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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第18回 手塚センセイの弟子になるの?第919回 2007年4月30日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第18回 手塚センセイの弟子になるの? びる沢湖に拡がった水の輪は大きくなって消えていった。 井上はじめの漕ぐボートはどうしても蛇行になり、水しぶきも大きい。それに比べて、近藤重雄の漕ぐボートはオールの廻し方も型にはまってカッコよかった。「こんど~う先輩~っ、井上はわがんね~、同じどころをグルグル回ってばかりで、船酔いする~。オレを先輩のボートに行かせてくれよ~」 と、まさよしが言った。「まさよしが漕げばいいじゃないか」 近藤が返事した。近藤のボートに乗っていた小山絹代はバイバイと手を振った。「うるせ~っ、オレが漕げたなら苦労しねべ~」 と、まさよしが言った。その側を近藤はスイスイと追い越して行った。 湖は雨不足がたたって水不足になっていた。底が浅く、下手をするとオールが底に届くのだった。それでも近藤と小山絹代を乗せたボートは湖の真ん中までやってきた。 井上の漕ぐボートもようやく追いついた。 静寂だった。曇った空に岩肌が出た周囲の山々、奥の山は緑が雨に映えていた。 濁った湖に二台のボートがポツンと浮いているだけだった。四人はしばらく黙って周囲を見渡した。 この数ヶ月の忙しさがウソのように思えるほど、のどかだった。小山は両手と首をおもいっきり伸ばして深呼吸をした。井上もつられて同じ動作で深呼吸をした。 どこからか「ヒューッ」という鳥の鳴き声が聞えた。「とんびだ」 と、まさよしが言った。 ボートから上がってから、用意してきたおにぎりを食べるために売店の席を借りた。なにも注文しないのも悪いと思った近藤は、サイダーを一人一本ずつ注文した。売店のおばさんは、「気を使わなくってもいいんだよ」 と、やさしく言った。 井上の祖母の握ったおにぎりはとても大きく、海苔でしっかり包んであった。おにぎりの中には、塩鮭の切り身か、梅干のどちらかが入っていた。 小山絹代はおいしい、おいしいと言って頬張った。近藤もまさよしも喜んで食べた。 「ハイ、お茶だよ。よかったら飲みなさい。おにぎりにサイダーではたいへんだろう」 と、売店のおばさんが魔法瓶(ポット)とアルミの急須を持ってきてくれた。小山はありがとうございます、と言ってお茶を煎れた。「小山の気配りはたいしたもんだなあ」 と、近藤は感心して言った。「なに言ってんの!お世辞言ってもなんにもでないわよ」 と、小山が照れながら言った。「ホント、オレも絹代さんには感謝している。まんが展が成功したのも、絹代さんや近藤先輩が支えてくれたからで……」「はじめくん、なに言ってんの。私だけじゃないわ。みんなが頑張ったから成功したのよ」 小山は謙遜し、いつものように気取らないでサラッとその場をかわした。近藤もそうだ、そうだと相槌を打った。 井上が今月の初めに酒田経由で上京し、手塚治虫らに会いに行ったときも、近藤と小山が駅まで見送りに来てくれた。不安で心細かった井上がこの二人に励まされたのだった。井上はびる沢湖を見ながら思い出していた。 「そうそう、来月早々にまた手塚先生に会えるかもしれない」 井上が言うと、小山は、「すごいねえ~。手塚治虫センセイに会えるなんて、はじめくんは手塚センセイの弟子になるの?」 と、訊ねた。「……え、そんなこと考えたこともないよ」 井上にとっては意外な質問だった。 そして先ごろも、中学の同級生だった美智江からも同じ質問があったことを思い出した。 どうもみんなに誤解を受けていると、井上は思った。 2006年10月 9日 月曜 記 2006年10月10日 火曜 記 2006年10月13日 金曜 記 2007年 1月30日 火曜 記 ■(文中の敬称を略させていただきました)~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第18回 手塚センセイの弟子になるの?つづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第19回にご期待下さい!!
2007年04月30日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第17回 新聞完成第918回 2007年4月26日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第17回 新聞完成 六月になると暑い日が続いた。陽射しはもう夏と同じだった。第四中学校から見える山々は新緑であふれていた。その中を登校する中学生たちは、学生服を脱いで、男は白いワイシャツで女は白いブラウスの姿だった。 朝のチャイムが鳴り、教室には学生たちが吸い込まれるように入っていった。 三年三組の担任春日英朗は、いつものように左手をズボンのポケットに入れて、右手には大きな用紙の塊を持って教室に入ってきた。 学級委員の色摩美子の声で全員が一斉に起立して、オハヨウゴザイマスと挨拶をした。「おはよう……。今日は生徒会新聞を渡す。おう、新聞委員会の中山美智江!今回の新聞の紹介をしてくれ!」 と、春日はいつものように紅い顔をしてぶっきら棒に言った。美智江はすぐに立ち上がり、後ろを向いてみんなに呼び掛けるように説明を始めた。「ハイ、今回はできるだけ親しみの持てる生徒会新聞を目指してみました」 新聞は前の席から後ろへと送りながら配られた。「なんだ、マンガがあるぞ!」 と、誰かが大声で言った。 美智江は話を続けた。「そのマンガは井上はじめくんに描いてもらいました。難い紙面を少しでも柔らかくするためにです」「オオ、ホントだあ!はじめのマンガだ。アングラくんだあ~」「『夢の夢…?』だってさあ。現実はキビシイ、ぶかっこうだヨーンだって、井上~自分のこと描いたのかあ~」「ホントだ、ホントだ!!」 教室中からワーッと笑い声が起こった。 この瞬間、美智江は「ヤッタ!!」と思った。 この教室と同じ反応がこの四中で、いま起こっていることだろう……、井上のマンガを巡って。そしてこの瞬間から井上はじめという人物と井上が描くマンガに注目が集まるに違いない。そして少なくても以前よりも多くの人たちが生徒会新聞を読んでくれる、美智江はそう確信した。「オイ、工藤先生がこんなにカッコいいかあ?」「巨人の星の星飛雄馬みたいネ」「おい、長沢!静かにしろ!!まだ、中山からの紹介が終っていないぞ」 春日はそう言って、美智江に話を続けるように顔で合図した。 美智江は新聞を取り出して、一面から丁寧に紙面を紹介した。チラッと井上に目をやった。井上は顔を上げないで新聞を見ていた。「どうしたのかしら?」 美智江は井上が気になった。 「中山、どうもありがとう……。おい、井上!お前のマンガはなかなかよくできている。校長先生も感心していた。これであの件は許してくれよな!?」 と、春日は井上に言った。 「……あの件?」 そうだった。佐世保にエンタープライズ空母が入港した時に、井上が描いた入港反対の壁新聞のことか。 あの時は、校長先生が内容が政治的で学校の壁新聞には不適切だからと、担任の春日先生を通して注意があった。それを春日先生はオレの考えや気持ちを理解して校長先生に交渉してくれた。結果はダメだった。あの時、春日先生は「お前の描いていることは間違ってはいない。でも、校長先生から許可がでない限り、学校には掲示ができないんだ。済まないが他の内容に替えてくれ」と、オレに頭を下げて言ったっけ。 井上は、ちょっと遅れがちに、「……ハイ」 と、返事をした。 朝礼が終ると、級友たちは井上に寄ってきて囲んだ。「井上、お前なかなかいいの描くじゃん!二宮(先生)なんかそっくりだ」 と、佐藤一彦が言った。「工藤(先生)は、若すぎるんじゃないかあ~井上、工藤にゴマすっていないか!?」 と、長沢純一は両手を広げ、オーバーな動作をしながら大声で言った。 井上は顔が真っ赤になっていた。今までもマンガを描いていたが、生徒会新聞に載ったことでこんなに周りが騒ぐとは予想もしていなかった。それだけに恥ずかしくって、頭を上げることができなかった。 この模様を二つ前の席から美智江は微笑んで見ていた。 三校時が終ってから、廊下から頭がスポーツ刈りのメガネを掛けた男性教諭が教室に入ってきた。それはこの四月からのこの学校に赴任した二宮美夫だった。 二宮は教壇からキョロキョロと教室の周囲を見渡した。「井上はじめはいないか?」 教室のみんなに訊いた。そこへ井上が教室に入ってきた。「おお、井上!きみに用事があってきたんだ」 井上は教壇前に立ち止まった。「井上、生徒会新聞にボクの似顔絵を描いてくれてありがとう!うれしかったぞ」 そう言って、二宮は息を吸うような感じでガハガハッと笑った。 井上は顔を真っ赤にして頭をかいた。「よく似てるって職員室でも言われたよ。この春この学校に転勤してきた者としては、印象に残ることをしてもらって、なんか有名人にでもなった気分だ。特徴もよくつかんでいる。先ずはお礼に参上した」 そう一方的に話をして、二宮は笑顔で教室から次の授業先に向かっていった。 ボーとして立っている井上だった。 前には美智江が席に座ってニコニコしていた。「はじめマンガの売り出し作戦大成功」……満足げな美智江の表情だった。 2006年10月 9日 月曜 記 2007年 1月28日 日曜 記 ■(文中の敬称を略させていただきました)~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第17回 新聞完成つづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第18回にご期待下さい!!
2007年04月26日
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緊急な用事で岡山に来ました。約6時間の新幹線での移動時間では、めずらしく一睡もしないで、いのちの貴さと、自分自身に突き付けられている人生の選択を考えていました。 自分にとって大切な人が苦しみ、闘っている時に、なにも出来ない無力な自分を情けなく思いました。 でも、あらためて自分にとって大切な人だと深く感じました。無事を祈ることが今の自分に出来る最大のことではないか、そう考えました。
2007年04月25日
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仕事に戻ると朗報が届いていました。 その話し合いに夕べから上京しています。
2007年04月22日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第16回 プロデューサー第915回 2007年4月21日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第16回 プロデューサー 井上は一気に四コマの下書きを描いた。そしてペンを入れた。 ペンでは、いつものように粘りやはねたりするようなタッチは避けて、大人のコママンガ風に単純な線に徹した。あっという間に描き上げることができた。 井上の気持ちには充実感はなく、なんとなく器用にこなしたような、そんな気がした。だからいつものように、描き上げた後に原稿を手にとって、何回も見直して満足感に浸るようなことはなかった。 それよりも手塚治虫先生からのハガキをジッと見つめ、何回も読み返した。 お手紙ありがとうございました。 マンガを描くことはいいのですが、やはり学校の勉強が大切です。 それからマンガばかり読んではいけません。 読書や映画を観ることも大切です。 どうぞこれからも頑張ってください。それから上京する時は事前に連絡をください。 楽しみにしています。 手塚治虫 この日はいつもより早く眠ることができた。 朝がきた。 第四中学校に着いた井上は早速新聞委員の美智江に原稿を渡そうとした。美智江は最前列の自分の机にいた。井上は肩掛けカバンをしたまま、恐る恐る声をかけようとした。「はじめくん、四コママンガを描いてきたの?」「……」 井上はまた声をかけるタイミングを逃してしまったことを悔やんだ。「どうして黙ってんのよ!朝からボ~ッとしてどうしたのよ!!」 またこの調子で捲くし立てられる……と井上は美智江の目から視線を下に落した。「描いてきたんでしょ!?早く見せてごらん」 そう言って美智江は右手を井上の方に差し出した。 井上は肩掛けカバンを美智江の机の上にゆっくり下ろして、ビニール袋に丁寧に丸めて入れた四コママンガの原稿を取り出した。 ジッと原稿を見る美智江。目だけが上下左右に動く。 真剣なまなざしだ。 ************************************************************************************ 一コマ目 勉強は一番!!とアングラ君が100点満点のテストを自慢げに持っている 二コマ目 口笛を吹くアングラ君。周囲から「カッコイイ」と声があがる 三コマ目 クラスの人気者でサインをねだられて応えているアングラ君 四コマ目 しかし、これはすべて夢で、現実はキビシイ。ぶかっこうだヨ~ン 0点のテストを持って肩を落して歩くアングラ君************************************************************************************ 見終えると美智江はため息をついてこう言った。「単純なマンガだね、絵もいつもの絵より軽く感じる。どうしたのよ」「……オレのことを描いたんだ……」「そんなことわかるわよ。でも、これは、はじめくん自身の願望でしょ?現実の裏返しでしょ!?」「…………」「私の出したテーマは夢の夢なのよ。これじゃ夢でもなければ、おもしろくもなんともない!逆につまんないじゃないの。はじめくん、まじめに考えて描いたの?」 美智江は強い口調で井上を問い詰めた。「オレはオレの夢を描いたつもりだけど……」「このマンガを読んだ人は、あたり障りのない平凡な物語としか受け止めないわ」 井上には美智江がなにを言いたいのかが理解できない。「はじめくん、題名が『夢の夢』なら、もっと大胆に……そう、大きい夢を描かなければ読んでいる人は感動しないわよ」「カ・ン・ド・ウ!?」 井上はますます頭が混乱するのだった。「そう、感動よ!みんなマンガや映画を観たいのは感動したいからよ。私ははじめくんのマンガを見て感動したの。この感動を他の人にも伝えたいから、私は生徒会新聞にはじめくんのマンガを載せたいと考えたんだからね」 美智江はなんだか必死になってオレに呼び掛けている……と、井上はあらためて美智江の目を見た。 美智江は井上をにらんでいた。井上は目をそらし下を向いた。 周囲の者はふたりのやり取りを知らないように気を遣っていた。しばらく沈黙が続いた。「……はじめくん、これでいいよ!このマンガでいこう」 美智江はポツンと言った。 井上は頭を上げて美智江の顔を見た。美智江は笑顔を作りながら、「ゴメンね!はじめくんに期待しているからついつい欲張りなこと言ってネ」 井上は頭を左右に振った。2007年 2月12日 月曜 記2007年 2月13日 火曜 記2007年 2月15日 木曜 記 ■(文中の敬称を略させていただきました)~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第16回 プロデューサーつづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第17回にご期待下さい!!
2007年04月21日
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昨日の研修で「宿題」がでました。 ホテルの部屋で夜中の二時までかかって宿題をしました。 でも、今日のセミナーで自分の勉強不足を思知るはめになりました。 明日は修正をしていきます。 ああ、五十の手習いだ。 そうそう米沢市議会議員と川西町議会議員の選挙も終盤戦です。 お世話になっている議員のみなさんと友人の当選を祈っています。
2007年04月19日
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先週は私用で埼玉、神奈川に滞在していました。今日からは研修で東京です。そんなわけで「熱い夏の日」を更新しておりません。もうしばらくお待ち下さい。
2007年04月18日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第15回 夢の夢第912回 2007年4月12日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第15回 夢の夢 音楽にいろいろなメロディーがあるように、マンガにもいろいろな描き方があった。 手塚治虫は、大人マンガやコママンガを描くときの絵のタッチ(マンガの描き方)を、単純な線で用いて描いていた。それは当時の横山隆一や小島功などのコママンガの描き方の手法だった。 井上は手塚を見習って、この大人マンガの手法で描くことにした。 ペンはカブラペンとスクールペンを使うことにした。背景やベタ(黒く塗りつぶす)も、できるだけ少なくしようと考えた。 それから登場人物は「アングラくん」に決めていた。 自分の創作したオリジナルキャラクターは数点しかなかったからだ。その中でもインパクトがあったのが「アングラくん」だった。 ザ・フォーククルセーダーズというフォークグループが唄って、大ヒットした「帰ってきたヨッパライ」をモデルに、創造したキャラクターがこの「アングラくん」だった。クラスの仲間からもこの「アングラくん」は評判がよかった。 さて、問題は四コママンガの中身だった。 二階の自分の部屋で何回もアイデアを考えたが、さっぱりアイデアは浮んでこない。 四コママンガの基本は起・承・転・結をヒトコマ、ヒトコマに充てはめていかなければならない。 美智江から与えられたテーマは「夢の夢」であった。 井上は置き机から上半身をゴロンと倒れて、両手を枕にして仰向けになり天井を見つめた。 「夢の夢かぁ……ちゃんとした四コママンガを描けるようになるのも夢の夢だし……アイデアなんて、そうわいてこない……ああ、美智江ちゃんはどうしてオレに難問を突きつけてくるんだろう」 井上はひとり言を言いながら、ため息をついた。そして体を右横にした。その瞬間に柱に括り付けてある「手紙入れ」に目が入った。 手紙入れの隙間から「手塚治虫」と書いたハガキが目に留まった。 井上は体を起して、そのハガキを手に取った。 お手紙ありがとうございました。 マンガを描くことはいいのですが、やはり学校の勉強が大切です。 それからマンガばかり読んではいけません。 読書や映画を観ることも大切です。 どうぞこれからも頑張ってください。それから上京する時は事前に連絡をください。 楽しみにしています。 手塚治虫 これは4月に届いたばかりの、井上に宛てた手塚治虫直々のハガキだった。 「マンガを描くことはいいのですが、やはり学校の勉強が大切です。 それからマンガばかり読んではいけません。 読書や映画を観ることも大切です」 ポツンと声を出して読んだ。 そうだよな、マンガを読んでもアイデアなんてわかないよなあ。 あの原子力空母エンタープライズが佐世保に入港した時は、オレは怒って入港反対のマンガを壁新聞に描いた。だからみんながビックリしたし、学校側は政治問題だと騒いだんだ。 あのマンガには作者のつまりオレの怒りがテーマとしてあった。 マンガには伝えたいテーマや作者の感情がなかったらダメなんだ。 この四コママンガにも、読む人に伝えたいテーマや感情を描いてみよう、 そう、井上は次第に考えるようになっていった。『美智江からは「夢の夢」というテーマをもらったのだから、オレにとっての「夢の夢」はなにかを考えてみよう』 井上にとっての「夢の夢」はたくさんあった。 体が弱く貧弱だった。あまり痩せていたので家族からも豆もやしと言われていた。 そうかオレはカッコウが悪いんだ、だから女の子からはもてない。 病気がちで勉強にはついていけないから、テストの成績が悪い。特に英語は赤点ギリギリで最悪だ。 これを四コマに分けてマンガにすればいいんだ。 井上は早速、四つの枠に下書きを始めた。2007年 2月10日 土曜 記2007年 2月11日 日曜 記2007年 2月12日 月曜 記 ■(文中の敬称を略させていただきました)~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第15回 夢の夢つづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第16回にご期待下さい!!
2007年04月12日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第14回 四コママンガ第911回 2007年4月8日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第14回 四コママンガ「ねえ、はじめくん。はじめくんが描いた先生たちの似顔絵は、新聞委員会でも、とても評判がよかったよ」「………」 井上は上目づかいで美智江を見た。「そこで~…お願いなんだけどぉ……」 やさしい時の美智江は注意もんだ、井上は彼女から指示命令がくることを予感した。 「せっかくだから、四コママンガも載せようということになったのよ。それもはじめくんに描いてもらいたいの」「エッ!四コママンガだって!?」 美智江の言葉を聞いた瞬間、井上は大きな声でそう言った。大きな声に驚いた美智江は、両目を丸くして、「ビックリするじゃない。どうしてそんなに驚くのよ~」 と言いながら、井上の背中を大きく叩いた。 その勢いで井上は前にのけぞり、机に頭をぶつけた。「はじめ~、どうしたっていうのよ!なんとか言いなさいよ!!」 美智江の大きな声に負けてはならないと思った井上は、彼女よりも大きな声で「四コママンガは描けない!」 と、言った。「どうしてなの?いつも自信がなさそうに答えるキミなのに、今日はずいぶん自信がありげに答えたわね」 美智江は井上の断りにはぜんぜん動じなかった。 こんなことではじめくんに負けてたまるか!せっかく新聞委員会で私の提案が通ったというのに、ここではじめくんが描けない、なっていったら私の作戦がおじゃんになってしまう。そしてはじめくんもマンガも、注目を浴びるチャンスを逃してしまうから……。美智江はそう思い、自分を奮い立たせた。 井上は恐る恐る言葉をつないだ。「だって、四コママンガはマンガの基本だぞぉ……」「???だったら描けるでしょ?」「だから描けないんだ!!」「わかんないことを言うわねえ~!頭にきちゃうよ~」 ふたりの押し問答が続く。 井上はまだ四コママンガを満足に描いたことがなかった。とてもむずかしく、どのように描いていいかが正直わからなかった。 「美智江ちゃん、四コママンガはそう簡単なものじゃない。起承転結という物語の基本を、わずか四コマで表現しなければならない……」「………??」「四コママンガをちゃんと描ければ、ストーリーマンガなんて簡単なものなんだよ……」 井上は知ってるだけの知識を精一杯述べて、断り続けた。 しかし、美智江も負けては成らずと反撃を続けた。 今まではじめくんには負けたことがない、彼は私の指示命令には絶対服従なんだ!……。 そんな美智江の気持ちが、井上より優位にさせていた。 「そんな屁理屈はなにかの受け売りでしょ?基本ができていないなら、先ずは挑戦してみたらどうなのよ!?」「………」「明日まで描いてくること。わかったわね!!」 そう言って美智江は自分の席に戻った。 「美智江ちゃん!現実はきびしいんだ!!夢の夢だよ」 井上は前に向かって精一杯の反発をした。 するとクルリと後ろを向いた美智江が、「それをテーマに描いてきてよ」 と言う。ポカンとした井上に向かって、「現実はきびしいから『夢の夢』をテーマに描いてって言ってんのォ~」 井上がポカンとして口を開いた。美智江の強引さに完全に負けてしまった瞬間だった。 「はじめくん、きびしい現実から逃げてはダメだよ!」 美智江は声を低くして姉のように諭して言うと、明後日までマンガを描くように念を押した。 美智江の心はやれやれとホッとした。後は原稿が出来上がってくることを期待するしかない。 校舎の外では数羽の雀がチュン、チュンと鳴いていた。 四コママンガを美智江から依頼された井上は、この日から二日間に渡って苦しんだ。 なにしろマンガを描くことは好きでも、見よう見真似の短編マンガを描いていただけだから、四コママンガなどは描いたことはなかった。 当時の四コママンガは新聞に掲載されていた。「サザエさん」、「フクちゃん」、「まっぴら君」、「アサッテ君」、「夕日くん」など、そのほとんどが大人を対象にしたものが多く、子どもや少年物は、ストーリーマンガが主力だった。 しかし、マンガの描き方に関する書物には必ず「四コママンガはマンガの基本」、「ストーリーマンガの基本は四コママンガ」、「四つのコマをそれぞれに起・承・転・結で結ぶのが基本」と書いてあった。 しかし、新聞に載っている四コママンガは正直おもしろくなかった。井上は関心もなかった。 参考作品はない。どんなものを描いたらいいんだろう。締め切りは明日だ。 集英社「少年ブック」の「赤塚不二夫マンガ教室」に投稿していたので、社会批判ではなく自分の等身大の出来事をマンガにしてみようかと考えた。 美智江から与えられたテーマは「夢の夢」だ。「中学での自分の立場をマンガしてみようか……」 ふとそんなことを考えた。 そうだ、自分のことを描けばいいんだ、そう結論が出ると事は早かった。井上は机に置いたケント紙に向かって下書きを始めた。 2006年12月25日 月曜 記 2007年 1月 2日 火曜 記 2007年 1月 3日 水曜 記 2007年 1月28日 日曜 記 ■(文中の敬称を略させていただきました)~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第14回 四コママンガつづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第15回にご期待下さい!!
2007年04月08日
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~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』●第13回 職員室第910回 2007年4月4日~山形マンガ少年~第三部『熱い夏の日』●第13回 職員室 安藤にはマンガに対して興味はなかった。しかし、井上の描いた教師の似顔絵を見て、ここまで描くなら四コママンガも楽しみだという気持ちはある。だが他の教師たちがどう見るだろうと、それが心配だった。 美智江は精一杯の意見を言った。それでも即座に承認がもらえないことに苛立った。 それから数日後のことだった。 授業が終ると黒澤は職員室に戻った。 黒澤は三年三組の担任の春日英朗に語り掛けた。「春日先生の井上くんは絵を描くのですね」「ハイ、絵もマンガも好きなんです。井上が何か?また問題を起したんですか?」 春日は右脚を左脚の上に組んで貧乏ゆすりをしながら訊いた。「いやいや、国語の課題の絵が教室に貼ってありました。なかなかしっかり描けていました」 と、黒澤が言った。ホッとした春日だった。「そう言ってくれれば……なにしろ原子力空母エンタープライズが佐世保にいた時は、反対の壁新聞を張り出して、寒河江校長からこっぴどくやられましたからね」「気骨もあるじゃないですか。組合活動に熱心な春日先生の教え子らしいですね」「そういえば黒澤先生もマンガのモデルになっていましたね」「そっくりでした」 職員室には笑いが起きた。 すると生徒会新聞委員会顧問の安藤直子が話に入ってきた。「先生たち……実はそのことで相談なんですが」「なんですか?安藤先生」 春日が訊いた。「新聞部にその井上くんのマンガを載せることが中山美智江から提案されているんです。マンガなので中山さんには返事をしていないんです」 安藤は困った顔をして春日たちに相談をした。「中山らしいなあ……問題はマンガの内容じゃないですか。政治的になると校長がうるさいし……」 春日は言った。亀岡博が話を聞いて傍に寄ってきて言った。「私も話の仲間に入れてください。先生たち、今、中学校の子どもたちに一番人気のある番組はなんだか知っていますか?」 春日が「巨人の星」と言った。「そうです。巨人の星です。今までのマンガというイメージを劇画、つまり大衆文学と絵物語とマンガをミックスしたテンポの速いマンガ映画です。山形放送で土曜の夜7時から放送しているでしょう」「すごい人気だ。特に野球部を始め体育部の生徒は一生懸命に見ようとしている」 と春日が言った。「マンガの社会におけるポジションは着実に変わってきました」 と、亀岡が言う。「やっぱり彼はマンガ家ですかね……」 と、黒澤が言った。「新聞にマンガを描かせてみます!」 と、安藤は決心して言った。 2006年 9月16日 土曜 記 2006年 9月17日 日曜 記 2006年 9月23日 土曜 記 2006年 9月29日 金曜 記 2006年 9月30日 土曜 記 2007年 1月27日 土曜 記 2007年 1月28日 日曜 記 2007年 1月30日 火曜 記 ■(文中の敬称を略させていただきました)~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第13回 職員室つづく 「熱い夏の日~山形マンガ少年~」第14回にご期待下さい!!
2007年04月04日
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