みみ の だいありぃ

みみ の だいありぃ

奴とのその後



だけど、あたしは、彼女はまだいるかもしれないし、それに雨はひどく降っているし・・・。

そんなのを言い訳に、奴の腕の中にいつづけた。



会話もなく。

聞こえてくるのは雨の音だけ。

ただ、ひたすら、雨のしずくが窓に当たって落ちるのを眺めていた。

まるで、あたしも一緒にしずくにでもなってしまった気になった。



バチ・・・

What goes around comes arond・・・



そう思ってみたり、やっぱり、あの女とヤッタ奴が憎らしかったり、不思議な感情だった。



あたしは何をしたいんだろう。

あたしは何が欲しいんだろう。



そんなことも全く分からなかった。



ただ、なんとなく、このまま奴の部屋で朝を迎えたかった。

家に帰っても、混乱は続きそうで、嫌だった。



それに、どしゃぶりだし・・・。



あたしは、なんのためらいもなく、家へ電話した。

電話に出た母に「ごめん、今夜は友達んちに泊まるから。じゃあ。」とそれだけ言って一方的に電話を切った。



いつも「あのさ、○○いるでしょ?彼女がさ、なんだか困っててさ、相談に乗ろうと思ってるんだけど、時間がかかりそうなんだよね。」とか、グタグタ言い訳をしているのに、今夜はあっさりと言ったもんだな。

言い訳する余裕もないあたし自身に、少し笑ってしまった。



奴は、黙ってキッチンへ立った。

そして、晩御飯を作ってくれた。

それはあたしの好物だった。



二人で黙って食べた。

TVもつけず、音楽も聴かず、会話もなく、聞こえるのはただ、雨の音だけ。

そして、奴のフォークの、あたしのお箸の動く音だけ。



こんな時の食事なんか、おいしくもなかった。

でも、せっかく作ってくれた料理だから、残さず食べた。



その晩、あたしたちは同じ部屋にいたけれど、同じベッドで寝たけれど、ほとんど言葉を交わさなかった。

ただ、ベッドの中で奴はあたしにやけにまとわりついていた。

そして、あたしはそれを自然だと感じていた。



いつもは「君の頭は重いんだ」と笑いながら言って、2分しか腕枕してくれないのに、その日、奴は腕枕をしている腕を決して外さなかった。

だから、あたしは自ら腕枕を外した。



あたしは眠れなかった。

奴も眠っていなかった。



このベッドで、奴と彼女はおととい、一緒にいたんだと思うと、たまらなかった。

あたしはベッドの中にいられなかった。

すぐにベッドから飛び出た。

そして、まだ雨が降っているんだなって思い、窓の側に行ってみた。



しずくが窓に当たり、窓をつたって落ちている。

いくつものラインが出来ては消え、出来ては消えている。



それに、街頭の光が反射して、キラキラしている。

無数の宝石みたい。



きれいだなぁ。

そう思った。



雨は空から降ってくる。

よっぽど悲しいことがあったかのように。

空が泣いている。

大泣きしている。

それでも、いつか太陽が現れて、晴れて、雨があがるんだ。



あたしたちも、乗り越えられるんだろうか。

あたしは、乗り越えたいのだろうか。



あたしは許せるんだろうか。

あたしは忘れることができるのだろうか。



彼はあたしを許せるんだろうか。

あたしのしたことを、今回のことで帳消しに出来るんだろうか。



さっぱり分からなかった。



でも、今、奴がいない生活を想像すると、ものすごく寂しかった。

奴は、恋人を越えて、あたしを甘やかしてくれるお兄さん、そして親友のようになっていたから。

奴は、あたしの人生の中に、しっかりと存在していたから。



いい男なんて、星の数ほどいる。

奴とじゃなくったって、きっと幸せになれる。



でも、なんで、奴が気になるんだろう。

奴がいいんだろう。



そういえば、あたしはその日、一度も泣いていなかった。

でも、奴とはもう会わないかもって思った時、初めて涙が頬をつたった。



ベッドに戻ったら、奴はまた、まとわりついてきた。

あたしは奴の手を握り返した。

すると、やつはあたしの首に頭を埋めてきた。

なんだか泣いているみたいだった。



次の朝、やっぱり会話が少なかった。

奴がいない部屋で一人でいたくなかったから、奴の出勤と共にあたしも家を出た。



奴は仕事に行く前に「今夜も家に来てくれ」と言った。

あたしは考えるとだけ言った。



その日は授業を休むことにした。

でも、バイトだけには出掛けた。

教えながらも、ふと奴のことを考えていた。



奴の家には行かなかった。

電話もしなかった。



次の日、学校に行き、友達といろいろ話した。

その日はバイトがなかった。

でも、奴の家には行かないで、友達とずっと話していた。

やっぱり、話題は奴の事だった。



お風呂に入っていても、電車に乗っていても、ご飯を食べていても、飲んでいても、友達といても、運動していても、学校にいても、生徒の家にいても、どこにいても何をしていても、あたしは奴のことを考え続けた。



彼女のことも考えた。

背が高く、髪の長い彼女。

とてもキレイな彼女。

奴とどうやって一晩を過ごしたんだろうか。

奴はどんな気持ちで一晩を過ごしたんだろうか。



想像する度、胸が痛かった。

なのに、想像するのをやめられなかった。



すごく苦しかった。

物理的にも、あたしの胸が痛かった。

胸が痛いって、本当に痛くなるんだって初めて知った。



10ヶ月前、あたしの浮気がばれたとき、奴も同じ気持ちだったのか。

奴も、あたしとXXのことを想像し、胸が痛かったのか。



ああ、本当に彼に悪いことをした。



そう思った瞬間、あたしはやっぱりまだ奴が好きなことに気がついた。



もう一度だけ、もう一度だけ、上手く行くかやってみよう。

あたしは奴のこと、まだ好きなんだから。

好きじゃなくなるまで一緒にいればいい。



そう思ったら、あたしは奴の家に向かっていた。

それは、どしゃぶりの日から5日後だった。



その日の星はほんとうにきれいだった。



奴の家に着いたのは夜の8時。

なのに電気がついていなかった。



ひょっとして、彼女といるんじゃないかってあたしは疑った。

恐かったから、合鍵では入らず、ベルを鳴らした。



ピンポーン。



したら1秒後に奴が出てきた。

そして、すごく驚いた顔をした。

それから、嬉しそうな照れたような、妙な顔をした。

そして、あたしをハグした。

骨が折れそうだった。



そして、奴の目は濡れていた。



家の中に入ってみると、あたしは心から驚いた。

だって、いつもはきれいなその部屋は、荒れていたから。

そして、テーブルの上には、あたしの写真がいっぱいあったから。

それより、奴は明らかに痩せてしまっていたから。



こんなんになってしまった奴を、あたしは抱きしめた。



お互いに傷付け合ってしまったあたしたち。

でも、あたしたちはあたしたちがお互いのナンバー1なんだ。

THE ONLY ONEじゃなかったけど、ナンバー1なんだ。



これから、上手くやって行けるかもしれない。

そんな予感がした。



空はとても澄んでいて、きれいな星が輝いていた。





********************



その後



********************



あたしたちはそれから、またしばらく一緒にいた。

しばらくはかなり調子が良かった。

でも、その後、またもや奴の家から女の電話番号など、ちらほら見つかるようになった。



そして、いい加減、番号を探すことに嫌気がさしたあたしは、本当に奴の元を去った。

もちろん、あたしも新しい人を見つけて。



あたしが完全に去ってしまったと知ったとき、奴はストーカー行為に出た。

あたしは両親と住んでいるのに、家の留守電がいっぱいになるくらい、メッセージを入れたり、あたしの学校や家の駅で待ち伏せしたり、奴の友達やママから電話があったり、泣き付かれたり、脅されたり。



恐くって、警察に電話したこともある。

もちろん、相手にされなかった。



そして、そんなのが続いて、またもやあたしは奴に戻ってしまった。

彼ほどあたしを必要としている人はいないって信じて止まなかったから。



あたしたちは、お互いにお互いを離せなかったけど、傷付け合った過去を忘れ去ることができなかった。

だから、一緒にいたって、お互い、他の人を探し続けた。



そして、ついに、あたしが大切にしたい誰かを見つけたとき、100%この関係が終わった。

情けないあたし。



奴もまたストーカー行為に出たが、全く相手にしなかったら、徐々に連絡が減って行った。



その後、数回、あたしが男といるときに限って奴にすれ違ったりした。

でも、あたしに話し掛けてくることはなかった。



ただ、自分だって女といるのに、今にも泣きだそうな驚いた顔で、あたしを見ていた。



数回、あたしの友達が奴とすれ違った。

「あたしが戻ってきたいなら、今持っている何もかもを捨ててでもあたしを受け入れる」と言ったそうだ。

その都度、連絡先のメモを友達に託して。



あたしたちは愛し合っていたのか。

多分、それはそうだと思う。



でも、なんだか歪んだ、ワガママな愛だったと思う。



やっぱり、一度でも信用を失ったカップルは、修復するのにものすごい時間と努力が必要なんだって思った。



なぜ、奴は女の電話番号をもらい続けていたのか。

実際、その子達と、浮気をしていたのか。



分からない。

でも、そうだとしたら、浮気病だったんだと思う。



優しくて、スムースで、女に気を使い、女がクイーンでいられるような気にさせてくれる奴。

そういう奴にだまされた女は多いんだと思う。

あたしも含めて。



でも、あたしが離れたいときに、あそこまで泣いて騒いで落ち込むんだったら、女をナンパして電話番号を集める(おそらく浮気も)なんてそんなこと、しなければ良かったのにって思う。



あたしは、奴との2年半ばかりのON And OFFの関係で、いっぱいのことを学んだと思う。

そのことに対して、感謝をしている。



そして、奴には今、幸せでいて欲しいって心から思っている。



ここまで、あたしの19歳の頃の出来事に付き合ってくださったみなさん。

どうもありがとうございます。



こうやって書いてみたら、当時に戻った気がして、おもしろかった。

タイムトリップだったよ・・・(笑)。



・・・完・・・

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