絨毯屋へようこそ  トルコの絨毯屋のお仕事記

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2005年03月10日
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カテゴリ: 出張表話&裏話
トルコの西アナドルのイーネオヤの話なんですけど・・・。


イーネオヤに興味がある人は個別にどうぞ。

イーネは縫い針で、オヤはレース編み・・・。
簡略化して言うと、縫い針によるふち飾り。
トルコで民族的なスカーフの周囲についている飾りで、普通に見られるのは簡単な「かぎ針」で縫われたものだけど、縫い針だから貴重。目をひとつひとつ結ぶ面倒な技術で、細かく、テクニック的に立体の複雑な形も可能。
平面的な幾何学モチーフはアンタルヤ地方でも見られるけど、立体的なお花をモチーフにしたものがおもしろい。

イーネオヤ自体が特殊な技術で、地方が限定される。
さらに立体的な花を編む地方、村になるとさらに限定されるし、現代でその技術を持っている女性となるとさらにさらに貴重である。


だからいいの・・・。
その地方まで出張して、村や各家庭を訪ねながら、古いものを探して歩く。それも楽しみ。
以前のように村民パザールでは、古いものは出てこない。
家庭に隠してあるものを探すしかないのだもん。

今回の出張で、とある湖畔の田舎町へ行ってきた。
イーネオヤの伝統があるところで、未だにやっている人もいる。
でもミフリ社長は新しいものには全く興味がない。・・・というか、見ると素敵なんだけど、求めているものと違うので、手にとることはない。

で、今回、訪ねた家というのが、祖母、母がイーネオヤの名人で、最近も嫁入り道具として、近所のトルコ人女性たちからのオーダーを受けて編んでいる家庭。
でも目的は今編んでいるものじゃなくて、過去に作ったもので隠し持っているものである。

まず通されたのが、イーネオヤの展示部屋。10畳ほどの部屋にイーネオヤのスカーフ、イーネオヤのタオル飾りがところ狭しと並んでいた。
まるでお店である。


だからそれが出てくるのをじっと待つ。
待つこと30分。やっと出してきたくれたダンボール箱に入っているものは、それは見事なオールドものであった。
シルク地のもあれば、手押しヤズマに縁取られたイーネオヤの数々。
祖母と母親が作ったものだけど、現在の所有者は娘ということである。

娘の事情で、売りに出してもいいという話であったから、来たのだけど、それを見ながらその由来など、いろいろ話を聞けたのもよかった。


私の好みから言うと、近年のは大柄で雑なのであまり好きではない。
でも箱から出てきたのは、同じようなモチーフなのだけど、どこか違った。
雑は雑であるが、きっちりしていて、とにかく1つ1つのオヤ部分が大きいのである。

普通のオヤは1つの花が1cmぐらいからせいぜい4cmほど。
ところがここのは12cmから15cmぐらいのがある。
婚礼などの特殊なものであるが、名前を聞いているときに「ナスの花」というのがあって、それがとにかく欲しくなった。
ところがどうしても売ってくれないし、欲しいなら新しく作るという・・・。

違う! 新しいのはいらんの! と言って、いろいろな方法で説得をしたのだが(欲しいものがあると何時間でも何日でも説得して、なんとしてでも手に入れる・・・・強欲で強引である)
どうしてもダメである。

ナスの花のオヤは一人の女性にひとつだけ所有できる。
意味は「結婚への希望と夢」。
この地域で結婚を望む若い娘は、これをもたずに嫁に行けないそうである。

どうしてナスなのか・・・?
昔からそうだから・・・・という返答しかもらえなかったけど、かならず意味はあるわけである。それはあとの課題。

ナスの花のオヤはどうしてもダメだというので、40~50年前のその他の巨大オヤを狙った。まずは旦那を説得すると、旦那はOK。
所有者の娘も納得。

そのまま強引に持って帰ることもできたのだけど、母親が「それは私のお母さんの思い出だから・・・・」と、拒む。
はっきり言って、提示した金額はかなりいい。
売るというから行ったのに、いざ、買われそうになると、拒んでいる。

ときどきはこれが値を吊り上げるための方法だったりするけど、この母親のは本物の拒否であった。

母親が首を縦に振らないので(トルコじゃ、縦に振られたらノーの意思表示だったりするけど・・・)、こちらもあきらめることにした。
私たちは皮肉なことに、こういうものを交渉に交渉を重ねて手に入れることで商売になる立場であるが、もともとは個人のものであり、売るために作られたものでないから、それぞれの思い出がこめられているものである。

大切にしている人の手から、それを奪うことは、なんだかつらいことである。
だから今回はあきらめたわけだけど、思い入れのあるものだから、私もひかれるし、それらをコレクションする人たちがいるし、だから私の商売が成り立つわけである。

変な話だよね。
毎回、わざわざ情報を聞きつけて、遠くから出向いて、時間をかけて、こういう交渉をしながら、今回のようにあとで自問自答することもある。

お金に困って売られるし、私が買い、また誰かに売られていく。
だけど、これが本来ある場所はそこじゃなない・・・・・・。
誰のために作られたのか・・・・その人の手元にあるべきもの、もしくはその思い出を持つ人に・・・。

オヤに限らない。
キリム、絨毯、その他いろいろ・・・・。

・・・・って考えて、今回は古い、ナスの花もいくつかのおもしろいものも手に入れることはできなかったのだけど、大切にしている人のもとに残ったわけだから、私の商売にはならなかったけど、気分は悪くない。

でもね。思うわけ。
いつかは誰かに売るのだろうな・・・・。
悔しいなあ・・・・。

・・・・って書いてみて、また思った。

まあ、いいか。
ナスの花の話が聞けただけでもよかった、って。





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Last updated  2005年03月11日 06時24分37秒
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