新たな道へ ３
数日後、つくしが住み込みをしている食堂では、
ランチタイムの時間だった
古い食堂だったが、安い・早い・美味いと評判で、
特に近くの大学に行く学生がよく利用していた
つくしは、注文を取りに行ったり、食事を運んだりと
忙しくしていた
その中で一人３０代と思われる男性がずっとつくしの様子を見ていた
その視線に気が付いたつくしは、その男性の方に振り向いた
すると、その中年の男性はつくしに手招きをしたので
つくしはてっきり追加注文を取るのだと思い、伝票を持って
その男性に近づいていった
つくしがその男性の席の前で立ち止まると
「追加でご注文ですか？」
と聞くと、その男性はおもむろに名刺をつくしに渡した
はぁ？と思いながらつくしがちらりとその名刺に目を落とすと
そこには
『編集長 池上潤一郎』の文字が見えた
つくしは驚いて目を見開くと
「お時間いただいてもよろしいですか？」
と聞いてきた
「何のご用件かは存じませんが・・・帰ってください」
つくしは間髪を入れずに応えた
自分の事をマスコミがもし嗅ぎつけたのなら
花沢類をはじめみんなに自分の居所がばれてしまう
それに、過去の話をマスコミに掘り返されるのは絶対にイヤ！！
つくしの額には冷や汗が滲んだ
「話だけでも聞いていただく訳にはいきませんか？」
「取材ならお断りです！！」
周りの人間に悟られないように小さい声だがはっきりと拒絶とわかる
声色でつくしは言った
すると、池上は、手と顔を横に振った
「違う違う！！取材で来たんじゃないよ。
図書館に勤めてる佐々木さんって知ってる？」
「・・・はい。知ってますけど・・・」
「彼女からの紹介なんだ。これの事でちょっと話を
させて欲しいんだけど・・・」
そう言って取り出したのは、数日前に佐々木さんに強奪（？）された
つくしの自己満足で書いた超恥ずかしい小説であった
つくしは、それを見るなり顔が真っ赤になり
「そっそれは？！えっ？なんであなたが・・・
うっ嘘！イヤー！！
ギャーーー！！返してください！！」
店に人がいっぱい来ているのにも関わらず大声で叫んでしまった
つくしへみんなの冷ややかな視線が行くとさらに顔が赤くなった
「私とお話し出来る時間を取ってもらえるなら返しても良いよ」
池上は、ひょいとその小説をつくしに取られないように
すかさずカバンに入れると、にっこり微笑んだ
「くっ・・・・わかりましたーーーー。時間取ります！
取りますからぁ！絶対返してくださいよ！！」
つくしは顔を真っ赤にしながら応えた
「じゃあ約束ですよ」
そう言って、ランチタイムが終わる３時ごろに
つくしのいる食堂へ再び来ることを約束した
＜７＞
それからというもの、つくしはバイトどころでは
なくなってしまった
頭の中が自分のこっ恥ずかしい小説を佐々木さん以外の
しかも本業としてる出版社の人に見られていたなんて
そう思っただけで、頭が破裂しそうなくらい血が上ってしまった
このままでは食堂のご主人に迷惑がかかると思い、
つくしは主人に事情を説明し、気分が落ち着くまで休憩を
もらえるように頼んだ
すると食堂の主人は
「もしなんならいつもつくしちゃん頑張ってもらってるし、
このままお休みでいいよ。
それにしても、なんかすごいねぇ！
出版社の人が会いに来るなんて、何の話かねぇ？」
主人のおじさんがニコニコしながら言うと
「わかりません・・・検討つきません。はは・・」
そう言って、二階の自分の部屋で休ませてもらうことにした
＜８＞
ランチタイムの終わる２：３０ころになると、ほとんど
お客さんもいなくなっていた
つくしは部屋で休んでいたが、下に降りてくると
「おじさん、ごめんなさい。忙しいのに休んじゃって・・・」
ぺこっと頭を下げた
「いいってことよ！いつもつくしちゃんには頑張ってもらってるし」
そういうと仕込みをはじめた
厨房の中を覗くと忙しくて出来なかったのであろう
汚れた食器が山積みされていた
つくしはそれを見ると
「私、これ洗いますね」
一言言うと、そでをまくって皿を洗い始めた
「休んでたのにごめんねー」
そう言ってくるおじさんの声が背中越しに聞こえた
しばらく洗っていたら、ガラガラと食堂の扉が開いた
そこには、先ほど来た池上さんと、図書館司書の佐々木さんが
立っていた
佐々木さんがすかさずつくしの傍に寄ると
「つくしちゃん、ごめん！」
両手を顔の前で合わせて謝った
「まさかこの人が直接つくしちゃんの所に向かうなんて思って
なかったの」
佐々木さんが言い終えると
「佐々木さんだから見せたんですよ・・・ていうか私が了解を
しないうちから強奪してったんじゃないですかぁ！！
あんな恥ずかしいモノを・・・とほほ」
つくしがうなだれていると
「いや、そんなことはないですよ。
あなたの小説はおもしろかったです」
池上が応えた
つくしはちょうど皿が洗い終わったので厨房から出ると
立っていた二人を食堂のテーブルのところへ座ってもらい
自分もお茶を出しながら座った
つくしが席に座るのを確認すると
「そこで、お話しと言うのはですね・・・」
池上はかばんから先ほどつくしに見せた小説の原稿を取り出した
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