
静けさが夜の闇に人影をなくす頃
女は眠りについた。
女は、お気に入りのベッドで、本を読み眠った。
夢の中でいつも出会う男の人がいた。
その人は、銀杏並木のベンチに腰掛け、なにやら赤い表紙の本を読んでいた。
扇の葉が黄金色に染まり、ぱらぱらと葉が落ちていた。
夢の中では秋だった。
女は、その道を毎日通っていた。
銀杏の木の葉が散るさまを見たくて、それが地面を黄金に染めるのを見たくて
そこに来ていた。
一日目、女は赤い表紙の本を持ったその人を少し気にしながら通りすぎた。
二日目、女は少しだけ立ち止まり、ベンチのその人を見た。
するとその人も視線を感じたのか、顔を上げ、女を見た。
三日目、女は今日もあの人はいるかしら? とわくわくしながら、
黄金のその道を歩いた。その日、彼はいなかった。
4日目、その日風が強かった。地面で銀杏の枯れ葉が渦を巻いていた。
もういないのかもしれない、いなければしょうがないわ、そう思って歩いた。
彼はいた。赤い本をベンチの横に置いて、女を見ていた。
女は、首を少し下げ挨拶をした。彼も少しだけ頷いた。
女は歩き出した。真っ直ぐに。少し緊張した足取りで。
彼の視線は女の背中にあった。
5日目、女は確信を持って銀杏並木を歩いた。彼は今日は絶対いると。
彼はいた。ベンチに座って、いつものように赤い表紙の本を読んでいた。
女は思い切って、彼に近づいた。
「本がお好きなのですね。何の本を?」
彼は赤い表紙の本を開いて、女に見せた。
そこには何も活字がなかった。
女はビックリした。一瞬目をぱちくりした。
彼は女に言った。
「ボクは本を読んでいたのではありません。あなたを待っていたのです」
女は胸がドキンとした。
「えっ、まさか、本当?」
「これはあなたとの物語を書くための本なんです」
ベンチから立ち上がった彼と女は見つめあった。
そして手を繋いだ。二人は銀杏並木を歩きだした。
女はドキドキしていた。
現実なの? それとも夢?
夢なら冷めないで、と神様にお願いした。
銀杏並木は行き止まりを反対側へくるりと回った。
二人の肩に黄金の光が差すように葉は舞い落ちた。
そして、女と彼は導かれ口づけを交わした。
・・・そんな夢を見た。
恋の醍醐味はそこまでかしら?
朝の光で目が覚めた女はつぶやいた。
了
絵 ウラジミール・クッシュ
この作品は、即興小説を始めたばかりの頃、1997年5月9日の作品です。
懐かしの作品でした。
************
* ニューヨークにお住まいのブログで交流している
「虹色のパレット」のカズ姫さんは、福島原発を大変心配されています。
勿論、日本に住んでいる皆さんもそれは同じなのですが、
ジャーナリストの広瀬隆さんの、今の現実が如何なるものかを
報告しているUSTREAM映像を土壇場サヨコさんがブログに
載せているのを紹介しています。
知っていた方が良い報告です。こちら。
http://plaza.rakuten.co.jp/nijiiro1/diary/201201110000/
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