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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第12回 生徒会新聞委員会第909回 2007年3月30日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第12回 生徒会新聞委員会 生徒会新聞委員会では企画会議を行っていた。新聞は最初の企画会議でおおよその内容を決めるが、体育大会や文化部の対外での活躍の結果によって、記事の内容や企画が変わってくる。 美智江は新任の先生方の似顔絵を持って参加した。 ケント紙に製図インクと墨汁で描かれた似顔絵の原画は、委員たちにとってはひときわ輝いて見えた。「これが美術部の井上くんが描いたのがい?」 顧問の教師安藤直子が頭を軽く振りながら言った。「上手ね~!」 委員たちは一同に原画の迫力に見入っていた。 美智江は「やったー」と心の中で叫んだ。 美智江の狙いは井上はじめのマンガの売り出しだったから、これで第四中学校の中で井上のマンガに対して一目おかれると密かに喜んだ。 「井上くんといえば、母の日の『第九回お母さん似顔絵作品展』でも入賞していたわよね」 と誰かが言った。「そのコンクールの記事も入れようよ」 と、もうひとりが言うと、みんなが賛成した。 美智江はニコニコして聞いていた。「そうだ、荒木くんが特選のお母さん賞で、井上くんが入賞だっけ?」「井上くんって、美術部の部長でしょう?その人が荒木くんよりも実力が下なの?」 そのことを聞いた瞬間に美智江の表情は硬くなった。「まずいわ、せっかくのはじめのマンガが霞んでしまう。どうしよう……」 美智江は自分の作戦が狂ってしまうと思った。 だいいち井上の母はとっくに亡くなっており、井上の描いた母は自分の母代わりのおばあさんが縫い物をしている姿だった。だから歳も老けて見える絵だった。井上にはハンディがあったのだからと美智江は考えた。 「県内五千人の応募の中から本校からは四人が選ばれた。これは快挙なのよ!入選者はみんな実力者なの」 安藤は教師の立場で入賞した四中生の実力を讃えた。「県下で五千人から選ばれたんだからやはり凄いことよ。この記事は私が書きたい!」 と、二年生の鈴木晴美が言った。「それじゃあ、記事は大きく載せるようにしましょう」 安藤が言う。 井上がマンガを描いていること自体まだまだ知られていない。美智江の作戦は、子どもたちが熱中するマンガを、身近な井上が描いていることをクローズアップさせることで、彼のマンガを学校内で見直させようという作戦だった。 それから井上が二年生の時に、壁新聞に描いた原子力空母入港反対のイラストが校長先生の逆鱗に触れたことがあった。美智江は、井上に生徒会新聞に教師の似顔絵を描かせ、一躍注目させることで印象の悪さを返上させることになるだろうとも考えたのだ。 美智江は焦りだした。このままではこれらの思惑が薄らいでしまうのではないかと……。 そうだ!!!「安藤先生!新聞にとって不可欠なものがありますよね?」「あるわね、社説ね」「そうではなく、なんていうか、読者のうっ憤を晴らすというか……」「ああ、マンガね~」「そうそう、それです。はじめくんは絵も上手ですが、マンガも上手なんです」「そうね、こんなに似顔絵が描けるんだものね」「それははじめくんから言わせると似顔絵なんですね、マンガとは読者の心情や社会の動きに対しての風刺なんかを描くものではないですか」「中山さんはとても勉強家ね」「そこで提案ですが、今回、四コママンガを載せてみたいんです」「井上くんが描くんですか?似顔絵の他にですか?」「ハイ、似顔絵は記事と同じで書いた者の名前を出しません。誰が描いたかはわからないですが、マンガは作者名を入れます。しかも、彼の描くタッチは違うようにさせますから」「あなたの熱心さには感心しました。でも少しみんなで考えてみましょうね。みなさんもいいですね」 安藤は結論を先延ばしにした。 ■(文中の敬称を略させていただきました)>~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第12回 生徒会新聞委員会つづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第13回にご期待下さい!!
2007年03月30日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第11回 似顔絵 その2第908回 2007年3月28日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第11回 似顔絵 その2 放課後に井上は美術部に行き、部活が終ると三年三組の教室に戻り、似顔絵の下書きを直した。 陽が少しずつ落ちて暗くなりつつある教室だった。 美智江からも「工藤先生は星飛雄馬みたいだわ」と言われるように、星飛雄馬が登場する「巨人の星」というマンガが大きな社会現象になっていた。 この春から少年マガジンの「巨人の星」がアニメ化され爆発的な人気になり、社会からも注目を浴びたのだった。 井上は川崎のぼるの描くマンガはともかくとして、アニメの「巨人の星」の作画には不満だらけだった。梶原一騎の原作は大人も魅了するほどの物語感があったから、アニメもこの物語に助けられ、なかなか見ごたえのある演出になっていた。 同級生の佐藤修一がこの「巨人の星」の単行本を学校に持ってきては、井上たちに見せていた。井上もいつの間にかこのマンガの影響を受けていた。その大きな理由は手塚治虫のマンガとは違い、絵は描きやすくストーリーも簡単だった。 工藤先生をもっと大人らしくかくこと、と言う美智江の言葉を心で繰り返しながら、井上は何回も似顔絵を描き直した。 しばらくすると美智江がソフトボールのユニホーム姿で現れた。「バシーン!」 美智江は机にグローブを叩きつけた。 ビックリした井上は立ち上がった。 美智江は帽子を横に被り、顔もユニホームも土で汚れていた。「ああ、疲れた~ァ。春日のヤロウ、もう少し手加減しろってんだ!ソフト部の存続が危ないっていうから入ったのに、遠慮しないで本気でくるんだから参った~ァ」 美智江は井上の居ることなど、気付いていないのかひとり言をいう。「あの~っ」 と井上は美智江に声を掛けた。その瞬間、美智江はキャッと声を出した。「ああ~ビックリしたァァ……」 と、井上が震えながら言った。「なに言ってんのよ!?なんではじめくんも驚くのよ?バ~カ~……」 と、美智江が井上を左ひじでこつきながら言った。「似顔絵の下書きを直していたんだ」 井上はボソッと答えた。「だったら、電気ぐらい点けて描いてなさいよ。目を悪くするよ」 美智江は両手を腰にあて言った。帽子を横に被った美智江はおてんばそうでとても似合っていた。「どれどれ……」 と、美智江は下書きを覗き込む。「どうも、工藤先生が星飛雄馬になってしまうんだ」 言い訳がましく井上が言うと、美智江はしばらく考え込んだ。井上は美智江からどんな反応か怖かった。「いいんじゃない!」 美智江が言った。「はじめくん、無理に直すことないよ」「えっ、だって工藤先生の似顔絵だから星飛雄馬じゃまずいんだろう?」「うん。最初はそう思った。でもね、みんな巨人の星が好きみたいだよ。うちのソフトボール部だって、♪行け行け飛雄馬~どんと行~け~って、歌ってんだから、すごい勢いでこのマンガは人気になっているんだもん」「…………」「だから、巨人の星人気にあやかれば、意外に注目をあびるかもしれないじゃない?」 なんだい、また言うことが変わるのか?と、井上は胸の中で言った。「はじめくん、じゃあ、清書して……」「せいしょ?ああ、ペン入れしていいんだね?」 体育館から西日が射し、校舎と樹木の光と影のコントラストが鮮やかになった。三年三組の教室はだんだんと暗くなっていく。 2006年 9月16日 土曜 記 2006年 9月17日 日曜 記 2006年10月 2日 月曜 記 2006年10月 3日 火曜 記 2006年10月 5日 木曜 記 2006年10月 7日 土曜 記 ■(文中の敬称を略させていただきました)>~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第11回 似顔絵 その2つづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第12回にご期待下さい!!
2007年03月28日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第10回 似顔絵第907回 2007年3月24日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第10回 似顔絵 井上は自宅に帰ると早速似顔絵を描き始めた。 鉛筆をケント紙を取り出して下書きをする。 井上がモデルの先生の顔を思い出しながら、描き易い顔から描いていった。一年生の時に担任の先生だった工藤修一を描いた。どうも童顔になり、流行(はやり)の巨人の星の星飛雄馬に似てしまう。次は新任の先生の二宮美夫を描いた。これも巨人の星の登場人物にどこか似てしまう。「どうしてオレは巨人の星を意識してしまうのだろう」 と、井上は自問自答するのだった。 先ずは下書きを完成させて、明日は美智江にチェックをお願いすれば、彼女のことだから「これはダメ、そこはこうしなさい」と言ってくるだろう。そう考えると気楽に鉛筆を走らせることができた。 この日は、春というのに夏のように朝から陽射しが強かった。 井上は三日間掛かって、美智江から依頼された似顔絵の下書きを完成させた。 寝不足の井上は七時になってようやく起きた。遅くても七時二十分には自宅を出ないと遅刻をする。着替えを済ませ、顔を洗って、食事を急いで済ませると、似顔絵の原稿を丸めてビニール袋に入れてカバンの中に入れた。 教室に着くと井上は美智江に声を掛けた。「……はよう」「はじめくん、いまなんて言ったの?朝からシャキッとしなさいよ~。そんなんじゃ今日一日生きていけないよ!」「……お、お、おはよう。これ下書き……」 井上は似顔絵の下書き原稿を美智江に渡した。「ハイ、おはよう!どれどれ……」 そう言って、美智江はビニール袋から原稿を取り出した。 井上は自分の席に腰を掛けた。美智江の席は一番前で、井上の席は美智江の席から二列後ろだった。美智江はすぐに井上の隣席に座って、下書きについて感想を話した。 「はじめくん!この二宮先生はそっくりだわ!工藤先生は星飛雄馬みたいだわ、もっと大人っぽく描いて。それからこの先生は現物よりカッコ良すぎるからもっと崩していいの」 そう言って一人ひとりについて率直に意見した。「…………」「はじめくん!メモしないで大丈夫?わかっているの?」「…………」 井上は黙って美智江の意見を頭の中に記憶した。(文中の敬称を略させていただきました)>~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第10回 似顔絵つづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第11回にご期待下さい!!
2007年03月24日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第9回 美術部長第906回 2007年3月16日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第9回 美術部長 お昼休みの教室には春の暖かさも手伝って、みんなの弁当のおかずの匂いが空中で混ざり合って、教室の中にほんわかと漂った。たくあんの匂いが強く鼻をついた。「はじめくん!まだ食べてんの?なにをモサモサしてんのよ~」 そう言って、美智江が井上の机の脇に立った。 井上は、弁当をまだ半分しか食べていなかった。食べるのがいつも遅いのだ。 井上は黙って、弁当にふたをして、弁当を柄物の大きなハンカチに包んだ。「どうして残すのよ、ちゃんと食べないとダメでしょ!?それじゃ痩せてて、いつまでも太らないよ」「お願いってなんだよ」 井上がブスッとして言った。「なによ、その言い方は。私はお願いしようとしているのに!」「だから、なんだよ?」 お願いする側なのにこの命令調の態度はなんだ、オレはおまえの子分じゃないぞ……美智江にそう言いたかったが、怖くて言えなかった。「おっ……はじめくん。今日は強気だね?ハハハハハッ……」 こいつは完全にオレを子ども扱いしている。こんな奴の言うことは絶対聞くもんか!!と、井上は心の中で誓った。「はじめくん、今度、美術部の部長になったんだって?お前にお似合いだよ。そこでお願いなんだけど……」 お前だって?女の子が言うセリフじゃないだろう、部長なんてなりたくてなったわけじゃないと、井上は言いたかった。でも、言えなかった。「……」「なによ、なに黙ってんのよ!ありがとうって言いなさいよ。お祝いを言ってあげてんのよ」 美智江の傲慢さは鼻持ちならなかった。「美智江ちゃん、オレは好きで部長になったんじゃない。オレは部活で疲れている。だから美智江ちゃんのお願いは聴けないよ」「おっ、口ごたえするの?はじめくんは美術部で頭脳労働だから疲れていない。それにはじめくんは天才だから!」「えっ?……」 井上は美智江の顔を見た。美智江はニコニコ笑って井上を見ていた。 美智江は井上の左隣席に座った。「はじめくんにしかできないことだから、絶対、私のお願いを聞かないといけないのよ」 美智江は子どもに言いきかせる母親のような口調で、井上に命令をしようとした。「……なんだよ」 井上はボッソと、無愛想に言った。「なによ、その態度!……かわいくないわね!!」 なにを一人で言っているんだ……かわいくなくてもいい、と、井上は思った。「はじめくん、私が生徒会新聞委員会だって知ってるわよね。生徒会新聞って年に二回発行しているんだけど、新年度だから新任の先生の紹介を今回は似顔絵を入れてしたいのよ」「……」「だからはじめくん、生徒会新聞に似顔絵を描いてよ。これがモデルの先生たちよ」「エッ、オレが描くの?」 と、井上は驚いて問い直した。「当り前でしょ!後は誰が描けるのよ」 そう言うと美智江は、教師たちの名前を書いたわら半紙のメモを井上の目の前に置いた。 その用紙には「新任の先生」と「先生の横顔」などと書いてあり、傍には教師の名前が並べて書いてあった。「おれ描けるかな~」 と、井上はか弱い声で言った。「なにをいってんのよ~(笑い)あの掲示されている黒澤先生たちをモデルにしたマンガはそっくりだって~。黒澤先生が感心していたじゃないよ。はじめくんなら描ける、描けるから!」「でも、生徒会新聞って難しい話題ばかりで、誰も読まないよ。そこにオレのマンガを載せたら、絶対問題になる」「問題って、どこでなるのよ」「学校、また、校長先生から文句がくるに決まっている」「ああ、あのエンタープライズ入港反対の壁新聞のことを思い出しているんでしょ?」「……」「バカだねぇ(笑い)あれははじめくんがせ・い・じ(政治)?を学校に持ち込んだことで、問題になったんじゃないの。今度は先生たちの似顔絵だから問題はないし、はじめくんの考えは入らないから大丈夫だって」「そうかなあ?」「これは私の企画なのよ。はじめくんはあれだけ(マンガを)描けるようになったんだし、今度は先生たちからのウケもいいんだから、似顔絵を載せれば難しい紙面も少しは親しみやすくなるでしょう」「オレ、校長先生に怒られるのは嫌だから、下書きの段階でチェックを入れてくれるか?」「いいわよ、私がちゃんとするから、頼むよ、はじめくん!!」 と、言って美智江ははじめの肩を叩いた。同時にお昼休みの終っる知らせのチャイムが鳴った。 2006年 9月16日 土曜 記 2006年 9月17日 日曜 記 2006年 9月20日 水曜 記 ■(文中の敬称を略させていただきました)>~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第9回 美術部長つづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第10回にご期待下さい!!
2007年03月16日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第8回 素質開眼 その2第905回 2007年3月11日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第8回 素質開眼 その2「最近、自分行動がいろいろな形で周囲から評価されている」 井上はそう感じた。 「少年ブック」の赤塚不二夫マンガ教室での入選。「少年マガジン」「巨人の星」のテレビ放映記念主題歌募集の佳作入賞。そしていずれも誌面に井上の作品が掲載された。それを見た同級生からは「マガジンに載っていた『井上はじめ』ってお前だよな?」と質問を受けた。 それらの影響もあって、美術部の部長にも選ばれることになった。 井上は美術部に所属していたといっても、虚弱体質の体で学校生活の一日をようやく過ごしていたようなもので、部活はほとんど欠席していた。それでも先輩で部長だった桑野博や刈田先輩がよく面倒をみてくれたから、美術部には籍を置いていたのだった。それが三年生でいきなり部長とは本人が一番驚いた。 井上は二年生の終わりごろから校内で目立ち始めてきた。少し壁新聞にエンタープライズ入港反対のマンガを描いたときには、あの大人しい井上が政治的な動きをしたのかと、校長の寒河江直らが問題視することもあった。 井上が目立ち始めることで、部員たちは井上を部長に押し上げることになっていった。 それからもう一つ、美術部顧問の教頭小林勇が転勤になることになり、井上は送別の額を贈ることを部員に提案した。そして部員からお金を集めて額を贈ったことで部長に推薦する決定打になった。 井上はまさか部長になるとは思ってもいなかった。しかし、同級生の寒河江や長沢純一らに押し切られた格好で引き受けてしまった。「……部活にも満足に顔を出さないで、どうして部長なんだ」 そのとおりで、誰も美術部での井上の作品を見た覚えはなかった。作品をあまり描かない美術部の部長誕生だった。 いつも井上は優柔不断て、自分の考えや意思とは反対の方向や結果になってしまうのだった。 そんな矢先、同級生の美智江が井上に声を掛けてきた。「はじめくん!お願いがあるからお昼が終ったら、私の話を聞いてよ、わかったァ?」「……え~っ……」 井上はまた美智江に半強制的に用事を言いつけられるものだと思い、できるだけお願いは訊きたくはなかった。「いいね!」 美智江はそう言って自分の席に戻った。 2006年 9月16日 土曜 記 2006年 9月17日 日曜 記 2006年 9月20日 水曜 記 ■(文中の敬称を略させていただきました)>~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第8回 素質開眼 その2つづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第9回にご期待下さい!!
2007年03月14日
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~巨人の星の実況中継アナ死去~第904回 2007年3月11日さよなら 小林恭治氏 テレビアニメ「巨人の星」でナレーターや実況中継アナ役の小林恭治さんがお亡くなりになったことを新聞の訃報で知りました。 早速、インターネットを検索するとスポーツニッポンやディリースポーツで次のように掲載されていました。 毎週の巨人の星の中で、試合場面になると独特の緊張感をもたらし、一層の効果をもたらしたのが小林さんの実況中継でした。 手に汗握る場面やあの大リーグボールの場面は小林さんの実況をなくしては考えられません。 小林恭治さん。すばらしい演技をありがとうございました。やすらかにお眠りください。*************************************************声優・小林恭治氏死去 声優・小林恭治氏(こばやし・きょうじ)氏が8日午前1時2分、くも膜下出血のため東京都世田谷区の病院で死去、75歳。東京都出身。葬儀・告別式は14日午前10時から東京都渋谷区、代々幡斎場で。喪主は妻晴美(はるみ)さん。 NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」のダンディーやアニメ「おそ松くん」のイヤミの声、アニメ「巨人の星」のナレーターなどを務めた。
2007年03月11日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第7回 素質開眼 その1第903回 2007年3月9日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第7回 素質開眼 その1 井上のマンガはしばらく教室の後ろ壁に掲示されていた。 英語の時間だった。「これから単語テストをします。いいですか、前回までに学習したものだから決してむずかしくありません。気軽に受けてください」「ええ~っ」 生徒たちが声を上げた。 教師の黒澤志郎が問題用紙を配った。 黒澤は白髪交じりのごま塩頭で黒ぶちのメガネを掛けていた。痩せていて、骸骨が動いているようだった。生徒がどうのこうのというより、常にマイペースだった。不思議に生徒たちも大人しくしていた。突然の豆テストに対しても声は上げるが、生徒たちは「黒澤先生だからなあ……」仕方がないと言って素直に従うのだった。 テストは静かに行われた。黒澤は静かに骸骨が歩くように生徒の机の間を通るのだった。 黒澤は教室の後ろに行くと井上のマンガに気付いた。何枚かのマンガをジッと眺めていた。ずいぶん時間が経った。それでも動かないでマンガを鑑賞していた。生徒たちが次から次へとテストが終っていった。黒澤は背を向けて動かないので、生徒たちは隣同士で話をはじめた。「みんな、少し静かにしなさいよ!」 級長の色摩美子が言った。その声にハッと我に返ったように黒澤が振り向いた。「この絵を描いたのは誰かね?」 と、黒澤がみんなに訊いた。誰かが「井上だよ」と答えた。 すると黒澤は井上の傍に行った。「あなたの絵はすばらしいねえ。あなたがこんな絵を描くとは思いもしなかった」 井上は黙って顔を下げていた。「マズイ……」 一瞬そう思った。このマンガには黒澤先生もモデルになって登場していたからだ。「黒澤先生、どうもすいません!」 井上は椅子に腰掛けたまま謝った。「どうかしましたか?」「黒澤先生も(マンガに)登場させました」「よく描けていました。そっくりです。ありがとう」 黒澤がやさしく言った。「あれだけ描けるのなら絵の勉強をして画家になったらどうですか?」「が・か?」「私の弟は画家です。弟も小さい時からよく絵を描いていたものです。あなたも絵が好きなら将来は画家になればいい」 井上は顔を上げて黒澤の顔を見た。そして井上は訊きなおした。「黒澤先生の弟さんは画家なんですか?」「そうです。画家です。好きなことを職業にすることはとても大切なことです」「なんでだべ(どうしてですか)?」「人は生まれた時からいろんな環境に束縛されているもんなんです。私の青春時代は戦争だったり、米屋の息子は跡を継がなければならなかったり、多くの人はそういうもんだと受け止めたり、あきらめたりします。」「……」「でも、決まった職業がなかったり、食べられない家の子どもは自分で仕事を開拓していくしかないのです。その時に好きなことがあって、それを追求していけば職業になるかもしれないじゃないですか。あなたは親の仕事を継がなければなりませんか?」「いいえ…」「だったら好きな道に進みなさい。あなたは絵描きの素質があるかもしれませんよ」 校内にチャイムが鳴り響いた。 ■(文中の敬称を略させていただきました)>~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第7回 素質開眼 その1つづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第8回にご期待下さい!!
2007年03月09日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第6回 きっかけ第902回 2007年3月2日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第6回 きっかけ 井上はボートを漕ぐ羽目になった。もちろんオールを持つのは初めてだった。 近藤と小山は、井上とまさよしがボートに乗ったのを確認してから、もう一隻の方に二人で乗った。 先頭の井上らのボートは、近藤たちの乗ったボートにぶつからないように先に進まなければならない。しかし、どう漕いでいいのか井上もまさよしもわからなかった。 近藤は井上らのボートに自分たちのボートをぶつけて、井上たちのボートを押し出した。 ボートはぶつかるとガタン、ガタンと音をたてる。そして揺れる。揺れるたびに井上とまさよしはキャー、キャーと悲鳴を上げた。「井上、ボートはこうやって漕ぐんだ。見てろよ!」 近藤が大きな声で言い、オールを両手で廻し上げた。静かな水しぶきが起こりボートは進んだ。井上も真似をしてオールをつかんで両手で廻そうとした。その瞬間、バシャーンと水しぶきが大きくはねた。それが乗っていた自分たちに降りかかった。「なにすんだ?井上!へだくそだなあ!!」 と、まさよしが怒鳴った。「お前はマンガを描いてだほうがいいさっ」 と、まさよしが軽蔑したように言った。井上はその瞬間に湖に拡がった水しぶきの輪に目を落した。 「井上くん、これはいけるね!」 第四中学校の教諭、亀岡博が言った。 それは中学三年生の春、国語の授業中のことだった。 美術の教科も担当していた亀岡は、「コミュニケーションの種類」を絵で表現する宿題を出した。その何種類のコミュニケーションを井上は得意のマンガで表現した。しかも、マンガの中にはこの中学校の教師たちが登場していた。 「ケント紙に製図用インクでペンを用いて描いたんだね」 亀岡は美術も受け持っていたから、井上の描いたマンガの原画を見れば何を使って描いたのかがすぐにわかった。「……」「きみはいわゆるカットやイラストではなく、マンガを描くんだね」 亀岡は井上がマンガを描いていたことなど、まったく知らなかった。美術を担当して三年目にして初めて井上のマンガを見たことになる。「意外だったね、キミがマンガを描くとはね。想い起せばキミの描く絵の構図はダイナミックだったり、目線が変わった所から表現していた。きっとマンガを描いていたからなんだね」 亀岡は微笑を浮べ両手で四角や丸の構図のポーズを作りながら、井上に淡々と話し掛けた。「いつからマンガを描いていたんだい?」「小さい時から……」 井上は小さい声で答えた。「井上くん、これはなかなかわかりやすい。きみのこのマンガを教室の後ろの壁に貼っておこう!」 亀岡は自分で画鋲を持って、井上のマンガを壁に貼っていった。この時から井上の四中内マンガ家としての一年間が始まった。 国語の授業が終ると三組の級友たちが壁に貼ったマンガを見た。「井上!なかなかいいじゃないかあ~。お前マンガ家になるのか?」 とニキビ顔で油性の佐藤一彦が言った。井上はモジモジしながらかぶりを振った。「照れるなよ、手塚治虫先生からもハガキをもらったんだって?すごいよなあ」 佐藤修一がニコニコして言った。井上は顔を真っ赤にして顔を伏せた。 井上はいつの間にか、級友の輪の中にいた。 「これは黒澤先生だろう?」「アハハハハッ……」「このブッチョウ面は春日先生だな!?」「オホホホホッ……」「あっ!ヒゲダルマだ~勝広センセイ~!!」「そっくりだ~はじめ、お前上手だなあ」 級友のみんながマンガを見てワイワイガヤガヤとなった。 井上は困ったと思った。このマンガがこんなにウケルとは考えてもみなかっただけに、汗が流れてきた。井上は顔を真っ赤にして自分の席に着いた。 級友たちも席に戻っていった。 美智江は一人だけマンガを見つめていた。そして腕を組みひとり言を述べた。 「う~ん、これはいいかもしれない!」 2006年 9月12日 火曜 記 2006年 9月14日 木曜 記 2006年 9月16日 土曜 記 ■(文中の敬称を略させていただきました)>~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第6回 きっかけつづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第7回にご期待下さい!!
2007年03月02日
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