waiting for the changes

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07話:NO NAME


桜の部屋に勢いよく部下の1人が息を切らせながら入ってきた。桜は椅子を回転させこちら側を向いた。毛先に向かってウェーブがかかったセミロングの薄い茶髪がゆっくりと揺れる。胸元を大きくはだけた軍服がトレードマークだ。スタイル抜群で超が付くほどの美人、Gパイロットとしての腕も立ち、指揮能力も高い。軍広報がモデルに使うほどの人物、それが桜だった。
「どうしたの?」
桜がゆっくりと聞いた。「落ち着いて」と言う桜に部下は深呼吸して答えた。
「ルドラスが、“3”が戦死しました!」
「え・・・?」
桜も驚きの色を隠せない。ルドラスこと“3”と言えば、世界政府連合でも有数のパイロットだ。正直死んでよかったと思う一面があった。桜はルドラスが嫌いだった。やはりあのやり方にはどうしても賛同できない。でも、実力は確かだ。一体誰が?あっ、と思い出したように桜は聞いた。
「ナードは?」
「はい、“4”のナードも“3”と共に戦死です」
「そんな・・・」
“3”のルドラス1機だけでも強いが“4”のナードも共に撃破されるとは。部下の話からきくと、どうやら3機ほどのGに待ち伏せされ、撃破されたようだ。いくら、待ち伏せで数に勝るといっても簡単に撃破されるはずは無い。部下は続ける。
「どうやら、“3”を撃破した傭兵と思われるGは、直後に爆発したらしいのです。相討ちかと思われます」
「相討ち・・・?待って、どうしてそんなに詳しい情報が?」
「今朝、軍広報からのニュースで・・・」
おかしい。戦時下で有名パイロットが死亡することは珍しくは無い。しかし、死亡したときの状況は近くに味方がいなければ確認することが出来ないものだ。今回の場合、周りに味方は居なかったようだ。“3”と“4”は敵機3機に待ち伏せにあって、“3”“4”とも撃破され、“3”を撃破したGは相討ちとなった。この情報はあまりにも詳しすぎる。一体誰がこの情報を流したのか、疑問が募る。
「何かがあるわね」
直感的に桜はそう感じた。この「事件」の裏には何かが。


同じ頃。

「翼君」
ヴィラが部屋に入ると翼が顔を上げた。やはり普段、Gに乗らない翼は悲しそうな目をしている。それは、ヴィラの気のせいであって欲しかった。
「なんだ?」
翼の言葉に我に返ったヴィラは「あっ」と言って、数枚に束ねられた書類を渡す。
「これを見て」
それは、世界政府軍の通信を傍受したものだった。
「へぇー、“3”が死んだのか。ま、どうでもいいことだけどな」
翼は次の書類をめくった時、翼の顔色が変わる。
「おい・・・」
「ど、どうしたの?ねぇ!翼君ってば!!」
翼は「それ」を見ると立ち上がり、ヴィラに詰め寄った。その目に恐怖すら感じる。時々見せる本気の目だ。
「このデータはこの書類だけか?」
「え、あ・・・うん。それだけよ」
「これに目を通したか?」
「・・・見てないわ」
「これは忘れろ」
そういうと翼は置いてあったライターでその書類に火をつけた。書類が放りこまれた大きなアルミ製のゴミ箱の中でそれが燃える。更に翼はヴィラに「他に見た奴は?」と聞いてきたが、ヴィラは誰も見ていないと答えた。それを聞くと翼は部屋を出て行ってしまった。もう、書類は灰になろうとしていた。
「翼君・・・」
翼は何を見たのだろう。翼をあそこまでさせることとは・・・?


翼は自分の車が置いてあるところに向かう。そこには黒いスポーツタイプの車があった。形はとても古い。それは博物館で見るような車だった。車に乗り込み、エンジンをスタートさせた。野太い音を立ててエンジンが目を覚ます。この時代ではほとんど見かけなくなったガソリン車だった。翼はこの車の「音」が好きだった。ここに居ると、何故か落ち着く。何かあると、1人で走るのが気晴らしになっていた。
「まさか・・・な」
シフトを1速に入れ、急加速した黒いスポーツカーが夜の闇に走り去っていった。


十数日の時が経った。
「ここはどこだ・・・?」
白い部屋だった。窓の外には緑が広がっている。心地いい風が吹き込んできた。辺りを見回すと、点滴の管などが見える。体中が痛い。どうやら、あの爆発から助かったようだ。右側に誰かがいる。そこに目をやると、優美が寝息を立てていた。
「気がついたか?」
翔がそっと部屋に入ってきた。ドアの閉まる音で優美も目覚める。体を起こしたレッシュに優美は抱きついた。「他のやつも呼んでくるよ」と翔は白い部屋をあとにする。
「先輩!」
泣きじゃくる優美をなだめながら、レッシュは聞いた。
「俺はどうして助かったんだ?」
「先輩の、機体っ・・・コクピットが頭の下だったからっ・・・、ホントに、私っ!」
優美が「ホントによかった」と言った。そう、レッシュのグロリアス・ファーストはコクピットが機体の腹部部分にあるのではなく、頭部の真下にそれがあった。ジェネレーターが爆発しなかったのも、右手の装置のお陰で「ジェネレータ・ショック」の逃げ口があったからだ。本当に運がよかった。「大丈夫だ」と言うレッシュに優美は涙でいっぱいの目で笑みを浮かべた。
「EVEが、攻撃を受けたときにシステムを全てダウンさせたんです。それが助かった一番の要因だって、真琴さんが言っていました」
「隊長!!」
勢いよく皆が入ってくる。入ってくるなり、亜実と亜希は泣き出してしまう。ミコがそれをなだめているがもらい泣きしてしまったようだ。皆に安堵のため息が漏れる。その中には耕兵の姿もあった。
「義父さん・・・」
「一時はどうなることかと」
「俺も死ぬかと思ったよ」
「まあ、命あって何よりだ」
耕兵との会話にクルスが目に涙をいっぱいに溜めて割り込んできた。
「もう!ホントに心配したんだからね!」
レッシュはゆっくりと思い出す。あの白いG、確かにアレは3年前のあの時のGに間違いは無かった。


「で、どうするの?」
真琴はGのカタログが並んでいるモニターを眺めているレッシュに聞く。レッシュは背伸びをして、腕を回し、首をコキコキと鳴らした。レッシュの隣には優美が机に腰掛けていた。優美も同じように背伸びをした。「第4倉庫」は相変わらず散らかっていた。どんな生活をすればこんなことになるのだろうか。
「うーん、どうするか・・・」
「復帰したのは喜ばしいことなんだけど、機体が無いんじゃあね。あると言えば、EVEだけだし」
2人が腕組みしていると、ドアが勢いよく・・・、外れた。「ひっ!」と優美は机から落ちそうになる。凄い音に皆が奥の個室から出てきた。またクルスは寝ぼけて頭を掻きながら出て来たが、今回はパジャマ姿だった。外れたドアのところでは耕兵が固まっている。
「ふぁ~、誰なの?」
「ああ、すまん・・・」
申し訳なさそうに耕兵は扉を立てて元に戻そうとした。真琴がすぐに駆け寄りそれを手伝う。
「こりゃあ、組み直すしかないみたいね」
はぁ~、真琴はとため息をつく。「なーんだ」と出てきた皆もまたぞろぞろと個室に帰っていった。あれだけ凄い音がしても結局、翔は出てこなかった。さすが職務怠慢で左遷された男だ。この程度のことでは微動だにしない。「今日は何の用?」と聞くレッシュに耕兵は笑顔で言った。
「レッシュ、いい知らせだ」


「これは?」
レッシュと真琴と優美は赤と灰色にカラーリングされた真新しいGを見上げる。
「オリジナルの機体だ」
「オリジナル・・・?」
自慢げに言う耕兵に真琴が聞いた。
「オリジナルって、GFの?」
「そう、ウチのオリジナルのGだ」
GFは傭兵技術専門学校が出資するG制作機関だ。主にここに所属する傭兵の為にG作られることが多い。「これを使え」と耕兵は言った。レッシュより先に真琴が反応する。
「いいの!?」
「ああ」
「やったじゃん!」
「普通、俺が先に言うんだがな」
真琴がレッシュの背中を叩き、親指を立てる。横に目をやるとそのやり取りを見て優美が笑う。すると真琴は機体のフレームに注目した。
「これって、変形するの?」
「さすがだな、とあるGの真似事らしい」
レッシュと優美は驚いた。変形するGは技術的に無理といわれている。世界中のGパイロットの中で、あの“漆黒の鷹”だけが戦闘機へと変形する機体に乗っているとされている。しかし、この機体にはその機能があるというのだ。つまり、このGは“鷹”の機体に似せて作られたことになる。耕兵は続ける。
「戦闘機形態へと完全に変形できる。あと、どうしてか知らないがとんでもなく強力なジェネレーターを積んでいるんだ」
「じゃあ、ジェネレーター・フィールドを張れるってことなの!?」
真琴は目を輝かせて、耕兵に聞く。耕兵はため息混じりに言った。
「出力と容量が大きいだけで、安定して出し続けるのは無理らしい」
「なーんだ・・・」
ガクッと肩を落とし、はぁ~とため息をつく。相当期待していたようだ。
「とにかく、ウチの最新鋭の機体であることには間違いない。ほら、整備マニュアルだ、じゃあな」
耕兵は真琴にディスクを投げて、その場を後にした。帰り際、耕兵は思い出したように言う。
「そうそう、このGまだ名前が無いんだ。好きに付けろよ」


薄暗い部屋に男が一人、コンピューターのモニターに向かっていた。モニターには“F”と“Z”のデータが出されていた。
「“F”の消去は?」
男がもう1つのモニターに話しかける。その向こうから声が返ってくる。
「消したはずだ」
「はず?確信はないのか?」
男はタバコに火をつけ、モニターを睨んだ。男は確かな情報が欲しかった。
「“アレ”が消しに行った。帰ってきたということは消したんだろう」
「まあ、いい。問題は“Z”だ。コイツの消去も早急に進めるのだ」
コツコツと“Z”の顔写真が出されたモニターを小突く。いつものように、顔色1つ変えずに指示を出した。
「わかっている。“Z”以外のアウターはどうする?」
モニターの向こうからの質問を一蹴し、灰皿にタバコを押し付けた。
「“Z”の行方を探れ。それが先だ」
ブツリと、相手は何も言わずにモニターを切った。男はディスクをコンピューターから取り出し、さらに違うディスクを挿入した。画面が崩れ落ちる。いつものようにウィルスを使ってコンピューターに残った情報を丸ごと消した。席から立ち上がった男は部屋を出た。長い廊下を歩いていくと、厳重にロックされた扉がある。キーコード、カード、指紋などのチェックが終わると、扉が開いた。そこは異常に天井が高い、円柱形の部屋だった。
「世界・・・か」
男はふっ、と笑うと部屋の真ん中にあるプレートを見上げる。そのプレートは15メートル近い長さがあり、それは宙に浮いていた。



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