太っ腹母ちゃんのボコボコ日記

太っ腹母ちゃんのボコボコ日記

gravity

星になりたい


 あたしは、テントの中から彼が写真を撮るのをながめていた。
「静(セイ)。コーヒーでも飲まない?」
 無駄とは知りつつ、声を掛けてみる。
「ん。後で」

 初めて会った日も、こんな風に天体の写真を撮っていた。星の説明なんかも時々してくれるけど、あたしにはチンプンカンプンだ。
 何しろ、覚えようって気が全くない。
 それなのに、こうして夜中の撮影について来てしまう。

 少しでも、静の傍にいたいから。

 声に出して伝えたい。
 だけど……静は大人過ぎて、あたしはまだコドモで。今は妹みたく扱われてるけど、「好き」って言ったら会えなくなるかもしれない。
 そんなのは困る。イヤだ。

 だから、言えない。

「耀(ヨウ)、フィルム取ってくれ」
「うん」
 静のウエストポーチから新しいフィルムを出して、手渡す。指先が静の手のひらに触れる。
 指先から血が逆流するような感じ。

 静は、あたしの気持ちなど察する気配もなく、フィルムを取り替えている。
「静ってさあ」
 あたしは、わざと乱暴に言った。
「カノジョとか、いないワケ? 」
「……え……?」
 静が、撮影済みのフィルムを落とした。そして、慌てて拾いながら
「彼女、いない、んだ? 俺」
と言った。そして、カメラを片付け始めた。
「今日はもうおしまい?」
「ああ。送ってくから」
「だって、まだ十二時だよ。これからじゃない」
「彼女でもないのに、朝まで付き合うことないだろ」
 一瞬、何を言ってるのかわからなくなる。
 カノジョ デモナイノニ
 えっと。じゃあ、今までは……?
「だって、今まで、終わるまで一緒にいたじゃないっ」
 彼女じゃないからって、帰されるのは、困る。イヤだ。

 静は、はーっと大きく息を吐いた。あたしに背を向けたまま、
「耀。返す刀で、も一回切りつけるようなこと言うなよ」
と言った。
「だって、だって……」
 体がカーッと熱くなる。涙が溢れる。震える声で叫んだ。
「だって、一緒にいられなくなるのは困るよっ。静のコト、好きだもんっ」
 静が振り向いた。
「知ってた……って言うか、俺、恋人だと思ってたんだけど……」
 体が震える。何、言ってるの?
「勘違いじゃなかったんだよな。ああ、安心した」
 静はホッとした顔でテントに戻ってきた。
「でも……だって……、キスとか、ハグとか、してくれたコト、ない」
「そういうことしなきゃ、恋人じゃない? 」
 静の目が妖しく光る。あたしの腰にふわっと腕を回した。体に力が入らない。なんだか、怖い。
 静の顔が近づく。
 思わずギュッと目をつぶると……静の唇が額に触れた。
 目を開けると、静が笑っていた。ちょっと悔しい。だけど。
「静。あたしのコト、好き?」
「まあな」
 そう言うと、静はカメラの方に戻ってしまった。

 そうして、やっぱりあたしは写真を撮る静の背中を見つめ続ける。

 あたしは、星になりたい。
 あんなにひたむきに見つめられたい。




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