waiting for the changes

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43話:NOISE


「ええ・・・」
桜は俯いて小さく答えた。レイは冷たく続ける。
「今回が最後のチャンスです。これを逃すと次は街程度では済みませんよ」
脅しとしか取れないその言葉に桜は従うしかなかった。レイはジア・エータならびにレイザーの撃破命令を出した。彼らが接触したという情報を手に入れたとレイは言った。桜は驚いた。やはり、2人は繋がっていたようだ。桜は歯をかみ締めた。たとえレッシュを殺せなくとももう一度彼に会うことは出来るだろう。今度こそ話がしたい。そして、“漆黒の鷹”との決着も。
「今度こそ・・・必ず」
「いい結果を期待していますよ」
そう言うと、レイは隣に待機しているより大型の戦艦へと帰って行った。その後姿を桜は拳を握り締め、唇をかみ締めながら桜は見送った。


「用ってなんだよ?・・・あんたが真琴か?」
翼が格納庫に呼ばれてブラック・バードとレッド・バードが並ぶ前まで呼ばれた。ジア・エータの技術主任と真琴が何かを話していた。翼の姿を確認すると真琴は歯を見せて笑う。
「あんたが“漆黒の鷹”?へぇ、結構男前じゃない」
「んなことはどうでもいいだろ?・・・“漆黒の鷹”じゃねぇよ、俺には“鷹山 翼”って名前あんだよ」
翼は機嫌が悪そうに言う。翼はそうやって“漆黒の鷹”と呼ばれるのがあまり好きじゃなかった。その顔を見て、真琴は一言「ごめん」とだけ謝った。
「じゃあ、・・・翼でいい?」
「ああ、いいぜ」
「私は佐和村 真琴。よろしく、翼!」
握手を求めてきた真琴に翼は快く返した。活発でラフな印象を翼は受ける。会って2日も経っていないのにもうジア・エータの整備主任の男性と打ち解けている。反応係数とか出力曲線とか、翼にはよく分からない会話を2人は続けていた。
「・・・で、なんだよ?」
「そうそう、これ見て」
真琴はコンピューターのモニターに表示された数値、及びグラフを翼に見せた。翼はそれを屈んで見て、いつものような反応をした。整備主任の男性は苦笑いを浮かべる。
「・・・なんだこれ?」
「ああ、コイツには難しい話は無理だ」
「はぁ!?これくらいアンタでもわかるでしょ?」
そこまで言われて翼は頭をフル回転して思い出そうとした。どこかで見たことがあるような気がする。確か、レッシュがよく見ていたような気がする。
「車のエンジンの回転数か?」
「・・・まあ、半分正解。ていうか、Gの整備なんだからGのモンだってことぐらいわかるでしょ?」
「・・・ぐっ」
真琴は腕組みして頭を振った。翼は何も言い返せないのでどうしようもない。整備主任の男は押され気味の翼の姿を見て笑いをこらえるのが必死だった。この真琴という女性は相当キツイ性格の印象が翼には植え付けられることになった。モニターを指差して真琴は説明し始める。
「これはブラック・バードの出力曲線。ジェネレーターの出力も申し分ないわ。でも、ここを見て」
グラフを指差していた真琴がある一点をコツコツと叩いた。そこまで上っていた曲線が、一定の出力を出していることを示していた。翼は率直な感想を述べた。
「これがどうしたんだ?」
「まあ、そう言うかと思ったけど・・・。いい?この曲線、何でここで急激に一定になってるのかとか気にならない?」
翼は腕組みをして考えた。確か、見たことがある。確か、Gの出力曲線は滑らかな曲線を描いているはずだ。だが、はっきり言って確証はない。
「じゃあ、これ見れば分かるでしょ?・・・基準は違うけど、レッド・バードの出力曲線よ」
キーボードを弾いて、真琴はもう1つのモニターにレッド・バードの出力曲線を表示させた。途中まで同じような弧を描いていた“それ”は明らかに違った。
「オイ!これ“頭打ち”になってるじゃねぇか!?」
「おっ!さすがね!そう、こんな曲線を描く原因は1つしかない」
真琴が指をパチンと鳴らして翼にウィンクした。翼も鼻を鳴らして胸を張ったが、小さな声で「知ってて当然だけどね」と言われて、翼はまた黙り込んでしまう。整備主任の男性は必死に笑いを堪えていた。彼女の前では“漆黒の鷹”と呼ばれる男も形無しのようだ。
「原因は・・・“リミッター”よ」
「リミッター!?・・・BBに掛けられてんのか!?」
リミッターという言葉を聞いて翼は真琴に詰め寄った。待ったのポーズを掛けて真琴は翼を止める。
「この機体のジェネレーター部分はブラックボックスになってるみたいなのよ」
「ああ、前にも言われたぜ。コイツの力は完全に出しきれてないって」
2人はブラック・バードを同時に見上げた。漆黒のボディは光を吸収し、より深い色に見える。そして、真琴はさらりと言った。
「そ!だから、少しだけリミッターを外してみたのよ」
「・・・はぁ!?そんな簡単に外れるモンなのか!?」
前に翼は聞いていた。このブラック・バードには特別な高出力ジェネレーターが搭載されているそうだ。その構造が複雑なのか、反政府軍の技術班の誰も完全に理解するのが難しかった。だが、この女性はこのジェネレーターの構造を理解していると言うのだろうか。
「わかんのか?・・・BBのジェネレーターは機構が複雑とか聞いてたんだけどな」
「私も不思議なくらいよ。このジェネレーター、“スピルス”に構造がよく似てるのよ。その要領で、ちょいっと、いじってみたって訳」
ジェスチャーを交えながら、歯を見せて真琴は笑った。よく分からないが、ブラック・バードはパワーアップしたことになる。翼は笑みを浮かべた。
「あんたすげぇな・・・」
「ふふ・・・こんなもんよ。あ、出力は20%増し、反応速度とか他のも20%引き上げといたから。レッド・バードと部品が流用できたからだけどね」
真琴が笑ってると、そこ優美が走ってきた。レイザーに比べ、ジア・エータの中が広すぎて迷っていたようだ。「広すぎ」と愚痴をこぼして、息が上がっている。
「はぁはぁ・・・っ、真琴さん。用って何ですか?」
「何だ優美か」
「翼さんも・・・呼ばれたんですか?」
優美は翼のことを見上げた。3年目よりかなり背が伸びている。他は何にも変わってないように優美は思えた。
「まあ、BBのことでな。・・・見ねぇ間に色っぽくなったなー、胸ばっかデカくなりやがって」
「な!?・・・もう!」
優美は赤くなりながらタンクトップの開いた胸元をさっと腕で覆った。へそ出しのタンクトップにデニムのミニスカート。左の太ももと腕に包帯を巻いている以外、3年前と全然変わらない。前から露出度の高い服が多い彼女だったが、スタイルがかなりよくなった優美を見ると、よりセクシーに翼の目には映ったようだ。翼はにやりと笑う。
「で、レッシュとはうまくいってんのか?・・・その胸なら一発だろ?」
「ちょっ!翼さん!!」
ますます赤くなる優美をからかう翼を見て、真琴はため息を付いた。2人の“言い争い”が一段落したところで、「暑いわね」と整備服の第3ボタン外して真琴が切り出した。
「・・・そろそろいいかな?」
「あ、はい!・・・すいません」
「悪ぃな」
真琴はレッド・バード、ブラック・バードの横に並ぶ純白のウィング・グロリアスを見上げた。胸部のパーツがクルスのグロリアスからの流用品でなく、純正のものに変更されている。スラスターも変更されているようだ。その左腕に見慣れない武装が施されていた。
「あれ?スラスターが変わってる。それに左腕にシャイニングの・・・」
「さすがね!・・・どっかの誰かさんとは大違いよ」
「ぐっ・・・」
ちらりと真琴は翼の方に目をやった。翼は反論が出来ず、ぐっと押し黙った。
「あの黒いシャイニング・・・あれはもう使い物にならないわ。だから、拝借したの。いいでしょ?」
「別にいいぜ・・・って、もう付けてるけどな」
整備主任の男は快く答えた。そして、整備主任の男はシャイニングに目をやった。頭部、右腕、足と殆どが破壊されちゃんと残っているのは左腕だけだった。真琴はそれに着目し、シャイニングの特殊格闘兵器“インパクト”を優美のウィング・グロリアスに移植していた。
「で、それに伴って、ウィング・グロリアスのジェネレーターも強化したわ」
そう言って、真琴は優美にデータを見せた。優美は椅子に座ってキーボードを弾いた。反応係数や出力数値などが表示される。それを見て翼は感嘆の口笛を吹いた。
「すげぇな。・・・この優美がこんな機体に乗れるとはな」
髪の毛をくしゃくしゃにする翼に優美は照れて笑った。そのことに真琴は率直な疑問を投げかけた。
「優美ちゃんって、昔はどんなだった?」
「コイツか?パッしねぇヤツだったよ。総合成績は“中の上”ぐらいだったか?」
「はい、そんなもんです。・・・でも、よく覚えてますね」
キーボードを打つのをやめて、優美は苦笑して椅子を回し、翼を見上げた。翼はにやりと笑って優美に言う。
「お前がしょっちゅうレッシュに自分の成績のこと言ってたじゃねぇか。あれだけ言ってたらイヤでも覚えるって話だよ」
「あー・・・隊長にゾッコンだったわけだ」
「“ゾッコン”って・・・あんた、意外と古いんだな」
優美が赤くなっているのを尻目に、2人は声を出して笑った。翼は優美の頭をペチペチと叩く。
「もう!やめてください!」
「ここまで成長するとは思わなかったぜ」
「でさぁ、2人はどんな関係なの?」
「「は!?」」
突然振ってきた話題に、翼と優美は同時に真琴のほうを向いた。真琴の目には2人がとても仲良く見えたからだ。
「翼さんは、レッシュの親友で、先輩です」
「コイツはレッシュのコレだよ。手ぇ出すとか野暮なことはしねぇよ」
優美は笑って翼のことを言って、翼は小指を出してにやりと笑う。期待していた答えと違って真琴はがっかりする。
「なーんだ・・・普通じゃん」
「・・・お前・・・何を期待してんだ」
ひんやりとした空気がジア・エータの格納庫に流れた。


「・・・これにて模擬訓練を終了する!」
「お疲れ様です!!」
ブリッジクルーが一斉にブリッツェンに頭を下げた。それぞれのシートに座っているのはレイザーのクルーだった。ドライバーにシェリー、オペレーターに友子、射撃管制に貴子が座っていた。レイザーが今まで航行できたのは奇跡に近い。相当な損傷を負ったまま長い間航行を続けていたが、限界だった。それにより、貴子たちはジア・エータのブリッジテストを受けることになっていた。3人それぞれの技量の高さにジア・エータのクルーたちはざわついていた。クルーは皆バラバラの格好をしている。私服な者や、世界政府軍の制服、傭兵の制服の者もいる。世界政府軍服姿のブリッツェンも同じだった。傭兵の制服姿の友子とシェリーと貴子はシートを離れて、ブリッツェンの前に来た。
「すごいな・・・」
「いえ・・・私なんて、パイロットを信じるしか出来ませんよ」
謙遜する友子だったが、ブリッツェンは「そんなことはないよ」と続けた。
「君たちのチームは個々の能力が高いからな、それをまとめているのも大したものだよ」
すると、ジア・エータのブリッジクルーの一人が挙手をしてブリッツェンにある提案を出した。
「艦長!」
「どうした?」
「彼女たちにブリッジを任せてはどうでしょうか?」
その提案にブリッツェンは驚いたが、彼女たちの方がもっと驚いた。
「彼女たちは私より、能力は上です。私たちがこれからは生き残るためにも、優秀な人材を登用すべきだと考えます」
「あ!俺もそう思います!・・・シェリーさんの操舵技術は次元が違う気がします」
「・・・君たち」
次々とその提案に賛成するブリッジクルーに友子たちは戸惑いの表情を見せた。ブリッツェンはそっと3人に聞いた。
「こう言っているが・・・君たちはどうする?」
「私たちは・・・」
貴子がクルーを見渡した。すると次々と頭を下げられる。
「お願いします!」
「お願いです!!」
みんなを見て、シェリーと友子を見て、貴子は申し訳なさそうに微笑んで答えた。
「私たちでよければ・・・」
貴子がそう言うと、ブリッジ内に歓声が沸きあがった。ブリッツェンが改めて握手を求めた。
「よろしく頼む」
「こちらこそ」
「ねぇ・・・他のみんなはどうするの?」
貴子とブリッツェンが握手している横で、シェリーがそっと呟いた。彼女たちが入ったシートに居た人はどうなるのか。シェリーの問いかけに“元”ドライバーは胸を張って答えた。
「仕事は何でもありますよ!・・・整備とか、艦内の清掃とか・・・大丈夫です!」
そう言って、彼は親指を立てた。


「ジア・エータを発見!・・・Gパイロットは戦闘態勢に移行!」
艦内にアナウンスが響いて桜たちは食堂の席から立ち上がった。ビリシャと部下の青年が桜に続いて食堂を出て行く。
「姉さん!」
「わかってるわ・・・全部、今日で最後にするわ・・・」
桜とビリシャは女性用の青年は男性用の控え室へと入っていった。
レイが静かにジア・エータを眺めていた。
「・・・どうだ?」
「美山少佐はダメですね」
「前にも聞いたぞ」
通信の向こうからは重い声が聞こえる。
「今回失敗すれば・・・ですね」
「甘いな。その甘さがいずれ死に繋がるぞ?分かっているだろうな」
「・・・はい」
「“3”(サード)。・・・“4”(フォース)を送った」
モニターに“4”のデータを表示させた。
「この子が・・・“4”?」
「直に見るのは初めてか?・・・まあ、会えば分かるさ」
「了解」
レイは通信に向って敬礼した。相手には見えては居ないが、癖のようなものだった。
「いい結果を期待している」
それっきり通信は切れた。もう一つのモニターには増援を含めG全機が出撃準備が出来たという知らせだった。
「・・・総攻撃を開始する」
静かに命令は下された。


「佐和村君!何機出せる?」
「3機よ!・・・あ、艦長!“真琴”でいいからね」
「・・・わかった。準備が出来次第出してくれ」
格納庫にブリッツェンが通信をかけると、真琴がすぐに出た。警報が鳴り響き、レッシュと翼と優美がパイロットスーツに着替えて格納庫へと急ぐ。
「へっ、このメンツも久々だな」
「ですね」
格納庫へと走りながら、翼は笑って言った。優美もそれに頷く。レッシュが引き締まった声で2人に言った。
「指揮は俺が出す。いいな?」
「はい!」
「おう!」
格納庫への扉を開けると、3機のGが既にスタンバイされた状態だった。それぞれのGに手際よく乗り込む。起動準備をしているときに3人にブリッジから通信が入った。オペレーターの顔を見て優美は驚く。
「友子さん!」
「これから私がジア・エータのオペレーターです。よろしく、みなさん」
3人は無言で頷いた。翼は敬礼のポーズを取ってレッシュは親指を立てる。優美は笑顔で返した。最初にブラック・バードがカタパルトに運ばれた。
「ブラック・バード、カタパルトにセット・・・進路クリア、行けます」
「セット完了!鷹山だ、BB出るぜ!!」
カタパルトが加速し、機体が空中に射出される。少しの慣性飛行をして、戦闘機形態へと変形した。次に純白のウィング・グロリアスがカタパルトにセットされた。
「優美ちゃん!・・・カタパルト大丈夫?」
「はい!大丈夫です!」
元気のいい返事が返ってきて友子は笑った。問題ないだろう。
「ウィング・グロリアス、カタパルトにセット・・・進路クリア、どうぞ!」
「優美です!ウィング・グロリアス行きます!!・・・うっ!」
急激に掛かる加速Gに少し戸惑ったが、すぐに慣れるだろう。青い空と青い海が広がる世界へと飛び出していった。翼を展開し、ブラック・バードを追いかける。最後にレッド・バードがカタパルトにセットされた。
「隊長!お気をつけて!」
「ああ!」
レッシュは親指を立てた。
「レッド・バード、カタパルトにセット・・・進路クリア、どうぞ!」
「レッシュだ!レッド・バード、行くぞ!」
カタパルトから射出された赤い機体は、戦闘機形態へと変形し、2機のあとを追った。ウィング・グロリアスを挟んで両隣に2機の戦闘機が飛ぶ。
「また“乱れ桜”だろ?」
「その可能性が高いですね」
「油断するなよ!・・・行くぞ!!」
次々と出撃する世界政府軍のGたちが3人の視界を染め始めた。


「隊長!」
「どうしたの!?」
「“漆黒の鷹”、“深紅の鷹”、ウィング・グロリアスの3機を確認!!」
「え!?」
先行していた部隊からの通信に桜は驚いた。同方向から編隊を構成し、こちらに向かってくる。また、通信が飛び込んできた。
「レイザーを発見しました!」
「どこで!?」
「破棄されている模様です!・・・生体反応がありません」
桜は正面を睨んだ。導き出される答えは一つだ。
「やっぱり・・・“漆黒の鷹”は“深紅の鷹”と繋がっていた・・・!」
空中戦が開始される。桜はペダルを思いっきり踏み込んだ。


レッド・バードとブラック・バードが同時に変形し、散開した。海上にはフロウ、アスロート、空中にはウィング・グロリアスが迫る。数は圧倒的だ。
「数ばっかじゃねんだよ!!」
ブラック・バードがリニアライフルを放った。だが、シールドでガードされる。フロウのパイロットたちもそれで過信した。
「はっ!この程度・・・」
その瞬間、ブラック・バードが一気に加速した。両腕のブレードを展開し、すれ違いざまに一気に3機葬り去った。前に比べてブレードの長さが若干長くなっている。威力も違う。何より、スピードが全然違う。ブラック・バードの上がった性能に翼は頷いた。
「すげぇ・・・全然違う!!」
純白のウィング・グロリアスは空中で同型機のウィング・グロリアスを翻弄していた。ファーストモデルだということ、スラスターを強化しているというのもあるが、腕の面の方が大きい。マニュアルでロックを外し、急所を避けて優美は“G-4”を放った。
「やあっ!」
羽根や、脚部、右腕に着弾し炎を上げる。隊長機だろうか、灰色のウィング・グロリアス一気に接近して、シールドをスライドさせ、左手を頭部にあてがった。
「“インパクト”!!」
“インパクト”を喰らったウィング・グロリアスは頭部とバックユニットを破壊されて海に落ちて行った。それを見て翼はふっと笑った。
「あいつ・・・あの時のこと今でも・・・」
優美は“殺さず制する”戦いをずっと続けていた。誰が何と言おうと優美はそれを変えるつもりはない。翼はアスロートを斬って優美に向って叫んだ。さっきのウィング・グロリアスが落下しながらライフルで狙っていた。そして、それが放たれた。
「優美!!・・・し」
翼が「下だ!」と言おうとする前に優美は反応していた。完全に死角からの攻撃だったはずだ。“G-4”でライフルの弾を打ち消して、ライフルごと右腕を破壊した。その方向を向かずに、銃だけがその方向を向いていた。
「翼さん?」
「いや・・・なんでもない」
今の動き、後ろに目がないと分からないはずだ。まるでアイツが撃つことを分かっていたかのように。そうであるなら、優美は・・・。その時、翼の前にあの機体が現れた。
「漆黒の鷹ぁぁ!!!」
「またお前か!!」
4本のブレードがぶつかり火花を上げた。翼は半分呆れてその姿を見た。今度はブラック・バードは押し負けなかった。
「・・・あんたは!!やっぱりレッシュと繋がっていたじゃない!!」
「レッシュに用があるんだったら・・・俺を倒してからにしやがれ!」
ブラック・バードはブレードで押し返した。押し返されたことに桜は驚く。今までは出力の差でこちらの機体が圧倒的に上だったからだ。それに、スピードが上がっている。
「今日こそ・・・仇を討つ!!」
桜のグロリアス・バーサスがブレードを振りかぶろうとした瞬間、ブラック・バードとの間にフロウが落ちてきた。見上げると、レッド・バードの姿がある。桜は、スラスターを全開にして、レッド・バードへと向った。
「レッシュ!!」
「待て!」
「・・・“乱れ桜”か!?」
レッシュはEVEからの情報で向ってくるGに反応した。桜色のGが真っ直ぐ向かってきていた。次々と情報がダイレクトにEVEから流れ込んでくると同時に、モニターにもそれが表示される。
「“バーサス”接近!・・・“ブラック”、“ウィング”、“エータ”現在地表示!」
レッド・バードは“シルバー・アロー”を仕舞うと背中から2本のブレードを抜いた。2機のGが正面からぶつかり合った。
「レッシュ!・・・私はあなたを・・・!」
「通信!?・・・俺の名前を知ってる!?」
レッシュは彼女が自分の名前を知っていることに気づいた。今まで何度か呼ばれていたのだが、戦闘の混乱などで気づかなかった。今、こうして1対1になったことでそれが分かる。
「私は・・・あなたを殺さなくちゃいけないの!!」
「何!?」
桜色のグロリアス・バーサスから聞こえる声は涙声に近かった。レッド・バードを援護しようとブラック・バードが向おうとしたとき、3機のウィング・グロリアスがブラック・バードに迫った。
「美山隊長に近づかせん!!」
「くそっ!・・・コイツ等速い!!」
その3機のスピードは他のものより速い。翼は相手をせざるを得なくなくなった。グロリアス・バーサスとレッド・バードが戦闘し始めたのを優美も感じ取った。だが、彼女にはジア・エータを守るという役目があった。ここを離れるわけにはいかない。
「レッシュ!!」
「たった1機のGに何を手こずっている!?さっさと始末しろ!」
指揮官の怒声にフロウや、フライング・アタッチメントを取り付けたグロリアス、シャイニングが一気に迫る。
「ウィング・グロリアスを援護!!・・・照準!撃てぇ!!」
ブリッツェンは射撃管制の貴子に指示を出した。貴子はジア・エータ正面の4つのエネルギー砲を4機のGにロックした。それは3機のGを捉え、1機は空をきる。
「すいません!」
「樹村君は、後方援護を頼む!」
「了解!!」
優美は頷くと、機体をジア・エータの後方へと回りこませた。後方からはアスロートが迫ってきていた。貴子は4つの砲門のうち、“外れた”1つの砲門の設定を確認していた。
「・・・+角修正・・・発射誤差修正完了」
ジア・エータは次々と正面から迫るGをロックした。


「俺は死ぬわけにはいかない!!」
「・・・っ!」
その声を聞いて桜ははっとした。やはり同じだった。何度聞いても同じ声。“彼”と同じだ。桜は耐えられなくなる。
「でもっ!!」
「この戦いは仕組まれている!この戦いの真実を暴かなきゃならないんだ!」
「・・・え!?」
レッド・バードはグロリアス・バーサスを弾き飛ばした。レッシュが言った言葉に桜は聞き返した。もう一度、グロリアス・バーサスがレッド・バードに迫る。
「仕組まれてるって・・・?」
「それが終わるまで・・・俺もタカも・・・死ねない!!」
レッド・バードは“シルバー・アロー”を放った。至近距離の発射だったが、グロリアス・バーサスはそれを回避した。グロリアス・バーサスのブレードが空を切る。
「・・・そんなの!」
桜は唇を噛み締めた。彼の言葉を聞くたび、桜の心は大きく揺れる。レッド・バードは再びブレードを抜いた。迫ってくるGに対してはモーションや初期起動が遅い“シルバー・アロー”だと不利だ。
「何が狙いか知らないが・・・それにお前は亜実と亜希を殺した!」
レッシュの言葉を桜は最近聞いたような気がした。誰かが同じようなことを言っていた。

「・・・そんなの・・・関係ないわ・・・はぁ・・・アンタは亜実と亜希を殺したのよ!!」

桜ははっとした。この前、あの純白のウィング・グロリアスに乗っていた“ユミ”と呼ばれたパイロットとは違うパイロットが言った言葉だった。彼女に言われたときと、レッシュに言われたときでは重みが違った。この前は気にも留めなかった言葉が桜の心に突き刺さる。
「私は!!」
無理だった。やはり、自分に彼を殺すのは無理だ。
「・・・あなたを殺すなんて出来ない・・・」
桜のGがブレードを降ろした。コクピットで桜は涙を流す。レッシュも急に動きが鈍くなったグロリアス・バーサスに攻撃の意思が見られないことを悟った。EVEも同じように感じる。その時、警告シグナルが桜の周りを染めた。
「レッシュから離れろ!!」
「漆黒の鷹!?」
「タカ!!」
グロリアス・バーサスはブレードでブラック・バードのブレード攻撃をガードした。今の桜は彼を憎むことも忘れていた。
「レッシュは殺させねぇ!!」
「・・・無理よ!私は彼を殺せない!」
翼はその言葉が自分の言葉に対する答えになっていないことに気づいた。誰かと会話しているようだった。ブラック・バードが攻撃し、翼が通信を掛けたと同時にレイからの通信も入ってきていた。

「作戦を放棄するのですか?」
「・・・無理よ!私は彼を殺せない!」
桜は通信のレイに向って涙声で叫んだ。視界がぼやける。だが、レイは冷たく言い放つ。
「所詮この程度のレベルなのですね。・・・やはり女は使えない」
桜は何も言い返せなかった。レイは大きなため息を付く。彼はコンピュータールームに増設されたシステムに座った。キーボードと2本のスティックがある。レイはそのスイッチを入れた。まるで、Gが起動するようなシステムが立ち上がった。

「あなたには絶望しました。これで用済みです」
「・・・ぇ!?」
その時、グロリアス・バーサスが一瞬シャットダウンし、再び立ち上がった。操縦系が効かない。レイが操縦系を桜から遠隔操作で操縦系を奪った。ブラック・バードを弾き飛ばす。
「くぉ!!」
「嘘!?何なのこれ!?」
「私が彼を消します」
「やめて!!・・・レッシュ!逃げて!!」
その声がレッシュに届き、それっきり何も言わなくなった。EVEが警告信号を発する。
「・・・違う!このG“変わった”」
「・・・変わった?」
「さっきまでと違う!・・・これは!遠隔操作!?」
EVEがそれを見切った。あの母艦から遠隔操作されているとモニターには表示される。ブレードを振りかぶり、レッド・バードに迫った。桜はコクピットで必死に操縦系の奪還を試みた。
「やめて!!お願い!!」
通信に叫んでも何も変わらない。モニターにはブレードを構えて迫るレッド・バードが映る。
「レッシュ!逃げて!!」
その声はレッシュには届かなかった。


「・・・じゃあ、今操られてるんだな!?」
「さっきのパイロットとはスタンスが違う!」
EVEは動きの変わったグロリアス・バーサスの動きを解析する。ブレード攻撃の頻度が減り、バルカンで牽制が多くなっている。
「・・・近づくのは厳しいな。コレを使うか・・・」
レイはプログラムを起動させた。あのプログラムだった。見えないものが広がる。ブラック・バードのモニターが一瞬砂嵐になったのに気づいた。
「・・・これは!?」
ちょうど、ジア・エータ周辺の敵を退けたとき、優美も何かを感じた。軽い頭痛が走る。
「あうっ・・・」
優美はそれがすぐにレッシュの危機に繋がることを直感で感じる。ウィング・グロリアスをレッド・バードへと向ける。
「レッシュ!!」
ジア・エータもそれを感知した。その詳細なデータが艦には残されている。友子がそれをブリッツェンに伝えた
「AI破壊プログラムです!」
「しまった!!・・・ヴィレドル君に離脱命令を!」
遅かった。レッド・バードに異変が起きる。
「きゃあああ!!」
「くそ!」
レッシュはEVEとレッド・バードを切り離した。EVEに対する影響を最小限に食い止めたかった。だが、その行動がレッド・バードとリンクしたレッシュに直接的にダメージを与えた。
「ぐああああっ!!」
「レッシュ!!お前!!」
「レッシュ!!」
「レッシュ!」
レッド・バードが無抵抗に落下していく。ブラック・バードがグロリアス・バーサスに迫り、優美のウィング・グロリアスがレッド・バードに向った。桜は聞こえていないがレッシュに向って精一杯叫んだ。
「邪魔だ」
「うぐっ!?」
レイはグロリアス・バーサスのブレードを放り投げた。回転し、ブラック・バードの羽根に直撃する。煙を上げて、フラフラと落ちていく。追いかけるのは無理だ。翼はレッシュに叫ぶしか出来なかった。ブリッツェンから帰還命令が出る。
「一旦引くんだ!レッド・バードに外部損傷はない!樹村君に任せろ!」
「レッシュ!返事をしろ!!」
だがその返事は返ってこなかった。レイは付近のフロウ2機にレッド・バードの回収を命じた。
「レッド・バードを回収しろ」
「了解」
「・・・貴重な稼動サンプルだ。慎重にな」
レイはふっと笑った。彼を殺すより大きな収穫を得た。プログラムを離れて“生存”した貴重なサンプルを手に入れることが出来そうだからだ。桜はそれを見て、胸を撫で下ろす。彼を殺さずに済んだ。ウィング・グロリアスがそこに一気に迫る。
「レッシュ!!レッシュ!」
優美はレッド・バードにもう少し、届くと言う時に戦艦からの砲撃が彼女を捉えた。
「きゃああ!!!」
シールドと脚部を吹き飛ばされ、海に叩きつけられる。それでも、優美はスラスターを全開にし、レッド・バードに向っていった。真っ直ぐ突っ込む優美のGはただの的だった。ロックされるのも無視して、突っ込む。放たれたエネルギー砲を受けたのはウィング・グロリアスではなかった。黒い機体が間に割って入る。脚部が破壊されたブラック・バードが落ちて行く。
「優美っ・・・」
「翼さん!!」
優美はレッド・バードを追うのをやめた。自分を守って落ちていくブラック・バードを受け止める。レッシュが心配で心配で壊れてしまいそうだったが、彼は今のところ無事だ。優美には分かった。翼のほうが危険だった。
「・・・悪ぃな、優美」
「一旦・・・引きます!」
「お前は、レッシュを追え・・・」
翼は掠れるモニターに向っていった。泣きそうな優美の表情が見える。
「・・・っ!」
優美は黙って、ジア・エータに戻って行った。翼はそれ以上何も言わなかった。優美に選択を迫って、苦しめるようなことはしたくない。翼はコクピットで目を閉じた。


「レッド・バードの回収に成功」
その通信がレイに届いた。彼は席を離れ。格納庫へと向う。その時、桜に操縦が戻った。
「レッシュ!」
桜は母艦へと帰還を急いだ。レッシュはコクピットの中で気を失っている。


「・・・レッシュ」
ジア・エータに向いながら、優美は震える声で彼の名前を呼んだ。




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