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イン ミラーワールド -2



その世界は不思議だった。
芝生の上なのだろうか。緑の地面。
そして、たまに何かのアトラクションとかで見る迷路のように緑の木々で細く道が区切られていた。
ただ、違うのはその高さ。
どこまでも高くそびえている。
向こう側を覗こうにもこれじゃ見えてくれない。
そして、木々に手を伸ばしてみると棘がいっぱいあって向こう側にはいけそうにもない。
私は自分が立っているところを見ていた。
前と後ろに道が伸びている。
前はT字になっていて、後ろは十字路になっている。
闇雲に歩くと迷子になりそう。
私はそう思った。
自分の歩く方向を良く見てから進まないと迷子になってしまうかも。
私は前に歩いて右に曲がった。
曲がった少し先に人がいるのがわかった。
背の高い女性。すらっとした手足はモデルのような感じ。
髪はパーマがかかっていて一つに束ねてあった。
背の高い彼女は地面にカードを並べていた。
タロットカードだ。
背の高い彼女はカードをまとめて鞄にしまい、私のほうを向いて話して来た。

「この世界では始めましてかな。『アリス』
 私はイズミール。
 私はずっとあなたを、『アリス』を待っていたの。だってあなたの出現は占いで出ていたから。そう『アリス』は私にとって『運命の輪』の正位置のカードですから」

私は彼女の、イズミールの話を聞きながらタロットカードの意味を思い出していた。
そういえば昔アニメの影響で少しだけ意味を覚えた記憶がある。
『運命の輪』の正位置。
確かいい意味だったと思う。
でも、ちゃんと思い出せない。
イズミールが話を続けてきた。

「いきなりゴメンなさいね。私はどうしても運命を占ってしまうの。
 だって、これから起こる出来事が不安だから。だから知りたくなるの。
 次に出逢う人の流れに私の沿っていく。その運命が見えたの」

私はなんとも言えなくなった。
私だって占いに頼っていた時だってある。いや、何かに頼りたいって思っていた時だってある。
けれど、やはり歩き出すのは、選ぶのは、最後は自分だから。
その勇気がカードなのかも知れない。
イズミールが続けて話して来た。

「でも、占いに頼ってばかりもいられない。けれどあたってしまうから。
 だから頼ってしまう」

私は一瞬びっくりした。
そんなに当たる占いなのだろうか。
私はよせばいいのに聞いてみた。

「それって相性占いとかも出来る?」

そう、私は気になっているハオとの未来を知りたくなった。
イズミールは頷いた。
私ははやる気持ちを抑えられずに聞いた。

「ハオと私の相性を占って欲しいの」

その瞬間イズミールの表情が曇った。そして、話して来た。

「ハオ様との未来は知らない方がいいわ。それに調べたとしても出るカードは解っているの。このカードのはずよ」

そう言ってイズミールは鞄の中に手をいれ、中も確認せずに出してきた。
そのカードはタワーの逆位置だった。
私の記憶ではタワーは正位置でも逆位置でもいい意味はなかったはず。
けれど、まだ逆位置。
私は恐る恐る聞いた。

「これって、どういう意味だっけ?」

イズミールは答えてくれた。でも、それは私が望んでいるものではなかったけれど。
イズミールの答えはこういうものだった。

「タワーのカード。
 これはもともと人の傲慢から始まったの。
 このカードの絵にあるタワーの元は旧約聖書のバベルの塔なの。
 人はその傲慢から天にも届きそうな塔を建てたの。
 中には自分がスーパーマンと勘違いして空を飛べると思ったものがいたり、王と同等の力を持っていると過信して王冠を身に着けたりしていたの。
 そんな傲慢な人を神は許さなかった。罰をあたえたの。
 雷を落として、天変地異を起こしたの。
 堕落していることにも気がつけず王冠を身に着けたまままっさかさまに落ちたり、飛べると勘違いをした人はただ地に落ちていくだけ。
 分不相応なものを求めた結果。
 これがこのタワーのカードの意味よ。カードには意味だけじゃなく物語としての意味もあるの。単なる正位置の意味はこうだとか、逆位置の意味はこうだからということだけで見ていたら本当に伝えたいものを拾いそびれてしまうから」

イズミールがそう言ってきた。
私ははじめて知った。
タロットカードにはカードそのものに意味が、そして物語があるということを。
ハオを思うことは私にとって背伸びをしていることなのだろうか?
解らない。
けれど、やはりもう一度会いたいって思ってしまう。
それにどうしてみなハオをハオ様と呼ぶのだろう。
私はイズミールに聞いてみた。

「ちなみに、どうしてハオを『ハオ様』って呼ぶの?」

イズミールは話してくれた。

「ハオ様だけは特別なの。
 ハオ様はこの世界の、鏡に閉ざされた世界から抜け出せる唯一の人なの。
 でも、それはハオ様がこの鏡の世界に本当の意味でいるから。
 私も『アリス』も本当はこの世界の住人じゃないでしょう」

私は解らなかった。
鏡の中にしかいない人。
確かに私がこの世界に来た時、ハオは鏡の中にしかいなかった。
私は、それはこの世界の人がみなそうだと思っていた。
鏡の中にしかいないハオ。
どういう意味なのだろう。
私は考えていた。
イズミールが話して来た。

「ねえ、『アリス』進まないとこの緑の迷宮からは抜け出せないよ」

イズミールの言葉に私はコクリと頷いた。

イズミールは分かれ道のたびにカードを出して道を決めていた。
どれくらい歩いただろう。
1時間以上は歩いたはずだ。
イズミールが話してくる。

「もう少ししたら広場にでるからそこで休みましょうか?」

そう言ってイズミールがカードを取り出した。
その瞬間イズミールが軽く悲鳴を上げた。
出てきたのは「戦車、チャリオット」の逆位置だ。
私はイズミールにカードの意味を聞いた。
イズミールは話す。

「戦車のカード。
 白と黒のスフィンクスを従えた鎧を着た若者のカード。
 白のスフィンクスは戦場へ駆り立て、黒のスフィンクスはこのまま逃げたいと訴えてくる。
この2体のスフィンクスは、自分の中の葛藤と同じ。
そして、着ている鎧は仮面と同じなの。自分を表さないようにね。
でも、下半身はすでに戦車と同化している。
もどることなんて出来ないの。逃げたくてももう戦士じゃなく戦車になってしまっているから。
そういう悲しいカードでもあるの。
だから、自分を奮い立たせて突き進むしかない。
弱さを鎧に隠してね。
逆位置は準備をしなさいってこと。つまりこの先に何かがあるということ」

イズミールはそう言ってきた。
私は自分の姿を見てみる。
腰には剣がささっている。戦わなきゃ。相手がボーン一人だといいな。
私はそう思っていた。
相手がボーン一人なら勝てるかも知れない。
いや、同じ能力だから負けるかも知れない。
ハオの言葉が頭に浮かんだ。

「気持ちは強く持っていてください。
 でないと強さは『1』にすらなってくれませんから」

私、強くなるね。そしてハオとの運命を切り開いてみせる。
たとえどんなに困難な道でも。

私とイズミールは少し休憩をしてから先に進んだ。
そこは少し広くなっている場所だった。
そして、そこにいたのはトランプ兵1体と変な杖をもった人がいた。
イズミールがいう。

「ビショップがいるなんて」

私は記憶の中を読み戻していた。
ビショップの能力は『3』
ナイトと同じ『3』だ。
勝てっこない。
逃げようとした時には後ろにトランプ兵が1体いた。
私はイズミールの手を引っ張って広場の中に入った。
心の中で叫んでいた。

「助けてハオ」

何度も、何度も。


広場の中に進むとビショップが私たちに寄ってきた。
ビショップ。
赤い法衣に纏い、杖をもっている男性。
ビショップなんていうから結構年齢がいった人なのかと思ったら若い男性だった。
目鼻立ちがはっきりして濃い顔の男性。
ビショップが話して来た。

「わざわざ狩りだされてきたと思えばボーンの『アリス』だけですか。
 面白くないですね~
 実に面白くない。あなたを弄っても面白くなんてないんです。
 早く「アイツ」を呼んでもらえませんか?
 あの忌まわしい『ハオ』をね」

ビショップはそう言って杖の先にある球体で私の頬をたたいてきた。
横でイズミールが震えている。
横のトランプ兵がビショップに何かを話している。
耳を澄ましてみた。

「ラルゴ様。いいのですかハオを呼んで。
 先にこの女だけでも倒しておいた方がいいのでは」

そう言ってトランプ兵はイズミールを指しながら話していた。
どうしてイズミールを先に。
私は思った。
ビショップは、ラルゴと呼ばれた男は言って来た。

「ああ、確かにまだ覚醒していないが、こいつもボーンになる可能性があるからな。
 だが大丈夫だろう。何も出来やしない。
 強い意志がない限りボーンにすらなれないからな」

ラルゴと呼ばれたこのビショップは嘲笑してきた。
その時緑の壁が光って大きな音がした。
風が吹く。
緑の壁が吹き飛び、そこからハオが現れた。
ハオはすぐに私とイズミールの間に立ちはだかる。
ハオの背中が大きく見えた。
いたるところ傷だらけだ。あんな棘だらけの壁を突っ切ってきたのだから。
背中越しにハオが話して来た。

「僕らの『アリス』遅くなりました。
 そして、もう一つ。言うことがあります。全力で逃げて下さい。
 今の私ではこのビショップ、ラルゴの相手をするので精一杯です。
 今の『アリス』ではボーン2体を相手にするなんて出来ませんから」

ハオはそう言ってきた。
私の返事の前にラルゴが話して来た。手をたたきながら。

「おや、意外とハオが早く出てきましたね。
 待っていましたよ。あなたの目の前でこの『アリス』を消し去ってあげようと思っていたのですから」

そう言ってラルゴは指を鳴らした。
その時前の通路をふさぐ形でトランプ兵が現れた。
後ろの通路にもトランプ兵が現れた。
相手は、ビショップとボーンが4体。
どう考えても勝てない。
相手はビショップの「3」とボーンの「4」
こっちはハオの「3」と私の「1」
イズミールがもしボーンに覚醒したとしてもプラス「1」なだけ。
全然足りない。
ラルゴの嘲笑だけが響き渡る。
ハオが私に言って来た。

「諦めないで下さい。諦めたその瞬間から道は閉ざされますから。
 そして、信じて下さい。私を」

私はハオの声に頷くことしか出来なかった。
ハオは私とイズミールを庇うように立ちながら剣を抜いた。
私も剣を抜いた。
ハオはラルゴの攻撃を受けながらトランプ兵の攻撃も受けていた。
私はトランプ兵一人を相手するだけで精一杯だった。
後ろからトランプ兵が来る。
槍が向けられていた。
やられる。
ラルゴの嘲笑だけが聞こえていた。


鈍い音がした。
目の前ではハオがラルゴと戦っている。
それは変わらない。
ただ、違うのがラルゴの表情。そして、私がまだ生きているということ。
ゆっくりと私は後ろを見た。
そこには黒い鎧を着た人が槍を受け止めていた。
一瞬ビックリした。
顔はハオにそっくり。
ただ、違うのはハオが顔の右側がその金髪でかくれているのに対して、その黒い鎧の人は右側が隠れていた。
黒い鎧の人が一閃。
トランプ兵は消えていった。
ラルゴが言う。

「どうしてこんなところにマオがいるんだ。お前は白の女王のナイトだろう」

マオ。
黒の鎧の人はそう言われていた。
ハオにそっくりなマオ。
私は二人を見ていた。
ハオが言う。

「マオ、助けに来てくれたのか」

だがハオと呼ばれた人は違っていた。

「別にこんなボーンを助けにきたわけじゃない。
 俺はただここでビショップを狩りに来ただけだ。こんな序盤でビショップが狩れるなんてそうないからな」

だが、そう言って黒い鎧に身を包んだマオは私の近くにいたトランプ兵を一閃して倒していく。
さらに一人。
マオは3人のトランプ兵を倒していた。

「さあ、後はラルゴ、お前を倒すだけだな」

マオは吐き捨てるように言って剣を構えた。
ラルゴは苦悶の表情になる。
こっちはナイト二人に私。
ポイントでいうと「3」+「3」+「1」で「7」だ。
相手はビショップとボーン2人。ポイントは「5」だ。
どう足掻いたってラルゴは勝てない。
ラルゴは手にしていた杖を地面にたたきつけた。

「危ない」

そう言ってハオが私の所に走って私とイズミールを抱え込むようにして、ラルゴに背を向けた。
瞬間、ものすごい閃光があたりを包む。
目がくらむ。

あたりを見渡したら、ラルゴもトランプ兵もいなくなっていた。

「逃がしたか」

マオがそう言って剣を鞘に戻した。
ハオが可愛いカッコをしているのに、マオは同じ顔なのに黒い鎧に身を包んでいる。
不思議だった。
ハオがマオに話しかける。

「助けに来てくれてありがとう。白の女王の命令なのでしょうか?」

ハオの話にマオは首を横に振っただけだった。
私はきょとんとしていた。
ハオが私に向かって話してくれた。

「すみません。僕らの『アリス』紹介が遅れました。私の弟の『マオ』です」

そう言ってマオを見るとこっちすら見てくれなかった。
そして、マオはこう言った。

「ああ、かつては兄弟だったな」

そう言ってマオは横を向いた。
ハオが言う。

「弟は恥ずかしがり屋なのです。すみません。でも今回は私の力だけでは僕らの『アリス』を守れなかったのも事実。今度はちゃんと私の手で助けて見せますから」

そう言ってハオは頭を下げた。
私はハオに頭を下げられる度になんともいえない気分になる。
そういうのを求めているわけじゃないのに。
私が何も言えずにいたらマオが話して来た。

「こんなどうしようもないやつ庇ったって仕方ないぜ。
 どうせ守るのならもっと色気のあるお姫様がいいよな~」

そう言ってマオは私を見てくる。
何よ、ハオと同じ顔なのにこの態度。
私は気がついたらマオに向かって話していた。

「何よ、その態度。私のどこが色気がないっていうの。
 それに私はあんたなんかに守ってもらいたくないわよ。
 私はハオに守ってもらうんだから」

そう言ってハオの腕にしがみついてみた。
多分、こういう何かがはじけた時じゃない限りハオの腕になんてしがみつけない。
ちょっと計画的かも知れないけれど私はハオの腕にしがみついてみた。
マオが話してくる。

「ああ、そういう態度を取るところが色気がねぇんだよ。
 色気ってのはガキにはねぇんだよ。
 大人の余裕っていうやつ。それがねぇからダメだって言ってんだよ。
 それにさっき守ったのは誰だ?俺だろ?」

マオはそう言って反り返りながら上から私を見下ろしてきた。
むかつく。
私はマオに向かってこう言った。

「あんたさっき言ってたわよね。守りに来たんじゃない。ビショップを狩りに来たって。
 そのついでだったんでしょう。
 なのに、肝心のビショップは逃がしちゃうし。サイテーね。
 私のハオ様ならそんな失敗しないわよ」

私は思いっきり舌を出して言った。
ハオが困ったように私に言って来た。

「僕らの『アリス』マオは身をもって助けてくれたんだよ。
 あのビショップの閃光の時、マオは襲い掛かってきたボーン2体を倒してくれた。
 ボーンの奥に逃げていくビショップに追いつけなかったけれどね。
 だから感謝を」
そして、ハオはそのままマオに向かっていった。

「マオもだ。女性に、それに『アリス』にその言い方はないだろう。
 ちゃんと謝りなさい」

ハオに言われたマオは私の顔も見ずに
「スミマセンデシタ」
って、感情がまったく入っていない言い方をしてきた。
なんだか腹がたってきた。けれど、ここでさらにマオに怒るとハオに悪い。
私はマオに向かって同じように
「スミマセンデシタ」
って、心を込めずに言った。
妙な空気が流れる。
その時、何か違和感があった。

「きゃ~」

イズミールが後ろで叫んでいる。
イズミールは手にタロットカードを持っていた。
手にしていたカードは「死神」のカード。
正位置だった。

イズミールが話す。

「死神のカードはそれ自体は悪い意味というものではないの。
 全ての始まりは純粋なもの。
 そして終わりもまた純粋。
 今の世界をリセットして新しい世界に行く。
 けれどそれには痛みが伴うこと。
 そう、何かが終わるということは自然なこと。
 死神のカードにはちゃんとその先に登る太陽が照らされているの。
 その先に行くために不要なものは捨てないとダメ。
 捨てられなかったら先には進めずただ終わるだけなの。
 でも、このカード。光が、太陽がなくなっているの。
 つまり、この先に光はないということを暗示している。
 今までカードが変わったことなんてなかった」

イズミールは震えていた。
私はイズミールに言った。

「未来なんてわからないもの
一歩踏み出してみないとその先の景色は見えないもの」

そう言ってイズミールに手を差し伸べた。
イズミールが私の手を取る。
その時、『死神』のタロットカードが動き出した。
ハオが話し出す。

「危ない。これはビショップの魔法だ」

そう『死神』のカードから赤黒い闇が広がり緑の世界はどんどん赤く、黒く染まっていった。
緑の地面がぐらっとゆれる。
倒れそうになった。

「危ない」

そう言ってハオが私を支えてくれた。
私たちはそのままぐるりと赤黒い世界に飲み込まれていった。



降り立ったところはコロッセオのようなところだった。
色んな観客の声がいる。
何を言っているのかもわからない。
ただ、叫んでいるだけ。
私は怖くなった。
けれど、私を包み込むようにハオがいる。

「おいおい、なんだここは?」

マオが私とハオの前に立ちはだかる。まるで私たち二人を守っているみたい。
そう言えば私はマオの後姿を良く見ている。
ハオが耳元に囁く。

「僕らの『アリス』ここはさっきと同じ広場のはずです。
 今の世界はビショップの、ラルゴの幻覚です。
 このどこかにラルゴがいるはず。
目を閉じて探して欲しい。多分これから起こることを考えるとアリスにしか出来ないことなんです。本当ならばこんなお願いをしたくはないのですが、僕らの『アリス』が真の『アリス』になるには必要なことなのかも知れません。お願いできますか?」

耳元でハオに囁かれた。私は体全体がまるで心臓になったようにドキドキしていた。
多分、私の耳は高確率で真っ赤のはずだ。いや、耳だけじゃない顔も真っ赤かも知れない。
私はハオに向かってコクリと頷いた。
大きな声が広がる。

「さあ、みなさん。今宵はナイト二人による争奪戦です。
 戦ってもらうのはこの少女、イズミールという少女をかけて二人のナイトが戦うのです」

そう言ってコロッセオの上の方にラルゴがイズミールを掲げた。
ハオが話し出す。

「あそこにはラルゴもイズミールもいない。
 僕らの『アリス』目で見るものだけを信じないで下さい。けれど、最後まで自分だけで進まないで下さい。『アリス』は一人じゃないですから」

ハオがまっすぐ私を見て話していた。
ハオの話しの内容はわからなかった。けれど私はコクリと頷いていた。
マオが話し出す。

「おい、おっさん。なんでそんなやつを賭けて戦わないといけないんだ。
 俺はそんなヤツ八つ裂きにされてもどうでもいいぞ。見知らぬ他人だからな」

マオはそう言って剣を抜いて周りを見ている。
ラルゴが大きな声で話してくる。
声が響いてどこから声が出ているのかが解らない。
私は目を閉じた。
ラルゴはこう言っていた。

「おや、そこにいるのは兄に勝つこともできない負け犬のマオじゃないですか。
 ちょうどいい。そこにいるハオと戦ってどちらが強いナイトか試してみようじゃないですか?
 それとも、やはり兄には、ハオには勝てなくて戦う前に尻尾を巻いて逃げ出すんでしょうか?」

ラルゴの声の後、いたるところから「負け犬」コールが響く。
どんどんマオの表情が変わっていく。
マオが叫ぶ。

「あ~、誰が負け犬だ。
 俺がこいつに劣るとでもいうのか」

そう言ってマオはハオに剣を向けた。
何、乗せられているのよ。あの馬鹿。
私はあの馬鹿に馬鹿マオに言わなきゃ。
そう思って口を開こうとしたらハオが私の唇にハオの人差し指を当ててきた。
え?
ビックリしているとハオが言って来た。

「大丈夫、マオは落ち着いていますよ。アリス。この隙にラルゴの場所を」

そう言って、ハオも剣を抜いた。
ハオはマオに向かって叫ぶ。

「落ち着け、マオ」

だが、マオは剣を地面に軽く切りつけ土をハオに向けて切りつける。
目潰し。
ハオは「マオは落ち着いている」と言っていたけれどそうと思えなかった。
マオは力いっぱいハオに切りつけてきている。
ハオは防戦一方だ。
マオは距離をとったと思ったらまた地面の土を巻き上げている。
私はその拮抗している二人の戦いにへなへなと座り込んでしまった。
下の土が冷たい。
いや、ハオがいうようにこれが幻覚なら下は土じゃない。芝生のはず。
私は地面に触れてみた。
撫でるように。何度も。
目を閉じる。
触れる感触が変わってきた。
ちくちくしてくる。
芝生の感触。初めは指先からだった。けれど今は座っている体全体で感じてきている。
あれほどうるさかった歓声も聞こえない。風の音が聞こえる。木々を揺らす音。
そして、聞こえるのはハオとマオの戦っている音。
剣と剣がぶつかり合っている。
どこかで違う声が聞こえる。
呪文のようだ。聞き取れないが何かをつぶやいている声が聞こえる。
私は目を開けた。
世界はうっすらと違って見える。
コロシアムがあるように見えるが透き通った黒い世界。
その奥にはっきりと芝生が見える。
マオは地面を切りつけているように見えたが、芝生の上の部分だけを刈り取っているだけだ。
そして、その芝の一部が飛び交っている。しかもゆっくりと。
私は目を凝らした。奥のほうにラルゴがいる。
杖を地面に突き刺し、目を閉じて瞑想をしている。
私はイズミールを探した。
イズミールは私のすぐ近くで目を閉じて耳をふさいでいた。
私はイズミールに近づいて、肩に触れた。
イズミールが震えているのがわかる。
そっと抱きしめた。
イズミールは耳をふさぐのをやめてゆっくりと私を見てくれた。
私はイズミールに話した。

「目を閉じたって世界はかわってくれない。目を開けた時に世界がよくなっていることなんて少ないもの。
 だったら目を閉じずに世界を見ていた。それがどんな世界であったとしても。
 目を開けた世界がイヤだったら自分から変えていけばいいんだもの。
 踏み出すことって勇気がいること。
 でも、踏み出さない限り世界は変わってはくれない」

イズミールはゆっくりと頷いた。
その時、イズミールの中で何かが光った気がした。
イズミールの腰に剣が現れる。私の前の世界で知った。
ボーンの自覚。
そう、戦おうって思ったときに現れてくれたんだ。
私はイズミールの手を取ってラルゴの方を向いた。
ラルゴはまだ呪文のようなものを唱えている。
私はラルゴの方にゆっくりと向かった。
様子見のため私一人で行った。

近づくとラルゴの目は閉じられている。
今なら大丈夫かも知れない。
心臓がドキドキする。
剣を構えて近づいたとき、ラルゴの目が一気に開いた。

「私も舐められたものですね。ボーン2体に遅れをとるとでもおもっているのでしょうか?力の差というものを見せてあげましょう」

そう言って杖の先にある水晶が光った。
風が吹く。
私は体制を崩して倒れてしまった。
だが、倒れて正解だったのかも知れない。
後ろの木々が切り倒されていっている。

「おや、運もいいのですね。流石は『アリス』と言ったところなのでしょうか?
 だが、その運もどこまで続くのでしょうね」

そう言ってラルゴは杖を振るってきた。
旋風がやってくる。
剣で防げるのか。
私は怖くて剣で受け止めるなんて出来そうにない。
逃げなきゃ。
なのに足が動いてくれない。
「きゃ~」
私は気がついたら叫んでいた。

旋風の前にものすごいスピードで何かがやってきた。
鈍い音がした。
そこにはハオが剣で防いでくれていた。
ハオは後ろ向きに言って来た。

「遅くなりました。もう大丈夫です。終わりましたから」

そう言ってハオはゆっくりと私の方を向いて笑っていた。
ラルゴが言う。

「何が終わったというんですか?あなたの相手は、、、」

だが、ラルゴの言葉は途中で消えていった。
ラルゴは背中から一突きされていた。
ラルゴが言う。

「一体これは?」

ラルゴの後ろにはマオが居た。マオが言う。

「言っただろう。俺はビショップを狩りに来たんだってな。
こんな序盤でビショップが狩れるなんて滅多にないからな」

ラルゴが言う。

「お前は理性を失ってハオと戦っていたはずじゃ・・・」

ラルゴはそう言いながらどんどん薄く消えて行っていく。
マオが言う。

「あんな子供だましで踊らされるかって。俺を誰だと思っているんだ。
 白の女王のナイトだぞ」

その言葉を聞き終える前にラルゴは完全に消えていった。
私はマオに向かって話した。

「てっきり私は踊らされて本気でハオ様に攻撃をしているのかと思ったわ。
 あれは演技だったのね」

マオは少し照れくさそうに「あぁ」とだけ言った。
ハオが話してくる。

「僕らの『アリス』実はマオは洗脳されて踊らされていたのですよ。
 だから攻撃もすべて本気だった。そう『アリス』の悲鳴を聞くまではね。
 『アリス』の悲鳴で我に返ったみたいです」

にこやかに話すハオにマオが怒る。

「いや、そんなことはない。俺がこんなやつの悲鳴で我にかえると思うのか。
 ありえない。絶対にありえない」

そう言って、マオはそっぽを向いて、私を見ようとしなくなった。
マオは更に言う。

「もう、良いだろう。俺は用事が済んだから先にこの世界を出ているからな」

マオはそう言うと空間の一部が歪みだし、その中にマオは消えていった。
一体何だったのだろう。
私がきょとんとしていたらハオが言って来た。

「多分、マオは恥ずかしかったのでしょう。
 ああ見えて照れ屋ですから。弟の非礼許してあげてください」

深々と頭を下げるハオに私はまたなんだか悲しくなった。

「あぁ!!」

イズミールの声がいきなりしてビックリした。
私が振り向くとイズミールが話して来た。

「見て。『死神』のカードの光が戻っている。よかった」

そのカードには確かに光が戻っていた。
ハオがイズミールに話す。

「元々カードは変わっていなかったのですよ。ラルゴの幻覚の始まりだったのです。
 でも、タロットカードは人生の道しるべになってくれるかも知れません。
 けれど、タロットカードは手を引いていってはくれません。
 歩くのは自分の足なのです。そして選ぶのも。
 イズミールは気がついたのではないですか?」

ハオは優しく話してくる。
確かにそうだ。
選ぶのは自分。最後は自分が選ぶしかないんだ。
私はハオの言葉に何度も頷いていた。
イズミールはタロットカードをしまってこう言った。

「そうですね。私も自分で決めていかないといけないですものね」

そう言った時、イズミールの近くの空間が歪みだした。
私はハオの方を向いた。
ハオが話す。

「この場所は入り口も出口もない迷路なんです。自分の中で答えを見つけたときにだけ出口が現れる。今イズミールの目の前には出口が現れました。ほら、『アリス』の前にも現れているんじゃないですか?」

私は目の前の空間を見た。
白い花で作られたアーチが見える。
でも、その先は何も見えない真っ暗だ。
踏み出さなきゃ何も変わらない。
ハオが私に話して来た。

「大丈夫ですよ。僕らの『アリス』ならきっと」

私はその言葉に背中を押された。
一歩前に足を踏み出す。何かが一瞬体を通り抜ける。
その瞬間に世界は変わった。そこは青い海。青い空。そう青の世界だった。


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