太っ腹母ちゃんのボコボコ日記

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gravity 2

抱きしめたい


「静(セイ)。コーヒーでも飲まない?」
 耀(ヨウ)の声がした。
「ん。後で」
 答えてから、小さくため息をついた。

 何度目になるだろうか。こうして、耀を連れてくるのは。
 最初は、星に興味があるのかと思った。
 だから、いろいろと解説してみたんだが。

 前に教えたことを、キレイさっぱり忘れてくれる。
 それなのに、誘えばこうして夜中の撮影について来る。

 やっぱり、俺のことが、好き、なんだよな?

 はっきりと告げられたことはない。
 だけど、時々熱のこもった目で見つめられたりして、口よりも物を言っていると思う。
 思い過ごしだろうか。


「耀、フィルム取ってくれ」
「うん」
 耀が新しいフィルムを手渡してくれる。指先が手のひらに触れる。
 触れた部分から、くすぐったいような感触が体に広がる。自分の気持ちを持て余しながら、フィルムを替える。

「静ってさあ」
 唐突に、耀が口を開いた。
「カノジョとか、いないワケ? 」
「……え……?」
 俺は撮影済みのフィルムを落とした。そして、慌てて拾いながら
「彼女、いない、んだ? 俺」
と言った。

 頭の中が白くなる。その次に、自分に腹が立ってきた。
 機材を片付け始める。

「今日はもうおしまい?」
「ああ。送ってくから」
「だって、まだ十二時だよ。これからじゃない」
「彼女でもないのに、朝まで付き合うことないだろ」
 これって、八つ当たりじゃないか。俺、最低だな。
「だって、今まで、終わるまで一緒にいたじゃないっ」
 そうだよ。耀はまだ十五だ。
 俺なんか、気のいいおじさんだと思われてたに違いないのに。
 耀は、家に帰りたくないだけなんだ。

 そんなこと、わかってた。

 俺は、はーっと大きく息を吐いた。落ち着け。
 耀に背を向けたまま、
「耀。返す刀で、も一回切りつけるようなこと言うなよ」
と言った。
「だって、だって……」
 耀の声が震えている。
「だって、一緒にいられなくなるのは困るよっ。静のコト、好きだもんっ」
 今、何て言った……?
「知ってた……って言うか、俺、恋人だと思ってたんだけど……」
 俺も、何言ってるんだ?
「勘違いじゃなかったんだよな。ああ、安心した」
 もう、いいや。どうにでもなれ。
 耀に向かって歩いていく。
「でも……だって……、キスとか、ハグとか、してくれたコト、ない」
「そういうことしなきゃ、恋人じゃない? 」
 一瞬、ぐっ、と抱きしめたくなる。

 いやいや。だめだ。
 耀は俺の宝物だ。大事にしたい。

 体に触れないように気をつけて、腰に腕を回す。
 もっと近くで顔が見たい。
 近づくと、耀がギュッと目をつぶった。かすかに震えているようだ。

 そんなに、怖がられちゃなぁ。
 額に軽くキスをした。

 顔を離すと、耀が目を開けた。少しすねたように聞く。
「静。あたしのコト、好き?」
「まあな」
 そう言うと、カメラの方に戻った。
 これが限界。
 あまり近くに居過ぎると、我慢できなくなるから。

 そうして、やっぱり背中に耀の視線を浴びながら、写真を撮るフリをする。

 いつになったら、まっすぐ見つめあえるだろうか……。




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