お気に入り商品はコレで決まり!

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<WWWAトラコン・シリーズ2-1>


「何がいいんだか」
フェルが不機嫌そうに言った
「だってぇ、気持ちいいじゃないの」
そう。あたしは海が大好きなのだ。
「あたしはカジノの方がいい」
「仕方ないじゃない。勝負しようって言って勝手に負けたのはあなたなんだから」
「だから余計にムカつくのぅ」
「へっへーーーん、っだっ!」
「ふん!」
あたし達は今ラメールという星に来ている。
ここはそこの唯一の大陸ボロホスの西海岸にあるトパーズシティ郊外の海岸だ。エメラルドビーチと言い、海岸に広がる虹色の星砂で有名なリゾートだ。
ラメールはおうし座宙域に属する恒星デルリックスの第四惑星である。
一般には『大宇宙の宝石』と呼ばれていて、広い漆黒の宇宙空間にぽっかりと浮かぶ青緑色に輝くその姿は見る者を魅了して止まない。
その秘密は、この星の海と陸地との比率にあった。この惑星は、海対陸の比率が十七対一という海洋惑星なのだ。青緑色に輝くこの宝石は、この広大な海が恒星の光を反射して作り出されているのだった。
ここの陸地は唯一の大陸ボロホス大陸の他には数千の細かい島々があるだけだ。
ボロホス大陸の西海岸にあるトパーズシティは、ラメール最大の都市で人口はおよそ百二十八万五千人。
この星は独立した惑星国家ではなく、地球連邦の委任統治領である。その存在意義は、地球連邦の貴重な収入源としての賭博施設、カジノにあった。公認施設だけでも約五万件。未公認のもぐりまで入れればゆうに十万件は下らない賭博施設がある。これらのカジノが観光客から吸い上げるお金は莫大な金額になるのだ。ラメール六に対して地球連邦が四、これが双方で取り決められた取り分だった。連邦にとってラメールは申し分のない稼ぎ頭である。
で、あたし達がここに来てまずやったのはコイントス。
表が出たら海水浴、裏がでたらカジノ。で、結果は冒頭の通り表が出たという訳だ。
実際、カジノがなくともマリンスポーツだけで観光収入が稼げる、それ程に海洋資源に恵まれた類い稀な惑星だった。
「せっかくラメールまで来て海水浴だなんて最低だよ」
フェルが何十回目かのボヤキを呟く。
「勝負の世界は厳しいのよ」
と、あたしはうそぶく。
「あーあ、つまんないよーーーっ!」
「夜になったらカジノに付き合ってあげるわよ」
「ホントっ!」
「はいはい、あんたのボヤキに何百回も付き合うのヤだかんね」
「わっひゃーーーい、やりーーっ!そうと決まればじゃんじゃん泳ぐぞーっ!」
フェルが意味不明の感嘆符を発する。ったく、現金な奴だ。
あたし達は一卵性双生児らしく外見はそっくりなのに、性格とか趣味とかは全然違う。
あたし達は19歳。身長168cm、体重55kg。ついでに言えば、B・W・Hは86・56・88だ。瞳の色はダークブラウンだ。ただ髪はあたしが漆黒のストレート・ロングヘアで胸まであるのに対して、フェルは紺碧に染めていてしかもショートだ。それは見かけ上二人を区別する唯一の特徴となっている。性格の方は、あたしがお淑やかなお嬢様タイプなのに対して、フェルはボーイッシュでちょいガサツかな。
「でもカジノ今晩だけよ。明日からは仕事なんだから」
「わぁーてるって。でも仕事が終わればいいでしょ?」
「んまあ、一晩だけなら・・・」
「わーーーいっ!嬉しいなったら嬉しいなっ、と」
そんなに面白いかな?あたしには全然わからん。

そのカジノはアルタネラ・ラメールホテルの中にあった。
総面積が二千三百平方メートルの規模を誇るトパーズシティ随一のカジノだ。
フェルは元来賭け事が好きだ。それはもう小さい時から好きだった。おやつのケーキを選ぶ時でさえ賭けで決めていた。今は夜の十一時。ここに来たのが五時だから、もう六時間もいることになる。あたしはそんなに好きじゃないからバーボンのオンザロックをちびちびなめ舐めながら、たまーにブラックジャックをやったりしてるが、大体は生き生きとして勝負してるフェルを眺めている。明日の朝から仕事なんだから早寝しよ、なんて言える雰囲気じゃない。あ~あ、ま、昼間日光浴に付き合って貰ったからしょうがないんだけどね。楽しそうなフェルを見てるのもそれ程嫌じゃないし、ね。

結局日付が変わったところでやっと賭けるのを止めさせた。
儲かったのかな、損したのかな?
「で、どうだったのよ?」
あたしがフェルに聞いた。
「何が?」
「何が、って、儲かったのかな~、なんてね」
「とんとん、ってとこね」
「なんだ、あんなに時間使ってとんとんなの」
「損するよりいいじゃん」
「そりゃま、そうだけど」
「そんなにいまくいかないんだって」
「ふーーーーん」
「明日は仕事だよ。はよ寝よ、寝よ」
あなたに言われたくないわね、その科白は。
今晩はこのホテルに宿泊となる。

朝のホテルのカフェの窓際の席に目当ての人物を見付けた。
あたしはそっと近付いてその人物の正面に立った。
「あたしはイスラ。WWWAから派遣されたトラブル・コンサルタントですわ」
「はじめまして。私がヘンダールです」
ヘンダール警部は立ち上がってそう言うと握手を求めた。
「あなたが依頼人のトパーズシティ市警の警部さんですね?」
差し出された手を握り返しながら確認する。
「そうです」
歳の頃は四十台半ば、身長185cmで体格はがっしりしている。髪は普通で金髪、眼はダークブルーと結構渋めのおじさんだ。
「訴状は拝見しているのですが、一応あなたからも直接お話を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。何からお話しましょうか?」
「では、まずは事件の経緯と概要をお聞かせ下さい」
「わかりました」
事件の経緯は次の様なものだった。

事件は標準暦で九十三日前、ラメール暦で八十六日前に起こった。
その日の早朝にこのトパーズシティ郊外のエメラルドビーチに一人の男の水死体が打ち上げられたのだ。あたし達が昨日泳いだあの海岸だ。
その男の身元はホテルの宿泊名簿からすぐに判った。名はベイヤー、年齢五十八歳。国籍は辺境星団五○五二のマリーネということだった。
ベイヤーは死体で発見される三日前にレンタルのジェット機を借りて南方へ飛行したまま行方不明になっており、レンタル会社から遭難の届出が出されていた。そういった経緯や死体の検視結果から、ベイヤーは海上でのジェット機の墜落により死亡し、三日掛けてエメラルドビーチに漂着したものと考えられた。海流から計算して、墜落地点はエメラルドビーチから南方五百キロ位の海上と思われたが、ジェット機の破片やベイヤーの遺留品らしき物は一切発見出来ていない。
市警はこれをベイヤーの操縦ミスによる事故と判断し、捜査を終了、遺体の引き取りをマリーネ当局に要請したが、身寄りが一人もいないとのことで拒否されたため、やむを得ず無縁仏として処理したとのことであった。

「事故死だということでしたが、あなたは何を担当されたんですか?」
「はい。私はマリーネ当局と折衝を担当しました」
「遺体の引き取りの依頼のこと?」
「はい。私はマリーネ当局に遺体の引き取りを要請したのですが、ベイヤーには身元引受人になるべき身寄りがいないということで、引き取りを拒否されました」
「・・・」
「そこでやむを得ず無縁仏として埋葬し、所持金も経費を差し引いた剰余金を市条例に基づき慈善基金に寄付したんです」
「なるほど」
「それと同時に私はマリーネ当局にベイヤーの身元照会も行っていました」
「それは当然ですわね」
「そこで困った事になったのです」
「困った事ってなんですの?」
「ベイヤーの身体的特徴が一致しなかったのです」
「ええっ?」
「マリーネ当局から送られて来たベイヤーのデータはこうでした。」
ヘンダール警部は上着のポケットから手帳を取り出すと、ページを開いて読み上げた。
「身長176センチ、体重82キロ。頭髪はブラウン、眼はアンバー。そんなところです」
「で、死体本人はどうでした?」
「検視記録によるとこうです。身長161センチ、体重54キロ。頭髪は僅少で赤みのあるブロンド、眼はグレイ」
「全然違いますね」
「そうでしょう?」
「で当然調べたんでしょう?」
「何をですか?」
「死んだ人間の身元を、です」
「いいえ。この事件は市警ではベイヤー本人の過失による事故死として処理されてしまったのです」
「どうしてよ?ベイヤーじゃなかったんでしょ?」
思わず声が大きくなった。
「その通りなんですが、捜査は行われませんでした」
「誰の指示で捜査を終了したんですか?」
「私に対しては直接的には署長ですが、署長も誰かの指示を受けたのかも知れません」
「それでこの事故をWWWAに提訴なさったんですね?」
「はい。私の立場としてはもうこれ以上この件を捜査することが出来ません。でも全く納得出来ないのです」
「ではその死体の身元を洗えばいいんですね?」
「はい。そうです。あと可能であれば捜査が打ち切られた理由も知りたいですね」
「何か手掛かりはあるんですか?」
「手掛かりになるかどうかは分かりませんが、市警に圧力を掛けられそうな人物は二人います」
「誰と誰ですか?」
「一人は地球連邦から派遣されたアラベル監察官」
「で、もう一人は?」
「もう一人は全ラメール遊戯振興会理事長のスタンダルフ、彼はこのラメールの全カジノの総元締めです」
「監察官と理事長ね」
「ただアラベル監察官の方は、地球連邦から派遣されているとは言ってもお飾りみたいな物で実権はほとんどありません」
「じゃあ本命はカジノの元締めの方ってことかしら?」
「そっちの方が可能性は高いと思います」
「わかったわ」
一応二人両方に当たるか。
「あの・・・」
「ん、何か?」
「WWWAからは二人派遣する、って聞いてたんですが」
「あ、ああ。もう一人はフェルって言うんですが、今はホテル内で待機してここの会話を生中継で聞いています」
「そうなんですか」
「そうなの。で事件の方ですけど、他殺の線は考えなくていいのかしら?」
「いえ、捜査が何等かの圧力で打ち切られたのだとしたら、他殺の可能性も考えて置いた方がいいでしょうね。今のところ証拠は何もありませんが」
「あと何か言って置くべき事はありますか?」
「今はこんなところだと思います」
「そう。じゃあ何かあったらここに連絡して下さい」
ヘンダール警部にメモを渡す。
「携帯電話、ですか?」
「そうよ」
「わかりました。何かわかったら連絡します」
「あ!」
「どうしました?」
「訴状では第一発見者がアラベルとなっていましたね?」
「あ、そうそう。話し忘れていましたね。そうです。アラベル監察官が第一発見者です」
「了解です。じゃあまた」
「はい。よろしくお願いします」

さて、と。
「どっから調べよっか?」
「そうだね、やっぱ第一発見者でしょ?」
監察官のアラベル、か。
「でも黒幕は元締めのスタンダルフっぽいわよ」
「ううーーん、どっちにしようか。困ったなぁ」
なんかマジで悩んでるよ。
「はい」
「何?」
「これ。使うんでしょ?」
と言って、あたしはフェルにコインを渡した。
「サンキュ!」
「いえいえ」
「じゃ表ならアラベル、裏ならスタンダルフよー。いい?」
「オッケ」
『ピィーーーーン』
っと、コインを弾く音。
『パシッ』
フェルがコインを手の甲にキャッチした。
「どっち?」
あたしが聞く。
「裏・・・スタンダルフで決まり、だね」
「わかったわ。すぐにアポを入れるわ」
あたしは段取りを付けるためにまずスタンダルフの連絡先の入手から着手したのだった。

「スタンダルフは通常、25丁目にある全遊振ビルの31階、執務室にいるわ」
「アポは10時半だけど、あなたはどうする?」
「どうしよっかな。ヤバくなりそうだよね?」
「その可能性は否定できないわ」
「でも31階じゃあなあ。何階建てだっけ?」
フェルはいざって時の援護の事を考えているのだ。
同行するべきか、待機するべきか、を。
「35階建てよ」
「しゃあない一緒に行くわ」
「ありがと。」
エアカーはもう全遊振ビルの正面玄関に着いていた。
1階の総合案内に来意を告げると31階まで直接行ってくれとのことだった。
警備はあまり厳重ではないようだ。
エレベーターに乗って31階の受付に行く。
<続く>

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