【粗筋】
「のめる」という口癖が卑しいと言う友達、こいつも「つまらねえ」が口癖。二人で言わない約束をして金を懸けるが、のめる男は隠居に相談、「大根百本を田舎から贈って来たが、醤油樽に詰まろうか」と尋ねると、「つまらねえ」と言うに違いないと教えられる。しかし、トントンと言うのだとアドバイスされたので、「とんとん、とんとん、大根百本を田舎から……」とテンポが悪いので気付かれてしまった。
「どうだ詰まろうか」
「入りきらねえ」
「おい、どうした羽織なんぞ着て」
「伊勢屋の婚礼に出掛けるんだ」
「お、のめるな」
と逆に金を取られてしまう。もちろん、婚礼に行くのは嘘。隠居に報告すると、
「何だ、金を取りに行って取られていてはつまらないなあ」
「あっ、言った。金を出せ」
「わしは約束していないよ」
「じゃあ、半分でも……」
喋るとだめだと気付いた隠居、今度は将棋盤を出して王様一枚を置いて、持ち駒を
指示、余計なことを言わずに「詰まろうか」と聞く。普通は「詰まるか」だが、そう
言うと必ず「詰まらねえ」というはずだと言う。
これは大成功、悩みに悩んで、
「ううん、これは詰まらねえ」と言ってしまう。
「お前の知恵か、恐れ入った。倍出そうじゃねえか」
「倍出す、おっ、のめるな」
「おっと、差し引いておこう」
【成立】
万治2(1659)年『百物語』の上巻の10は、大名出入りの御伽衆が「やけるわ、やけるわ(熱くなる、熱中する)」という口癖があり、禁止すると、火事をネタに逆に取られてしまう。元禄14()年『百登瓢箪』巻2「癖はなおらぬ」は、鼻をこする癖と頭をかく癖の者が癖をやめようとするもの。宝永2年『露休置土産』巻5「癖者の寄合」は、背中をかく、鼻をなでる、目をこするという三人で、これらは「四人癖」の原話というべきもの。落語の方は二人から四人に発展したようだが、「三人癖」もあるそうだ。上方の資料にタイトルばかりで内容説明がない。
三遊亭円生(6)、三遊亭小円朝(3)三遊亭円遊(4)、金原亭馬生(10)、古今亭志ん生ら、多くの噺家が演っている。三遊亭金馬(3)は「のめる」ではなく「うめえ」を使ったので「二人癖」と呼んだ。柳家小さんも同じ題だが、聞いていない。関西では「二人癖」の方が一般的で、桂米朝もそれで演っている。三人しか登場しないので、若手も取り上げている。前座噺との違いが分かるのは、未熟な者が演じると将棋盤を見た途端に夢中になって引っ掛かるという演り方が多いのだ。最初の漬物とは状況が違うが、隠居に「一枚も二枚も上手だ」と言わせ、相手の方も引っ掛けようとしているのが分かっているのだから、そんなに簡単に引っ掛かるものではない。大御所の演っているように、次第にのめり込んで行く過程を描くのが本筋だろう。その上で落ちになるのだ。
枕で色々な癖の人を紹介するが、噺家の癖が出ると面白いし、そう思って見ていると、噺家にも色々な癖があって楽しい。
【蘊蓄】
山本周五郎『主計は忙しい』の冒頭で、「つまらない」が口癖の男が登場するが、親からの遺伝だという。
詰将棋について、王様一枚だけが真ん中にあって、詰めろという問題で、「所沢の藤吉」さんが作ったものだと言う。
所沢の藤吉という将棋さしが二人いて、一人は福泉藤吉(1766~1837)、所沢から新所沢方面の線路に沿って10分ほどの川端霊園に墓がある。盃横丁の近くってのが「のめるな」ってことで……この人が作った詰将棋が一つだけあるそうだが、詰まらない失敗作だそうだ。
もう一人は大矢東吉(1826~92)で、福泉藤吉にあやかって墓前に誓い、同じ字を使った。新所沢の北に墓がある。明治の将棋盤付で東の大関になっているので、当時の人が効いたら、この人を思い起こしたに違いない。
将棋の方に聞いたら、真ん中の王様一枚を詰めるのに、岡村孝雄の作品があるそうだ。持ち駒は、角に金4枚、銀2,歩9枚だそうだ。
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