颯HAYATE★我儘のべる

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単純な男




家に帰ると類さんと総おじさんが遊びに来ていた。あきらおじさんは出張らしい。

類さんと総おじさんという組み合わせは珍しい。

総おじさんとあきらおじさんはお笑いコンビを組んでいるから(そんな雰囲気なだけ)。

「お、椛!―――お前、どんどん司に似てくるな・・・いや、椿姉さんにそっくりになってくな。」

「お父さんに似てるってよりは、叔母さん似って方が嬉しいな。でも結局は同じ遺伝子なのよね。」

「牧野に似るより良いんじゃないの?」

総おじさんはそう言って笑った。お母さんも結構美人だと思うんだけど、F4の面々には高校時代のイメージが強いらしい。

あ、F4じゃなくてF3だ。お父さんにとってお母さんは絶世の美女だからね。それも間違っているけど。

「そういえば椛・・・結婚宣言したんだって?」

そう聞いてきたのは類さん。

「うん、したけどダメだった。ま、大学卒業したら、すぐに結婚してやるけどね!」

「何をそんなに急いでいるんだ?」

「彼ってとってもかっこいいのよ、ぼやぼやしていたら誰かに盗られるでしょ。結婚で縛っておかないと。」

私がそう言うと類さんも総おじさんも声をあげて笑った。お父さんだけが渋い顔をしている。

でも、お母さんと同じ反応・・・ってことは返ってくる言葉も同じなんだろうな。

「「司にそっくり!!!」」

―――やっぱりね。

「司も牧野のことをそう言って結婚で縛ろうと画策していたよな。」

―――そうらしいわね。

「牧野も一筋縄でいくような女じゃないしね。」

類さんの言葉にピクリとコメカミが動く。その「も」は私にかかってるの?ってことは私も一筋縄ではいかないってこと?

「それにしても―――俺は振られる運命にあるんだねぇ。」

意味がわからなかった。類さんはニコニコと私に話しかけてくる。

誰が振ったの? ああ、お母さんのことかな??

「椛は覚えていないの?昔は俺と結婚してくれるって言っていたのにね・・・」

覚えている、覚えているけど・・・。

「類さん・・・先に振ったのは類さんでしょ。私が16歳になるまで待ってくれると思っていたのに。

私が8歳だっけ、9歳?いきなり結婚するんだから!―――離婚も早かったけどね。」

「ハハハ・・・仕方ないよ、最初から彼女とは合わなかったんだから。でも彼女のおかげでなずながいるからね。」

「なずなちゃんは私にとっても妹みたいな存在だけどさ、類さんが結婚したときは泣いたよ。

初めての失恋・・・私は類さんの婚約者のつもりだったのにな。」

確かに失恋だろうが、子供の頃のことだ、初恋は叶わないってよく言うし・・・。

「そういや、椛は類と結婚するって言い張って、司を怒らせていたよな。司も娘には苦労するみたいだな。」

総おじさんは楽しそうにしている。人の不幸や悩みは笑いの種。

不謹慎だけど、総おじさんはそういう人だ。真剣な悩みや不幸には勿論、そんなことはない。

だけど・・・人を揶揄って遊ぶのが大好きなのだ。―――悪趣味。

「お父さんは過保護すぎるんだよね。榊や高天には放任主義ってトコがあるけど、私と楸にはもう・・・

うっとうしいくらいにかまってくるから・・・。楸なんてお父さんの愛情キスを嫌がっていたもんね。」

「お前は違ったのか?」

「私!? う~ん・・・キスって挨拶だと思っていたからねぇ。鷹野でもキスは日常茶飯事だったし。」

総おじさんは納得したような顔をしているが、お父さんの顔は険しい・・・なぜ?

「―――鷹野ではキスは日常茶飯事だったのか?」

「そりゃね、あっちはNYが拠点なわけだし、生活も向こうに合わせているからね。」

颯介おじさんも煬介おじさんも今でも会えば、最初は頬にキスをしてくる。親愛の情を示しているのだ。

仕事の都合で長く日本にはいられないから、滅多に会うこともない。

お父さんとは時間が合わないことが多いでの、キス現場を見られることはなかった。

「つまり、颯介さんや煬介さんもお前らに・・・キスするのか? それと、つくしにも・・・」

「そりゃ、お母さんとおじさんたちは義理とはいえ兄弟だもん。」

「日本じゃ、兄妹でキスなんてしねぇんだよ!!!!」

お父さんの叫びに類さんと総おじさんは大爆笑―――私も苦笑した。

「あ、あのさ、司・・・気がついてないみたいだけどさ、もっと重大なことがあるでしょ。」

類さんは笑いを堪えながら、必死で喋っているが声は震えている。

「なんだよ!」

「あのなぁ司。重要なのは身内じゃないだろ? 椛は結婚宣言したんだぞ、相手とキスくらいしてるさ。

椛はもう20歳だろ・・・――――ってことはさ・・・なぁ?」

総おじさんの言葉に類さんも笑いながら頷いている。私も言いたいことは理解した。さすがに顔が火照るのがわかった。

「―――何が言いたいんだ?」

「お前も相変わらず鈍感だよな。お前は20歳、牧野は19歳じゃなかったか?親になったのは。

それはヤることをヤったからだろ。椛はもう20歳なんだよ、キスよりそっちが重要じゃないのか?」

ニヤニヤしながら言う総おじさん。完全に楽しんでいる。

「榊だって・・・もしかしたら、デキちゃった婚とかするかもしれないぞ。」

「なんだと!!!!!」

お父さんの眉間にはハッキリと青筋が見える。人間って激怒すると本当に血管が浮くんだなぁ、なんて感心してしまった。

「椛!!! お前、あのときハッキリ言ったよな、まだ・・・・だよな?」

「お父さん!!!」

あのときはあのとき。親兄弟しかいないから口にできた言葉だ。

いくら小さい頃から知っていても類さんや総おじさんの前で言うのは恥ずかしい。

私が大声で制すると、さすがにお父さんも我にかえったのか口を閉ざした。

「―――俺はお前を信用しているぞ」

不安なのが丸わかり。信用してないじゃん、と突っ込みたい・・・。

「それよりも・・・榊だ! そう、榊!!! アイツの方が心配だっ!!!」

急に矛先を榊の方に向け、榊を呼ぶように大声で叫んでいた。

あちゃあ・・・榊、トバッチリだ。ゴメン・・・






「何か用かよ?」

部屋に入り、類さんと総おじさんに挨拶したあと、榊はお父さんに向かって怪訝な表情で聞いた。

―――ゴメン、榊! とりあえず心の中で謝っておいた。

「おまえ、女を孕ませるような真似してんじゃねぇだろうな!?」

突然の科白にキョトンとしている榊。当然だと思う、いきなりそんなこと言われても理解できない。

「―――何が言いたいんだ?」

「適当に遊んで、子供つくってんじゃねぇぞ!」

「―――はあ? 誰が?」

黙って親子の会話を聞いていた総おじさんが、会話にならない会話を見るにみかねて間に入ってきた。

肩が震えているから笑っているのがバレバレだ。

「榊、お前も20歳だろ・・・ってことはSEXくらいしているだろうし、キチンと避妊はしろってことだ。」

「ああ・・・」

「そうじゃねぇ!!! ああいうのは好きな相手とするモンだ。相手が惚れたやつなら俺は・・・」

いくら日ごろは放任している息子でも、さすがにこういうことは気になるらしい。

いつもは率直に物を言うお父さんが言葉をドモらせている。珍しい現象だ。

榊はお父さんの性講義に呆れているようだった。突然呼びつけられて、言われたことがこれでは呆れるのも無理もない。

「あのな・・・親父。ついでにおじさんたちにも言っておくけど、俺は好きな相手でもキチンと避妊はするぞ。

相手が妊娠を望んでいるならとは限らないだろうが。将来は子供がほしいかもしれないけど、まだ20歳だぞ。」

「―――まあな」

「そうだね」

「それはそうよね、女のことも考えてもらわないと」

総おじさん、類さん、私は榊の科白に一応は納得した。

「―――好きな相手でも? ・・・でも!?ってことはお前、ヤることはヤってるんだな?」

「・・・いや、それは・・・言葉のアヤだし。―――とにかく避妊は忘れないから大丈夫。

親父のような失敗はしねぇって、安心しろよ。」

―――わぁお! 榊くん、それは禁句でしょ。

榊もアセっているのだとわかっているが、それはちょっと・・・

お父さんの顔が赤くなり、そして青くなっていく。うん、リトマス試験紙のようだ。

それに榊もアセりすぎて気がついてないみたい、アンタが言った失敗で私たちが存在するのよね。

自分たちを失敗作ってアンタ・・・

「お、俺は・・・」

お父さんは何を言っていいのかわからなくなったみたい。

「お父さん、失敗なんてしてないでしょ。私たちが生まれて最高!でしょ?」

一応、父親を庇ってみる。最初が自分の結婚宣言から始まっただけに少し責任を感じていた。

「ああ、お前らは失敗なんかじゃない。子供がいたことを知って最高に嬉しかった!」

それは榊も私もわかっているのだけど。私はチラリと榊のほうを見た、榊はわかっているというように頷いた。

「親父、悪かった。失敗なんて本当は思ってないから・・・、つい、その・・・

なんていうかさ、この歳で親父から性教育を受けるとは思わなかったんでアセっちまってさ」

榊は照れたように謝ったのだが、お父さんの顔色は青いままだった。どうしたの??

「―――いや、いいんだ・・けどよ。」

何か含んだ物言い。何が言いたい、お父さん!! お父さんらしくない言い回しにイラついた。

「もしかしたら・・・つくしは、その・・・妊娠したくなかったんじゃねぇかな・・・」

お~い・・・なぜ、そこに行き着く!? 

「俺はすっげぇ、嬉しかったけどよ。アイツにとっては予定外だろうし、後に起こったことを考えると・・・」

後に起こったことってのは、つまり、お父さんがお母さんの妊娠を知らず、家のために別の女性と結婚したことだよね。

う~ん、人間って罪悪感を持つと永遠なのか? そうなると、私たちって「かわいそうな子」ってことになりそう。

「司ってば、まだ気にしてるの?」

類さんが呆れた顔で問うてくる。それは呆れるよね、うん、私も呆れるよ。

「当たり前だ! どんなに謝ったって謝りたりねぇだろ! 俺はアイツを裏切って・・・」

「―――そうだねぇ、裏切ったねぇ。」

総おじさんも軽く笑いながら参戦。今更・・・ってことなのに、お父さんはまだ気にしているんだね。

自信過剰な人間って、結構脆いもんなんだな~って、お父さんを見ているとつくづく思うよ。

あの傲慢で俺様なお父さんがお母さんの気持ちを考えるだけでガタガタ。

ま・・・罪悪感と後悔がそうさせるんだろうけどね。今、お母さんが幸せに暮らしているのはお父さんのおかげなんだけど。

どんどん落ち込んでいくお父さんを見て、さすがに哀れになってきた。

榊も自分の発言が原因だと思って、ちょっといつもの顔つきが変わってる。あらら。

「お父さん、お母さんが妊娠したくなかったなんて言ったの? それって私と榊に失礼だよ」

「―――おう、そうだよな。俺と椛はお袋に歓迎されてない存在なのか?」

榊がそう言うとお父さんもさすがに焦ってきた。

「ち、違うぞ!! つくしがお前らを欲しがらないわけねぇ!」

私と榊は顔を見合わせて微笑んだ。

「でしょぉ~。お母さんは妊娠を喜んでいた!!ってことで!!」

「―――お、おう・・・その通りだな。あのつくしがお前らを後悔するわけねぇし、現実から逃げるような女でもねぇ。」

「そうだ! お袋は強い!」

―――強すぎるくらいにね・・・

「そ、そうだな! あのつくしが予定外の妊娠くらいでグラつくはずがねぇ!」

―――それはそうだ。だけど、あの時は予定外の妊娠より、予定外のお父さんの結婚の方が問題なんじゃ?

それは言ってはいけないことだよね。でも、なんって単純。

経営者としては切れ者なお父さんなのに、お母さんのことになると頭が働かないのはなぜ?

―――それにしても、もう立ち直ったよ・・・

類さんと総おじさんは私たちの会話を、笑いを堪えて聞いている。そりゃ、笑いたくもなるよね。

本当にお父さんって扱いやすいというか・・・うん、これなら大丈夫。

もし、祥吾との結婚を反対されても、なんとかうまく言いくるめられそう。

―――楽勝!!!! 単純で扱いやすいお父さんで良かった!!

椛は意味深な笑みを浮かべ、気持ち再浮上させた父親を見つめた。

FIN



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