12.蠢動

 12th Section. 蠢動

びくりと《依代 (ホスト) 》候補の体が痙攣し、直後にぐたりと力を失った。
死んではいない。無意識状態に陥っただけだ。
死なれては困る。死なれたら、今後の予定が狂ってしまう。
《依代》は、あくまでも“生きた人間”でなければ作れないのだから。
《寄生主》から、増殖プログラムを組み込んだ添付ファイルをメールを経由して送らせておいたのは正解だった。
『それ』一人だけの力で、候補を《依代》化する事は難しかったのだ。
体内に納めた増殖細胞含有特殊金属製のコードを放出できる数は限られる。もし無尽蔵にそれを出すとすれば、その時は《依代》自身の肉体を破滅させる事と同義だ。よほどの任務でない限り、無駄な“捨て身”をする訳にはいかない。
しかし、暴れる候補を取り押さえて増殖細胞の埋め込みにありつくには、やはり体内コードを大量に放出する必要がある。
自らの機能を抑えながらも、候補の捕獲を完了させる方法は一つしか無かった。
それが、今回とった手段だった。
機器内で展開され発動した増殖プログラムは、パソコンを仮《依代》として、内蔵されていた部品を細胞金属化した。そして同じプログラム内に組み込んでいた命令に従い、すぐ近くにいた《依代》候補の肉体への寄生を開始した。その際、自動的にその《依代》候補を拘束し、増殖する。増殖プログラムによる仮《依代》は細胞金属コードが寄り集まった塊に過ぎないので、それを納める本体が破壊されても構わない。
やはりこの手段は、正解だった。
『それ』は、目の前でコードの塊と化した《依代》候補の首筋から手を離した。
増殖は既に、例によって開始している。だがこれだけに任せておくわけにはいかない。
『それ』は眼孔に密集したコードを更に蠢かせ、その奥で形成させていた小さな部品を外へ取り出した。
コードの先端でその部品を掴み、気絶している《依代》候補の口の中へとそれを導いていく。
『それ』に刷り込まれた基本知識上では、その部品を《核 (コア) 》と呼称していた。この《核》を埋め込まれた《依代》は、《核》を最初に形成した《依代》と同じ任務を頭脳回路に焼き付けられ、共同性を持った行動が可能となる。つまり、『それ』が形成した《核》を内に持つ事となるこの《依代》候補は、これから『それ』と同じ目的で行動する事が出来るのだ。
また、仮《依代》の増殖を経ただけで《依代》を作ると、回路による判断力・知識その他の分野に於いて不十分が出来てしまう。しかし既に完成された《依代》が己の部品の一部を提供した《核》を埋め込めば、その空白部分を補充できる。
この少女を苗床としての《依代》形成は、増殖細胞と共に直接《核》を挿入したので、楽だった。
少女の姿をした『それ』は、《核》を掴んだ眼孔からのコードを《依代》候補の口の中に差し込んだ。
気管を通り、途中でその管の壁を破り、肉を掻き分けるようにして突き進み、脳髄に達する。
そこで《核》を手放し、『それ』はコードだけを体内に引き戻した。
ごぼごぼと、《依代》候補の皮膚が絶えず蠢く。
その様子を見て、『それ』は無意識に口の端を歪め、無機質な嗤いを浮かべていた。
校舎の外では、朝日が昇りつつある。
古びた体育準備室のカーテンから差し込む薄い光が、新たに生み出された悪魔の手下の姿を煌煌と照らし出した。


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