No Beer, No Life.No soccer,              No Life!!

No Beer, No Life.No soccer, No Life!!

檀の実



月曜から金曜まで寮の誰かが日替わりで行き、高時給且つ新鮮な海の幸・山の幸をご馳走してもらえるおいしいバイトです。お客さんはみんな常連さん。中には30年以上その店に通う人もいて、お客さん同士もみんな知り合いです。

お客さんの中で一番高齢の鹿島先生はかつてロシア語の翻訳をしていたでとっても素敵なおじいちゃん。でも忘れっぽくて何度も同じことを聞いてきます。私の名前を毎回聞いては、また次に会ったときにも聞きまし。そして決って出身地を聞いては、熊谷草やらお寺の話をします。私は鹿島先生に何度名前を聞かれても全く嫌な気持ちはしなかったし、何度同じ話をされても笑顔で頷いていました。

先生がそのお店に来るのは火曜と金曜だけです。ご高齢なので週に2回と制限されているのと、その日は奥様が出かける日なのでそこで夕飯を食べるそうです。お店に来る前に先生は公園で散歩をしてきます。そしてそこで拾った土器や草花をお店にもってこられるのです。

ある日、先生は赤い実のついた木の小枝を持ってやってきました。先生は私やマスターになんの実だかわかる?と聞いてきました。マスターは一目でわかったみたい。先生は私にいつもの質問をしてきました。「お嬢ちゃん、名前はなんだっけ?」私はまたかと思いつつも、顔色一つ変えずに答えました。「まゆみです。」

「この実もまゆみっていうんだよ。」

先生もまったく顔色一つ変えずにおっしゃいました。


その後、私は鹿島先生と数回しか会えず、そのバイトからも引退しました。それでも先生が持って来てくれた檀(マユミ)の実のことははっきりと覚えているし、先生もどうか元気でいてくださったらなと思っているのです。

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