不安とプライドと自己嫌悪

不安とプライドと自己嫌悪

クレイジーさん


研修はおおむねチーム形式で、チームメイト7人にチーフ(先輩社員)が一人つき、
右も左もわからないド素人の新人を指導してくれた。
わたしは素人中の素人で、ワープロ打ちはどうにかできるけれども、
エクセルって何? アクセスって何? という状態だった。
そんな人間にゼロから言語を学ばせて、
プログラムを作成できるまでにしなければならないのだから、並大抵のことではない。

そのチーフは6つ年上で、線の細い、クールな感じの人だった。
細身のネクタイとダークな色のシャツを合わせ、タバコと香水の香りがした。
第一印象は正直言って
「なんだこのホストみたいなにーちゃんは? 会社ってこんなのもありなの?」
だった。
なのに、わずか数ヵ月後、わたしはめったやたらとそのホストみたいなにーちゃんを好きになってしまった。
その人に奥さんがあることは知っていたから、手に入れられるなんて思っていなかったけど、
もう少し、あと少し仲良くなりたい、その一心であらゆる策を弄した。
彼のために携帯を2個持つようになったり、ビリヤードを始めたり、タバコの銘柄まで彼に合わせた。
その行動はバレバレだったと思われる。

彼は、当然わたしの思いに気づいていたはずだ。

ところでその当時、わたしの同期にもう一人、彼に熱を上げている子がいた。
その子はもっと公明正大で、ごく自然に映画に誘ったり食事に誘ったりしていた。
そしてクレイジーな彼は普通に彼女に付き合って、映画にも食事にも行っていた。
彼女には恋人がいて、彼には奥さんがいて、それは周知の事実だったから、
彼らは却って気軽に遊びに行けたのかもしれない。
わたしは彼女に激しく嫉妬した。
彼女のことは好きだったんだけれど。

クレイジーな彼は彼女との関係をごく普通にオープンにしていた。
もちろんそれ以上の何かがあったことはないと、彼女から聞いているし、それを信じている。
でもわたしには彼の行動はクレイジーに見えた。
そしてクレイジーでもいいから、自分とも仲良くしてくれればいいのに、そう思って切なくなった。

今ではもうクレイジーさんに対する熱は冷めてしまったけれど。
彼の姿を見るたびに、懐かしい感慨に駆られている。

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