リストカット



2.「リストカット」(自傷行為)とは?

 額を壁に打ち付ける、からだじゅうの皮膚を爪を立てて強くかきむしる、手首を刃物で切る、切腹まがいのことをする。これらをまとめて自傷行為といいます。剃刀などで手首を切るという自傷行為をくり返すことを「リストカット・シンドローム」(手首自傷症候群)といいます。近頃特に多いのがリストカットです。男子にもみられますが圧倒的に女子にみられることが多いです。大体左手首の内側を傷つけます。多くは、剃刀や小刀を用い、浅い傷を何条も作るというのが一般的です。時にはかなり思い切って深く傷つける人もいます。



3.「リストカット」を行う病態

 境界性人格障害、演技性人格障害、自己愛性人格障害など人格障害の場合に多く見られます。またうつ病、精神分裂病が根底にある場合もあります。摂食障害・食行動の異常を示している人にも多くみられます。

○境界性人格障害・・・対人関係の激しさ、非常な不安定さが特徴。児童の虐待、近親相姦、急激な見捨てられによって引き起こされやすい。周囲の人々に「気の毒だ」「わがままだ」と両極端な見方をされることが多い。接していくためには自分を理想化せず、暗い、未熟な、不完全な面があるという自覚が大切。
○演技性人格障害・・・他人の注目を浴びることが目的となり、大げさな言動をすることが特徴。人の意見に簡単に影響されてしまう。

○自己愛性人格障害・・・自分が優秀な人物であるという意識が異常に強く、成功や地位、名誉を限りなく求めたりする。そのため、他人からの評価に非常に敏感。常軌を逸するほど賞賛されることが嬉しく、自分への批判や無関心に対しては異常なほど怒ったり屈辱感を味わったりする。




4.リストカットを行う理由

 リストカットの瞬間の心理を語れる人はあまりいません。「切ったときの記憶がない」という人もいます。もっとも家庭内でのいさかい、恋人、友人との仲違い、対人関係上の失敗(自分の思いこんだ「失敗」)が先行していることが多いです。つまりくやしさ、怒り、後悔、自分への愛想づかしといったマイナスの感情がにわかにたかまった後にリストカットが行われると予想できます。人によっては、苦しい想念(恋人に振られたといったような)を断ち切るためにやったと落ち着いてから説明してくれることもあります。いずれにせよ、リストカットの最中は無我夢中でいろいろ想いをめぐらせることのできる普段の心理状態と異なっているようです。しかし手首を切った後はかえって落ち着き、活力を感じ一種の開放感があり、軽い自己陶酔めいた感覚も覚えるようです。

a.「クライシスコール」・・・確実に死ねない、自殺の方法としてあまり確実な手段ではないリストカット。危機に陥っている状況において(本人が自覚しているかは別として)助けを求めるための手段であると考えられる。

b.「死」をもって相手を攻撃・・・自分をいじめた友達、恋人、肉親への恨み、攻撃の手段として(相手が狼狽、後悔することを期待して)のリストカット。

c.「解離状態」・・・人格が一時的に解体してしまって、自分が何をしているか分からない状態になってリストカットをする。~幼児期の親子関係のゆがみ、「多重人格障害」などが原因。

d.理想と違う自分・・・理想と現実のギャップにさいなまれ、自分を否定する気持ちをリストカットに託す。

e.現実逃避・・・人間は「痛み」を感じることや、「血を見る」ことに一種の陶酔感を感じることがあり、リストカットにより一時的に自己否定、自己嫌悪の感情から抜け出すことができる。

f.「根性焼き」的意味合い・・・痛みに耐えることで自らの勇気を示す。



5.「自殺」との関係

 手首を切ったことを周囲に知らせる人もいれば、知らせない人もいます。「あてつけ」「狂言自殺」という解釈は当てはまりません。リストカットの心理過程は十分に明らかではありませんが、不快な緊張、感情の消去、存在感覚の強化に一時的に役立っているのは明らかです。したがって反復される傾向にあります。リストカットをしている人の大半は死ぬつもりであったとは言いませんが、日頃心の底にむなしさとさみしさを抱え、ときおり「死にたい」と痛切に思う人たちなのです。ですから、リストカットと死へのあこがれは直接的にではないにしても、常に関連はあるとみなしたほうがよさそうです。



6.どのように対処すればよいか

 「困ったことをやった、今度は放っておこうか」といった態度を周囲がとることは好ましくなく、傷の状態に合わせてていねいに処置をすること。そして長々としかるよりは「もう二度としてはいけません。傷跡は後々まで残ることがあります」とゆっくり、はっきりとしかることがよいと思います。反復されるリストカットは、自己流のストレス解消という面を持っています。したがってそういった行為を行いながら社会生活・学校生活を続けることができる人が少なくありません。しかしリストカットのかげには見過ごせない人格の障害が存在します。心理療法の上手な精神科医の援助をまず求めるべきでしょう。

a.「解離状態」の場合・・・睡眠薬の一種を使って当時の状況を思い出させる。そして分断された時間の流れを一本にする。そして過去の事実をひとつひとつ整理する。そして患者に「納得」させ、等身大の自分を受け入れるようにする。

b.「自分を否定」する人の場合・・・まず、「理想的な自我」と「現実の自分」のふたつがあることを認識させる。現実の中でそれらをどのように同一化できるかを模索する。


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