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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 10 話
翌日の朝、この日の朝食は賑やかだった。
母と長兄夫妻、それに俺とマリの5人だ。
兄は平日なのに有給休暇を取ってくれた。
「また暫く会えないからな」
そう言ってくれた。いつもながら優しい兄である。
いつもなら雄弁過ぎるほどの母は黙っている。
(勘弁してくれよお袋・・・無言なのがプレッシャーかけてるから・・・)
やがて
「時間だから、そろそろ行くよ」
そう言って立ち上がりマリを促して玄関に向かう
重い腰をあげて母がついてくる。
いつもこの空気に耐えるのが辛い・・帰郷に二の足を踏む理由なんだと思う。
今回は叔父貴の墓参と青木氏の事もあって、地元の友人たちにも知らせていない。
そして、母に「行ってくる、元気でね」
と言う時だけは精一杯の笑みを浮かべてみせる。
母は頷くことしかできないでいる。
(勘弁してくれよ、お袋・・・)
そばからマリがサングラスを渡してくれた。
この時の為に頼んでおいたものだ。
「ありがとう・・・」
そこからは振り返ることなく歩いた。
バスと在来線を乗り継いで鹿児島本線に乗り換える駅に着いた。
久しぶりだ。
待っていた青木氏、ケンさんの一行と合流して小倉駅に到着。
ここから新幹線に乗り換えるわけだ。
合流して真っ先に青木氏に挨拶すると
「どうでしたか?お母さんはお元気にしておられた?」
「はい、すこぶる元気でして、知り合いの漁師さんに電話して新鮮な刺身をたらふく食べさせてくれました」
「そうか、それは何より。親というのは子供が元気でもりもり食べる姿に喜びを感じるようだからね・・・親孝行したことだと思いますよ」
「そうだと良いのですが」
「そうさ、そうに決まっているよ」
「この車両だね・・じゃあケン、堀田にリョウさんを案内させてあげなさい」
「はい、かしこまりました」
そうして乗り込んだのはグリーン車!
「ケンさん、グリーン車って・・・」
「うん、会長がね『自分が頼んで連れてきてもらったから当然だよ』って言われて、ここは素直に応じてくれないか?」
「そう・・・か」
会長に追いつくと
「会・・あ、青木さん、グリーン車を用意して頂いて有難う御座います」
「なに、こちらから頼んで墓参させてもらったんだ、このくらい当たり前だよ。それより君さえよければ道中話を聞かせてください。
それとマリさん、申し訳ない、東京に戻るとそうそう話をしている機会もなくなるからね。私の勝手を許してくださるかな」
「はい、どうぞご遠慮なく、主人も・・あ、あの、この人も会長さんとお話するのを楽しみにしているみたいですから、それより私がこんな直ぐ隣で宜しいんでしょうか?」
「はっはっはっ、さっき主人と呼ばれたじゃないですか。奥様が隣に座るのはごく自然なこと、なにも遠慮なさることはない」
「そう仰って頂いたなら、お言葉に甘えさせてもらいます」
「はい、どうぞどうぞ・・・もしかしたら貴女がまだご存じないこともあるかも知れませんよ」
青木氏は、マリの緊張を解きほぐしてやろうという配慮を示してくれた後、リョウに目を向けた。
「さて、君の故郷はどんな街なのかな?先ずそれを聞かせてくれるかい」
(およそ、人格が形成されていくのは、過去からの遺伝子だけではなくこの世での経験、そして生まれついた環境、それは最も身近な『縁』と言えるだろう。それらが絡み合って人格が形成されていく・・・そのことをこの人は良く分かっているようだな・・・)
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