祈り


回帰幻想-海へ-

    人は無機質な有機体
    冷めてゆく水
    砕ける硝子の煌めき

    蒼の侵食
    水底に沈む記憶(ユメ)

    世界は混沌の円
    原点の消失
    重力から解放された原始の砂が零れる

    ―――さよなら。




無限幻想-空へ-

    人の記憶は透明な化石
    ソラに浮かぶ虚構の楽園
    漂う記憶は過去との邂逅を望んで
    喪われたものは何もない

    遠く幾千の年月に消えた“もの”
    遥かな空と 己の中の限界点

    解放を求める鳥たちの群れは発つ
    無限の宇宙の外側を知る為に




夢遊幻想-大地へ-

    果てない大地
    眠りをゆく人の群れは
    覚めない夢の中に

    終末の終焉
    幼年期の終わり
    終末の神話

    最終章
    全ての、ハジマリ。




忘却の宇宙(ソラ)

    いつか行きたかった場所
    いつかそこに還ると信じていた
    紛した古代星座の地図
    悠久の軌跡は同心円を巡る

    ソラには明星
    霧のような雨と共に降り積もる微細な砂は
    火星のものだろうか
    記憶の中に焼き付いた上弦の月は
    星のない闇夜に浮かんで

    満月の夜
    花弁が舞う
    視界を遮り世界を満たす
    しろいはなびら

    白い闇は、覚めない夢に似ていた。




蒼い神話の崩壊

    昏い空に浮かぶのは希望のカケラ
    無限航路が呼ぶ
    日輪を抱く蛇は遥かへのシンボル
    旅立ちの暗示
    ソラへの賛歌

    モノクロームの空
    砂に埋もれた神殿 風化する神話
    創造主はもういない

    追憶と憧憬と慨視感
    あの日なくした全てのものへ
    この先失う全てのものへ



砂時計

    赤い鳥が飛ぶ夢を見た
    厳封された「時間」が花咲くとき
    金冠を戴く世紀は終わる

    昏い鏡
    軟らかい氷
    ダイスの7の目
    マグリッド「光の帝国」
    乱反射する想い

    針のない時計が
    有限の時を刻み続ける
    モノクロームの世界に
    極彩色の蝶が舞う

    扉のない部屋の中で
    扉の向こうを夢見るのは愚かなこと。




祈り

    海
    春の夜
    雨の前に吹く風
    むせる程の花の香
    木々のざわめき
    月蝕

    胸を満たす感情は
    追懐と寂寥と―――
    あるべきものの欠如

    いつかあの場所に帰れたなら。




光の帝国

    蒼く割れた鏡に映る優しさは
    水面に揺れる光を反射する
    透き通る夢の輪郭に似て

    鋼鉄の大地に咲く夢は
    蒼薔薇の棘の鋭さと
    真昼の流星に似て

    砂の流れは速く
    時は止まらず
    薔薇は散る
    さよなら




雪の結晶

    寒い夜に見た仄かな淋しい幻は
    疲れ果てた旅人の胸に満ちる
    いつか幼い日に聞かされた
    救世主の訪れを待ち続け
    雪の白さに想いを馳る
    背中に眠る白い羽根
    じぶんのものだと
    気付かないまま
    飛ばない鳥は
    飛べないよ
    君の隣に
    自由は
    眠る




夢の果て

    探していた
    記憶はまだ曖昧だけれど
    それだけは覚えている

    まだ見つからない
    ゆらゆらと不明瞭な意識に
    諦め切れないという思いだけが
    鮮明に残っている

    何を探していたのか
    何を諦められないのか
    判らないけれど

    胸の奥で溢れる思いは
    指の間から零れ落ちる水に同じ




石の世紀

    常に沈黙するもの
    人知れず変わり続けるもの

    石の世紀
    ―――砂と水銀

    錆びた金属
    黒曜石に透ける光
    ガラス越しの雨
    傍らに残る体温・・・

    水面に映る虹は語る
    “人は皆遠いソラから来た”
    水面を伝う波紋は
    忘れ去られた古いメロディ
    虹と同じく消え失せる




25時のフレーム

    はなびら舞う夜
    踊る女は独り
    ―――沈黙
    無音の闇夜を切り裂く
    ―――円弧
    黒のスクリーンにヴェールの軌跡

    花冷えの夜
    止まらない涙は何を語るの

    散る花 ひらひら
    ひらひら 積もる





    ■祈りとは、如何なる時に如何に
    して生まれ、必要とされるのか…
    失われたものに、夢に、神に、届
    かぬものに…数多の人々が数多
    の想いを祈りに込めた。■私は祈
    りを認めなかった。祈りは弱者の
    行いに過ぎないと思っていたから。
    朔太郎が謳ったような熱い祈りを
    知らないから。祈りを必要とする
    ような弱さを認めなかったから。
    ■あれはいつだったか。どこから
    来たのか闇夜に一片、白いはな
    びら…。祈りたいと思った。それ
    が何故かは今でも判らない。
                 2002.R/H



© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: