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「ミコ×クルス ~出会い」
「ベータ2!ベータ2!戻れ!!」
「はぁ?何で?」
通信から聞こえてきた声にクルスは毒づいた。まだ、目の前に“敵”は居る。
「帰還命令だ!」
「マジで?ありえないんだけど?」
クルスのGは命令を無視して、残された最後の1機にマシンガンを放った。銃弾を受けた武装型ヒューマノイドはビリビリと震えた後爆発する。
「ベータ2!」
「うっざぁ・・・」
クルスは小隊長から来る通信を切った。どうせこのあと説教が待っているがクルスは聞く気はない。ゆっくりと基地へと戻っていった。
案の定クルスは小隊長である男に呼ばれた。両耳にはいくつものピアス。長い茶髪はウェーブが強めに掛かっていて、化粧も濃い。立たされているが、気だるそうにガムを噛んでクルスは小隊長を睨んだ。
「間宮君!・・・どうして私の命令を聞かない!?」
「はぁ?あんたが敵を殲滅しろ、つったじゃん?」
「命令とは刻々と変化するものだ!それぐらい分かるだろ?」
小隊長は腕を振ってクルスに怒る。いつもの光景だった。クルスはガムを噛みながらダルそうにあしらう。
「・・・はいはい」
小隊長はこれ以上言っても無駄と思い、その部屋を後にしようとした。その時、同じ小隊に所属する男が2人を呼び止めた。
「おい、クルス」
「何?説教ならいらないから」
手をひらひらと振ってクルスは壁にもたれかかった。
「説教?んなもん、お前には関係ないだろ」
「ちょ!何すんのよ!」
その男はクルスの顎を掴むと上に引き上げた。払おうとするが力の差があり、払えない。
「人の話聞く時はガム噛むんじゃねぇよ」
「わかった!わかりました!・・・捨てればいいんでしょ?」
クルスはやっと、その男の手を振り払うと、ゴミ箱のところまで行ってガムを吐き捨てた。クルスはその男を睨みつける。
「ていうか、何?」
「お前、軍でやっていく気あんのか?」
その男は腕組みをして壁にもたれかかった。クルスはそこにあった机に腰掛ける。話を聞いてないのかふて腐れた表情を続けている。
「聞いてんのか?」
「は?結局説教じゃん!・・・せ・っきょ・う!」
男は舌打ちをして、壁にもたれかかるのをやめた。クルスの元に歩み寄り、突然胸倉を掴んだ。
「殴るの?・・・ふん、殴れるわけないでし・・・ぎゃ!」
「お前、つけあがんのもいい加減にしろよ、あァ?」
本当に殴られると思わなかったクルスは口の中と唇を切った。口の中から血が出てきた。机から落ちたクルスをその男が見下ろしていた。
「痛ったー・・・なにすんのよ!女に手ぇ上げて!!」
「はぁ?女だ!?・・・こんなときにだけ“女はか弱い”か?ふざけんじゃねぇ!」
「あぐっ!痛っ!!・・・マジで殺したいんだけど!」
倒れているクルスをその男は蹴った。腕を蹴られてそこを押さえてクルスは叫んだ。だが、その男はそれがどうしたというような表情で言う。その男はおもむろに腰に掛けてあった拳銃をクルスに投げた。
「じゃあ、殺してみろよ」
「な・・・」
「ほら、やってみろよ。やったら確実にお前は銃殺刑だな」
にやつく男にクルスは唇をかみ締めた。どれだけ強気でも死ぬのは怖い。
「は!所詮ガキだな」
「あんた・・・何様のつもり?」
クルスの言った一言で2度クルスはまた蹴られた。
「何様?ガキの分際で大人に楯突くんじゃねぇよ。・・・“か弱い女”だもんな!」
「離せ!離せつってんでしょ!」
クルスの髪を鷲掴みにして、顔を引き上げた。クルスはその腕を掴んで男を睨みつける。
「絶対にぶっ殺す」
「そうだそうだ・・・お前にこれを渡せつってたんだっけなぁ・・・」
クルスを突き飛ばすと、その男はポケットからしわくちゃの紙を取り出した。それをクルスに投げつけた。
「ゴミを投げんな!」
「ゴミじゃねよ!・・・ちゃんと見やがれ。文字も読めねぇのか・・・このガキは?」
拾い上げた紙くずのようなものをクルスは広げた。そこに書いてあったのはクルスに対する辞令だった。
「・・・追放・・・命令?」
「文字は読めるみたいだな?・・・はは、サルじゃねぇみてぇだな」
クルスはその辞令が書かれた紙を丸めるとその男に投げつけた。
「はぁ?なにこれ?ふざけんなよ?」
「マジだよマジ。お前の部屋は今頃一掃されてるぜ」
「・・・はぁ!?」
「命令も聞かねぇ、時間も守らねぇ、大人をコケにしやがる・・・ここにお前の場所はねぇんだよ!ゴミが!!」
それから私は、その男に飛び掛った。
でも、返り討ちにされてボコボコにされた。
土砂降りだった外に、荷物ごと放り出されて、泥だらけになった。
体中が痛い。そのまま、雨粒が落ちてくる灰色の空を見上げた。
悔しかった。涙が流れたが雨が降っているせいで涙は分からないだろう。
大人は信じられない。誰も信じられない。
軍のG部隊に配属なったのも奇跡だといわれ続けた。
私を見る周りの目は冷たいものだった。
だから、私も誰も信じない。
これから、誰も信じるつもりはない。
1人だって生きていける。
女だろうが、誰だろうが関係ない。
そう思っていた。
・ ・・彼女と出会うまでは。
―――2年前、月
「メーデー!メーデー!・・・応答願います!!」
「朝田隊長!!」
「大丈夫よ!助けを呼んだわ!!」
ミコは19歳という若さながらG部隊の小隊長に任命されていた。そして、“赤き巫女”の異名を取る優秀なパイロットだった。追い詰められ、ミコの部隊と数機のGしか残されていない。
「えーい!なにをしている!!戦艦を落とせと言ってるんだ!!」
「ですが艦長!!撤退しなければ全滅します!!」
艦長と呼ばれた男はキャプテンシートで地団駄を踏んだ。次々と反政府軍のG部隊に味方の世界政府のGが倒されていく。あまりにも無茶な作戦だった。
「俺がやれと言ったら、やるんだ!俺は艦長なんだぞ!?」
「くっ・・・」
わがままを言うこの艦長は半年前の戦いで、奇跡的に反政府軍の有名部隊を撃破していた。そのため、艦長に指名されていた。はっきり言って指揮能力、つまり“腕”はない。
「撤退できない!?どうして?」
「・・・艦長命令です。ミコさん・・・すいません」
申し訳ないという表情でオペレーターは謝った。オペレーターの後ろではその無能な艦長が喚いている。
「分かりました・・・できるだけのことはしてみます」
「お願いします」
艦との通信を切ると味方の2機のGに通信をかけた。
「聞いて」
「はい!」
「アレを落とすわ!」
ミコは通信にデータを添付して送る。マーキングされたのは反政府軍の母艦だった。
「無理ですよ!」
「私が仕掛けるから、あなたたちは援護をお願い!」
意を決した表情でミコは2人に告げた。その顔を見て、2人はため息をついた。
「・・・朝田隊長が言うなら」
「ま、しゃあねぇな。いっちょやって勲章、戴きだぜ!!」
赤いグロリアス、2機の白いグロリアスが反政府軍母艦へと迫って行った。
その後、私は反政府軍の艦を落とすことが出来た。
けど、増援が現れて、ウチの艦に甚大なダメージを受けた。
それを、艦長は私たちのせいにした。
「コイツ等が艦を離れたせいだ!!」
と、艦の護衛を怠ったせいだと言った。
生き残ったGは私の小隊を含めて5機だった。
私たちは必死に戦った。
撤退命令を出せばこれほど甚大な被害が出なかったというものもいた。
だが、あの男は、自分のわがままを押し通した。
私は査問委員会でも弁解をしなかった。
しても無駄だと思ったからだ。
あんな男と言い合いになるだけ無駄だ。
案の定、私は左遷させられることになった。
「朝田隊長!」
「ごめんね」
「あんたは悪くねぇよ。あんなクソバカに言うだけ無駄だ」
謝るミコを2人は笑い飛ばした。彼らもミコと同じように弁解しなかったようだ。
「・・・どうして・・・」
「所詮、全部階級なんだよ。俺が言ってもなんも変わりゃしねぇよ」
「そうですよ!」
そう言ってくれて私はずいぶんと楽になった。
彼らも火星と地球の南極に飛ばされるそうだ。
辞令を見ると新天地は地球の日本だ。
傭兵としての再出発だった。
それに私は、軍の兵として生きることに疲れていた。
逆によかったのかもしれない。
地球に降下するシャトルの中で外を見た。
灰色の雲が立ち込め、強い雨が降り続いている。
辞令に書かれたパートナーとなる人物のデータを見た。
「間宮クルス・・・何この子・・・?」
私の第一印象は・・・最悪だった。
どう見ても・・・不良だった。
「最悪・・・」
泥だらけになったクルスは起き上がった。泥も払わずに降りしきる雨の中荷物を集め始めた。大型のダストボックスのようなものに自分の荷物が放り込まれていた。土砂降りの雨に濡れて服や、アルバム、ポスターがぐちゃぐちゃになっている。悔しさで涙がこみ上げてきた。思いっきりダストボックスを蹴飛ばして、ダストボックスにもたれかかって座り込んだ。
「・・・くそっ」
その時、強い光がクルスを包んだ。2つのその光は揺れながら、真っ直ぐこっちに向かってくる。クルスは手をかざして眩しくて目を細めた。涙で余計かすんで見える。
「眩し・・・って!ちょちょっちょ!!」
近づいてくるのはトラックだというのが分かった。だが、そのトラックは悪路で跳ねながら、スピードを緩めることなく真っ直ぐにクルスに向かって突っ込んできた。慌てて立とうとして逃げようとしたが、足元がぬかるんで逃げられなかった。クルスは死を覚悟した。
「ぎゃあああ!!!」
クルスの絶叫の目の前でそのトラックは急停止した。ぬかるんだ地面に滑り、ギリギリで停止する。クルスが両手をかざした数センチ先だった。一気に力が抜ける。
「は・・・あぁ・・・」
力が抜けたと同時に怒りがこみ上げてきた。思いっきりフロントバンパーを殴って、クルスは立ち上がって運転席へとズンズン歩いていった。一言言ってやらないと気が済まない。クルスは左側のサイドウィンドウを思いっきり叩いた。
「どこに目ぇつけてんのよ!!殺す気?」
ゆっくりとウィンドウが下ろされて、中にはクルスより少し年上に見える女性が乗っていた。珍しいものを見ような目でその女性はクルスの頭から足まで見渡した。
「・・・あなたがマミヤクルス?」
「・・・聞いてる?」
「それが荷物?」
泥だらけでずぶ濡れのクルスが叫んだが、マイペースなその女性は顔を少しだけ出して大型のダストボックスを見た。
「ちょっと!無視!?あんた・・・」
「ずぶ濡れじゃない・・・早く荷物積んで。私も手伝うから」
「は・・・」
その女性はトラックから降りると雨に濡れるのも構わずにダストボックスから荷物を荷台に積み始めた。傭兵の制服を着ている。クルスはマイペースなその女性に合わされて段々と怒る気が無くなって来た。
「あんた・・・服・・・」
「これ?平気よ、これくらい」
そう言ってその女性はブラウスの襟を軽く引っ張った。2人は無言のまま荷物を荷台に積み終わると、女性は助手席から耐水シートを取り出してくる。荷台にあがるとクルスに端を引っ張るように指示を出した。
「そっちと、そこに掛けて。少しでも雨避けになるから」
クルスは無言でその指示に従った。シートを掛け終わると、その女性は助手席に乗るように促した。クルスは黙って助手席に乗ると、大きなタオルを投げられた。
「これで拭いて。風邪引くわよ」
「・・・あ、ありがと」
髪と顔、体を拭いて初めてクルスはその女性の顔を見た。20歳ぐらいだろうか。日本人だった。全身ずぶ濡れで、肩までの髪や額に張り付いた髪からポタポタと雫が垂れている。白いブラウスが肌に張り付いて、自分より濡れている様な印象をクルスは受けた。タオルを見て、クルスは思わず声を上げてしまう。
「・・・げっ!」
「げ?・・・どうしたの?」
クルスはタオルをさっと隠した。化粧が取れてタオルが凄いことになっていた。夜な上に暗い車内じゃ化粧が取れたとか分からないが、クルスにとっては一大事だった。
「何でもない・・・」
「あ、そっちの方がいいって。若いんだから化粧なんてしなくても可愛いよ」
その女性はクルスの顔を見るとふっと笑った。まじまじと見られてクルスは恥ずかしくて赤くなった。
「・・・見るなよ!」
「私は、朝田ミコ。“元”世界政府軍のパイロットよ」
運転しながらミコはクルスの方を向いて笑顔を見せた。暗い車内だがクルスにはその笑顔がはっきりと見えた気がした。
「間宮クルス・・・よ」
「まあ、話は部屋に帰ってからにしますか・・・。私もちょっと寒くなってきたし」
軽く身震いしたミコが苦笑した。
2人を乗せたトラックは雨の降る夜道を走って行く。
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