE★我儘のべる

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楸の初・・・




楸は悩んでいた。 

明後日に1歳の誕生日を迎えるというのに、まだ話すことができないのだ。

昨日、1歩だけ歩けた。 これは凄いことだと思う、だって、この間の検診で健太くんはまだ全然歩けないって。

健太くんが私よりも5日だけお兄さんなことを考えれば、私はすごい!!!よね。

それにお母さんが言っていたけど、1歳の誕生日前に歩ける子はあまりいないって。

お兄ちゃんたちもお姉ちゃんも1歳の誕生日の後だったんだって。

やっぱり私って天才なんだなって思った。

でも、その天才の私がまだしゃべれないって・・・・どういうこと?

とりあえず、「高天」からはじめてみようかな。「あーあーまぁ」

自分の耳にも「たかま」とは聞こえない。 全然ダメだ! 簡単そうな名前なのに・・・

じゃあ「榊」はどうかな。 「あくぁい」

・ ・・さらに悪くなってない? 「さかき」と言っているつもりなんだけど。

「椛」だったら・・・「うぉみぢぃ」

それっぽくない? 「もみじ」に近い気がしない!?

それにしても、いったいなぜ? ず~っと密かに練習をしているけど、全然上達しない。

―――――でもね、最近ちょっとわかったの。 「もみじ」よりも簡単な名前がある。

それはね――――「タマ」

だから、今は必死で「タマ」を練習中。 明日の誕生日までに絶対に「タマ」を完璧にしてみせる!

そう決意した翌日・・・つまり、誕生日の朝。

私は「言えた!!」って思った。 きっとみんな誕生パーティで驚くに違いない。

だって私のおしゃべりデビューなんだから!!!!

まだ「タマ」しかうまくしゃべれないけど、きっと大丈夫。 まだ1歳だもん、すぐにしゃべれるようになる。

「タマ」をきっかけにね。 ふふふ・・・今日のパーティが楽しみ。






パーティにはなんだか臭いおじさんやおばさんがいっぱい。

何の匂いかはわからないけど、とにかく私の近くには来ないでほしい・・・

でも、お父さんに抱かれているから、みんなが寄ってくる。

「おめでとう」って声をかけてくるけど、誕生日なのは私!! お父さんじゃない。

私にはチラッと見て「大きくなりましたね」とか「かわいいですね」って言うだけ。

でも、これも結局はお父さんに言っているんだよね。

これを言われるとお父さんの顔が崩れる。 仕事しているお父さんはとってもかっこいいのに。

私と一緒にいるお父さんの顔は――――変。 なぜだろう。

「あーあー」

私はとにかく話せるんだぞってことをみんなに知らせたかった。 だからタマを必死で探しているんだけど・・・

だって、ただ「タマ」って言っても誰もなんて言ったか理解しないと思うの。

「タマ」を指差して言うと完璧でしょ? ここまで考える1歳児なんていないよね。

やっぱり私って天才だ。

「楸、どうした? 何かあるのか?」

「あーあー」

榊お兄ちゃんの横にいるのってタマだよね。 何しているのかな? 必死でそっちを指差して身体を乗り出す。

なんとか鈍感なお父さんを向こうに行かせなくちゃ。

「あう、あーいいー、くぁきぃ」

あれ? 「さかき」もそれっぽくなってきてない? 

自分でそう言っているつもりだから、そう聞こえるだけかな?

でも、おとといよりは「さかき」っぽい!!!

「もしかして榊のところに行きたいのか? お父さんより榊の方がいいのか?」

はあああ? ちっがーう!!!!! 榊お兄ちゃんの隣にいるタマのところに行きたいのよ!

お父さんも一緒に行かないと意味ないでしょ。

みんなを驚かすんだから、お母さんも椛お姉ちゃんも高天お兄ちゃんもいなくっちゃ。

あーもう!! 私の誕生日なのに、なんでお父さん以外は誰も私のそばにいないの!?





グズっているとお母さんがやってきた。 あ~、こうすれば来るんだ。

あとは高天お兄ちゃんと椛お姉ちゃんだけど・・・ま、いっか。

とにかく、タマのところに・・・

私はまた必死でお父さんをタマへと誘導しようとした。

「榊のところに生きたいのか?」

あ~、そうそう。 榊お兄ちゃんの所に連れて行って。

「あう、あ」

とにかく、大きく首を上下に振って頷く。 これでわかってくれるでしょ?

渋々ながら、お父さんの足がタマの方へ――――良かった。





「おや、旦那様どうしましたか? 楸お嬢様がグズりはじめましたか?」

タマはパーティのセッティングをしていたが、なにぶん年齢が・・・

なので少し榊と話して休憩していたようだ。

「ああ、俺より榊がいいらしい。」

「俺!? なんで?」

「知るか!! 楸がお前のところに行けと言ったんだ」

「言ったんだ・・・って楸まだしゃべれないじゃん」

「俺と楸は心で話せる」

―――いや、話せてないから。 

私は必死でタマを指差した。 みんなの注意をひかなくっちゃ。

「あーあー」

「どうした?」

「どうしたの? 楸、先輩のところに行きたいの?」

「俺じゃないじゃん」

みんなが私に注目した!! 私はそう感じて、少し深呼吸をした。

さあ、言うわよ!!!!!

「たぁま~、たぁま」

得意げに言葉を発した途端、お父さんが固まるのがわかった。

お兄ちゃんとお母さんは、そんなお父さんを凝視していた。

―――――なんで? みんな、褒めてよね! 私がしゃべったのよ?

「今・・・楸、しゃべったよな?」

「―――――しゃべったんじゃねぇの?」

「いや、しゃべったとは・・・言えないんじゃない?」

お母さんはなぜか否定している。 私はしゃべったんだって!!

「私の名前を呼んだような感じですがねぇ。 楸お嬢様、タマを呼びなさったんでしょう?」

うん! そうだよ~

「ちょっと待て・・・なんでタマなんだ?」

お父さんの声がこわばっている。 どうして?――――こわい。

「俺が必死でパパという言葉を覚えさせているのに・・・なんでタマなんだ!?」

「えっと、司・・・今のはタマって言ったわけじゃない・・・んじゃない?」

お母さんが必死で言い訳している。 ってなんで言い訳するの? タマって言ったのよ。

「いや、間違いなくタマって言っていた。 どうして楸が初めて話す記念すべき言葉がタマなんだ!!!」

「・・・別に何をしゃべってもいいじゃん。 楸がしゃべったってことが大事なんだし。」

そうだよね、榊お兄ちゃん!!

「・・・お前らは、一緒にいられなかったから何を最初にしゃべったのかわからん。 

聞いたところによるとお前も椛も颯介って言ったらしいな。

高天と言えば『おかあ』だ。つまり、つくしのことをお母さんと言ったんだ!

今度こそ・・・今度こそ、俺を一番に呼んでくれるはずだったんだぞ!!」

「はずだったんだぞ・・・って、親父・・・仕方ないだろう?」

「いや、仕方なくないぞ。これは問題だ! 楸の最初の言葉がタマだぞ? ありえないだろうが!」

「ありえてるじゃん」

「うるさい!!! 黙れ、榊!!!」

お父さんの大声にお客様が大注目。 お母さんが真っ赤になって諌めている。

「司!! こんなところで・・・それに楸が何を言おうといいでしょう。 

何をしゃべっても成長の証でしょうが!! 大きくなっているってことよ!!」

「・・・お前は高天に最初に呼ばれたから良いよな・・・俺は一度もないんだぞ!?」

お父さんは・・・最初にお父さんと言ってもらいたかったの?

どうしよう、タマが一番言いやすかっただけなんだけど・・・

傷ついたようなお父さんの顔を見ていると楸は泣きたくなった。

どうしよう、どうしたらいいかな?

楸は咄嗟に・・・ごまかした。

「たぅま・・・とぁああ~」

タマっぽく発音して、意味のないことを言う。そして辺りを見渡して・・・あ、おじいちゃんだ。

とにかく、おじいちゃんを指差して、手足をバタつかせた。

「たぁま~・・・とぁ~たぅま~」

チラリとお父さんの顔色を伺う。そこにすかさず、お母さんのフォロー。

「ほら、先輩のことじゃないのよ。 たまたまそう聞こえただけじゃない?

なんだか・・・お義父さまのところに行きたがっているみたいだし・・・」

「・・・・おい、今・・・楸、俺を呼んだよな?」

は? 呼んでないけど―――――

「間違いなく、父さまって言ったよな! 俺のことだよな!!!」

「「「―――――」」」

三人は無言で司を眺めた。 しかし、ここは頷いた方が良いと判断したのだろう、みんな大きく頷いた。

「そうだよな。 楸、そうだ、父さまだぞ~、もう一回言ってみろ」

「・・・・たうたぁま~」

どう聞いても父さまとは聞こえないし、お父さんを父さまと呼ぶつもりはないけど。

まあ、お父さんの機嫌がなおったんなら・・・良しとしよう・・・

なんって世話のやける大人なんだろう・・・私は大きなため息をついた。





「お袋、楸は本当に父さまって言ったと思うか?」

「思うわけないでしょ。」

「そうですね。 たまたまだと思いますがねぇ。」

「そうよ。だいたい、司のことを誰も父さまなんて呼んでいないのに、楸が言うわけないでしょ。

司だって楸に教えている言葉はパパよ。 楸が司を呼ぶならパパか、お父さんでしょ。父さまはありえない」

「だよな・・・なんで親父はわからないんだろう」

「・・・アイツが幸せならそれでいいんじゃない? 夢を壊さないでおきましょう。」

「そのほうが、みんな幸せですよ。 坊ちゃん、世の中にはそのままにしておいた方がいいこともあるんですよ」

三人は妙に納得し、パーティへと戻っていった。


FIN


楸は今、必死で「お父さん」を練習しているんでしょうね・・・・

この意味のない話はいったい?









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