レムリアからの転生旅行者

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神坂俊一郎

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Oct 24, 2024
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テーマ: 超能力(45)
カテゴリ: カテゴリ未分類



「俊一郎さん、私とは多生の縁と言いましたし、前世記憶がはっきりしない私でも、確かにそれはある気はするんだけど、具体的には前世記憶と今のあなたの人格との関係はどうだったの。」
実は俊一郎の前世記憶、多すぎることもあって、結構混乱しているのです。
「そうだったな。僕の場合、前世記憶が多すぎて、それにつながる人格もあるから、現世でも、何段階かを経て、ようやく今の自分の人格にたどりついたっていうのが実態だ。」
今の人格というからには、現世でも、それ以前の前世の人格が発現していたことになります。
「へ、現世で生まれてからも、今の自分の人格じゃないときがあったの。」
「ああ、小さい頃は、いろんな人格が出てきて滅茶苦茶だった。」
そんな状態って、想像できません。
「どう、滅茶苦茶だったの。」

それでは、まるで狂人です。
「そんなんで、まともな生活送れたの。」
「いや。送れるわけないだろ。」
「じゃ、どうしてたの。」
素朴な疑問です。
「幸い、10歳未満のできごとだから、子供だから、で済んだ面はあったっと思う。ただ、困ったことに、それぞれの人格が子供らしくない一種の天才だったから、少しややこしいことになった。」
「どうややこしいことになったの。」
「まず、3歳でバイオリン習わせたら、最初から上手に轢けてしまったんだな。」
「天才少年じゃないの。」
そうとしか言いようがありません。
「うん。確かに天才少年だったんだと思うけど、それは、前世人格のお蔭だ。しかし、名バイオリニストだったのではないかと思われる前世人格にとっては、「こんな簡単な曲なんか、弾いてられるか。」と馬鹿にするわけだ。当時憶えているところでは、ユーモレスクという名曲があるのだが、あれ、簡単に弾けてしまったんだ。だからか、母は、教師に好きな曲を弾いてくださいと言われた時、私がユーモレスクを弾くと思ったのだろうが、前世人格は、その曲余り好きじゃないからって、別の曲を弾いたんだ。」

「お母様、怒ったのね。」
「そう。これ、今の自分の人格じゃないから、記憶がはっきりしないが、その人格にとっては、ユーモレスクよりもただの練習曲の方が面白かったのだろう。で、その晩も、殴る蹴るの虐待に遭った。」
「可哀想な俊一郎さん、」
彼のせいじゃないのに、と美奈子は思いましたが、それが、彼の日常だったのです。
「更に困ったことに、天才って、努力しないでも何でもできる分、好き勝手にふるまうんだ。いくらうまくても、やる気ゼロで、全然練習しないから、それが原因で、毎晩母に虐待される日々だった。」

「あのお母様なら、そうだったでしょうね。」
「だから、たった3か月で、鈴木バイオリン教室の創始者の鈴木先生の前で演奏したり、海外の有名なバイオリニストの前で演奏したこともあったのだが、最後は、母が根負けして、1年で辞めさせた。」
「もったいない。」
それしか、言いようがありません。
「他人事のような話だが、僕も凄くもったいなかったと思う。今の記憶にはほとんど反映されていないから、当時の写真見て、へー、こんなことあったんだって感じなのだが、想像するに、バイオリンの魔術師と言われた、ニコロ・パガニーニみたいな、妙な技巧を持った演奏だったらしい。」
「って、どんな演奏だったの。」
「パガニーニって、リストが編曲したピアノ曲の方がポピュラーになっちゃってるけど、数々の名曲を残している作曲家でもあり、バイオリンでは魔術師と言われた超絶技巧の持ち主だった。それで、彼の弦の把握方法は、ギターみたいだったとの言い伝えがある。そして、当時の僕も、そんな方法で弾いていたらしく、普通のバイオリニストと違って、弦を抑える左手の指を、単音ではなく、コードに合わせてパッパッと握り替えるだけで、指はほとんど震わせなかった。おぼろげな記憶だが、他のバイオリニストは、指を振るわせて把握するのに、僕が全く震わせないから、母があんな弾き方をしていいのか、と教師に食ってかかった。しかし教師は、僕がそれでも轢けてしまうものだから、困って、「とても3歳児とは信じられないほど、大変上手に弾けています。ですから、俊一郎君は、これでいいんだと思います。」と言い返した。それがカチンときたのか、その夜また、母にボコボコにされた。」
「可哀想に。」
それしか言う言葉が見つかりません。
「ただ、パガニーニの演奏って、確かにうまいが、超絶技巧だけで、聴衆を感動させるような演奏ではなかったと言われているし、僕の演奏もそんなもので、幼児とは思えないうまさだが、それだけだったらしい。」
夫の昔の話、聞けば聞くほど、才能はもったいないと思いつつも、本人が可哀想になります。
「どうして、お母様が根負けして、天才バイオリニストを辞めさせたの。」
「ああ、僕というか、天才バイオリニストの前世人格が、全く言うこと聞かなかったからだろう。しかも、僕というよりも正確には僕の中に居た天才バイオリニストの人格、この程度の曲で練習するのはばかばかしいと思っていたようで、母の言うことはでんでん無視だった。自分の言うこと聞かないけど、天才的にうまいんだから、母は虐待したが、それでも平気な顔で好き勝手に弾くから、最後は、彼女の自尊心の方が崩壊したんだと思うな。」
それにしても、虐待されても、好き勝手に弾くのも凄いと思います。
「虐待されても、高子お母様の言うことを聞かなかったってわけなの。」
「そうらしい。天才バイオリニストの前世人格の方が、上手だったということだろう。大体、虐待されるのは僕で、天才バイオリニストの方は、知らんぷりしてれば痛くもかゆくも無かったんだよ。母は、母なりにいろいろな名手の演奏を研究して、僕にあてはめようとしたが、バイオリン名人の人格は、「形なんか関係ねえ、弾けりゃええんや。」と平然と無視した。」
自尊心の塊のような高子ばあさんでしたから、自分が負けたと絶対認めたくなくて逃げたのだろうと美奈子は考えました。
「なるほどね。高子お母様のことだから、絶対、息子に負けたような状態にはなりたくなかったのね。」
異常に見えを張るところもあった母高子でしたから、美奈子の言うとおりだろうと思いました。
「そんなもんだろう。」
「ところで、元天才少年、今は、バイオリン全く弾けないのよね。」
美奈子、夫がバイオリンを弾くのは見たことがありませんでした。
「だから、その前世人格だったからできたことで、バイオリン弾かなくなったからか、その人格は消えてしまって、今の人格にはその技術が全く反映されていないから、弾けない。ただ、弦の把握法は、ギターに近かったようで、今でもギターの方なら少し弾ける。」
家には、夫が大学の時に買ったというフォークギターがあるし、子供が生まれる前には少し弾いていたのを見た記憶はありました。
しかし、彼がギターの練習をしたのは見たことが無く、ピックではなく指先だけでしたが、クラシックギターのように、そこそこ弾けていました。
「ギターも、この40年間ほとんど弾いていないのでは。」
「そうだな。でも、ギターの方が弾ける気はする。大学の時には、前世人格は皆ほとんど消えていたから、自分なりに練習して弾いたからだろう。」
なるほど、そちらは、本人の独力だったから、残ったということだ。
それなら、他の前世人格はどうだったのだろう。
「他の人格は、どうだったの。」
「バイオリン辞めても、絶対音感は生まれつきだからか、そのままで、安易にピアノに転向したんだけど、今度はピアノの天才の人格が出てきて、バイオリンほどではないものの、そこそこ弾いてくれた。そして、この人格の方が温和で、音楽を、と言うよりも、音を楽しんで弾いていた。そのせいか、面白いことに、僕が、いや、そのピアニストの人格というべきなのかな、ピアノを弾いていたら、時々小鳥が寄って来て聞き入っていた。」
それも、凄いお話です。
「凄い。鳥を魅了したんだ。」
「そう。後に父の知人にあげたら、一家が交通事故死して放置されて餓死するという可哀想なことになってしまった文鳥のピイは、演奏に聞き入って、そのまま我が家に居ついた鳥だった。」
それでも、高子ばあさんの虐待は止まなかったのです。
「それでも、虐待は続いたのね。」
「そうだな。バイオリンの時は、自分なりに研究して、特に名手ヤッシャ・ハイフェッツのレコード聞いて、僕の演奏と比較して意見しようとしたほどの情熱を持っていたのだが、それが通らなかったからか、そんな情熱は醒めたようで、練習しない、さぼる、だけで、いくら上手く轢いても、問答無用にボコボコにされるようになったな。」
ひどい、としか言いようがありません。
「ピアノも、天才的に弾けたのでしょう。」
「うん。そちらの人格は、演奏はバイオリンほど上手ではなかったが、それでも音大の教授から、十万人に一人の音感を持った天才とほめられた。」
「それなのに、まだボコボコにされてたの。」
可哀想過ぎです。
「うん。ただ、この頃になると、母は、二重人格みたいになっていたな。」
「って言うと。」
「問答無用で殴る蹴るの暴行するくせに、その後必ず、別人のように、優しく、僕を抱きしめたんだ。それで僕は、ああ、この人にはジキルとハイドがいるんだ、と納得して諦めた。」
それでも、虐待は止まず、結局は、息子の折角の才能を活かそうとしなかったのですから、ひどい母親です。
「ひどいとしか言いようがないお母様だけど、それでも虐待を止めなかったの。」
「うん。でも、今思うに、当時は、学歴詐称がばれて一流商社をクビになったのに、嘘しかつかない父との関係が無茶苦茶になりつつあったから、僕は、母のストレス発散のサンドバッグみたいなものだったんだと思う。」
自分の子供をストレス発散の道具にするなんて、人間じゃない、鬼です。
「余計ひどいじゃないの。」
「そうだな。偶然なんだろうが、僕に対する虐待は、今の人格が主体になるまで続いたよ。」
つまり、前世人格が出ている間は、虐待を続けたことになりますから、呆れるしかありません。
「でも、あなた、今でもピアノは弾けるようだけど、全然天才じゃなくなってるわね。」
俊一郎、今でもピアノは弾けるようですし、子供たちにはちゃんと教えることもできていましたが、弾けるというだけで、特にうまいと言えるほどのレベルではなくなっていました。
「ああ、ピアノの天才の人格は、皮肉なことに、母から虐待されなくなったら消えたみたいだったな。それから、ピアノって、指の鍛錬していないと、弾けなくなるよ。」
美奈子は、ピアノを全く弾けませんから、それは知りませんでした。
「そうなんだ。確かに、あなたは今では1年に何回かしか弾いていないけど、ほとんど指を動かす練習だけで、名曲はほとんど聞いてないわ。結婚前は結構弾いてくれたのに、結婚してからは、ほとんど弾いてくれなくなった。」
その通りで、子供たちに教えていた時にはまだ弾いていましたが、子供たちが巣立って行った今や、3か月に1回レベルで、名曲は全く弾かなくなっていました。
「あはは、確かに名曲は弾いていないな。思い起こせば、京丹波で、ジュ・トゥ・ブを弾いた時は良かったな。」
美奈子、思い出すと、恥ずかしくて、顔を真っ赤にしました。
「弾いて聞かせてくれて、聞いたことがある曲だったから、曲名を聞いたのよね。」
「そう。ジュ・トゥ・ブと答えたら、何て意味って聞き返したよね。」
「そう。それで…。」
お前が欲しいって意味と聞いたもので、美奈子、一瞬で発情して、彼をグランドピアノの下に押し倒して自分からセックスを求めたのでした。
「あんな情熱的なセックスは、あの時だけだったかな。」
「もう。余計なこと思い出して。」
でも、俊一郎の言うとおり、結婚直前の頃で、京丹波の家で二人っきりになりましたから、新婚旅行に行ったような状態だったのです。
「まあ、その後いろいろあったけど、今こうして居られるから、僕は、幸せだ。」
「私もよ。」
美奈子も幸せだと思っていましたが、話題を戻すことにしました。
高子ばあさんの虐待に遭いつつも、いろいろな方面で天才だった夫ですから、彼の前世は天才だらけだったのでしょう。
「他の前世人格は、どうだったの。」
「小学校の低学年の時には、超越的な演算能力があった。」
今でも、67歳の年の割には暗算能力は高そうですが、大したものではありません。
「それも、今は無さそうね。」
「そう。これも、面白い。」
「どう。」
「当時の僕の演算には、プロセスが存在しなかった。」
「っちゅうと。」
「テストの問題見ただけで、答えをさらさらと書いて行った。途中の段階が存在しないし、自分で考えたと言う感覚もなかった。」
これも、天才です。
「天才だけど、それが、何故、だめになったの。」
「一つは、日本的教育の弊害だな。」
「どういうこと。」
「正答を即座に出せる能力よりも、そこに至るプロセスが大事だなんて教育になってしまったからだ。」
言われてみると、バイオリンと同じで、弾ければいい、正しい答えを出せればいいのです。
「それで、できなくなった理由は。」
「小学校3年までの先生は、天才だで済んだし、一瞬で正解を導き出す才能を高く評価してくれたのだが、4年生になる時に先生が変わると、その先生が疑ったんだな。こんなに簡単に答えが出るはずがないとね。確かに、回答を見て書いているぐらいの感覚だった。当時は、3桁の加減乗除は、即答だったからな。」
先生の気持ちもわからないではありませんが、それができるのなら、天才と認めてやればいいだけです。
「天才認定して、真似できませんって放って置けば良かっただけなのに。」
「そう思うよ、途中は無いのかというから、正直に「ない。」と答えたら、「途中の方が大事なんだ。」と叱られた。すると、その人格が、天才でもない教師に自分の能力を疑われたと、へそまげて居なくなったから、できなくなった。とはいっても、普通の優等生に戻っただけだったが。」
「もったいない。でも、もっとあったの。」
「いろいろあったような気もするが、10歳の時に祖父が亡くなったのが一つの契機になって、現在の自分の人格が主体になったら、前世人格のやりたい放題はなくなった。」
どうなったのか、イメージが湧きませんから、聞いてみました。
「どこがどう変わったのよ。」
「そうだなあ、天才ながら社会不適合の問題児から、品行方正学業優秀の模範生に変わったって感じだったかな。」
美奈子は理解しました。なるほど、それで、高子ばあさんが文句をつけられなくなって、虐待がなくなった面もあったであろうことを。
「なるほど、それで、お母様の虐待が、ようやくなくなったのね。」
「そうだね。」
でも、夫は、今でも物理法則を無視するようなことさえ簡単にやってしまいますから、前世人格がなくなっても、何でもできそうです。
「あなた、それでも十分桁違いの天才だったんじゃない。」
「ああ、ある面スケールは違っていたと思うが、サヴァンのせいか、全然自分のやる気がなかったから、実力を見せることはなかった。」
小学校の頃は、スポーツ全くダメだったと聞きましたから、確かめてみました。
「67歳の今でもスポーツ万能のあなたは、何時出現したの。」
「僕の能力の中で、本当は凄かったのだろうけど、全く生かさなかったのが、運動能力だな。」
美奈子が知っているのは、就職してから後のことですが、西都大学卒なら、ひ弱で、眼鏡かけてて、スポーツはできないに違いないという大方の予想を全く裏切って、目もいいし、走らせても速いし、学歴だけでなく、スポーツ万能でも話題になったのです。
「そうね。スポーツの方は、まさかあれほどできるとは思われてはいなかったみたいだったけど、一応サッカー部だったから、スポーツもできたのよね、凄い新人が来たって話題にはなっていたわ。そう言えば、あなた、家柄もいいんでしょ。」
「ああ、父方は、武家の薩摩の島津本家と土佐の山内家の傍系、母方は、公家の藤原家直系だから、確かに由緒正しい血統だ。」
「そうよ。その家柄でも、あなたはいい所のボンボンだから、田舎の高卒のあなたには縁のない人よ、とぼろくそに言われたのよ。」
ところが、俊一郎は、美奈子を一目で見抜いたのです。
「僕は、入社式の後のあいさつ回りで美奈子を一目見て、ああ、将来の妻めっけと喜んだ。4月1日の日記にも書いてある。」
美奈子、結婚した半年後だったか、夫の日記を盗み読みしたら、本当に書いてありましたから、信じるしかありません。
「そうだったのね。私は、あなたが入社してくると聞かされた時に、他の女性陣からは、「ど田舎の高卒のあんたには縁のないエリートよ。」と馬鹿にされていたから、私には縁のない人だと思っていたわ。だから、まさかあなたが夫になるなんて、全然予想もできなかった。」
美奈子、話題の高学歴ぼんぼんの俊一郎が、自分の夫になるとは、想像することさえできませんでしたが、彼が、自分を注目していることは感じていました。
「でも、シンクロニシティーの連続。面白かっただろ。」
美奈子、それは妙に印象に残ったのです。
「将来の妻めっけだったからね。」
「そんなもん、私にゃ全然わからないから、えっ、何故こんなに出会うのかしらって思っただけだったわ。」
「でも、面白いように続いたもんね。」
言われてみるとその通りで、俊一郎が入社してきて以来、美奈子に注目していることを感じだだけでなく、信じられないぐらいいろいろなシチュエーションで、彼に出会ったのです。
「そうなのよね。ほんと、縁は感じたわ。あいさつ回りの時にも、私の顔をじっと見て、にこっと微笑んでくれたでしょう。」
まだ付き合っても居ないどころか、ほとんど会話すらしたことがない時に、お互いが、普通ならまず乗ることのない丸ノ内線の車内でばったり出会った時なんか、えっ、何故あなたがここに居るのって思ったもん。」
「あはは、確かにそうだ。僕も、普通なら絶対乗らない路線だったもんな。」
美奈子は、他社へのお使いの帰りで、俊一郎は、初めて行った得意先訪問の帰りだったのです。
「縁というより、運命感じたわよ。」
「そうだね。それから、僕がたまたま窓開けて外見たら、ビルの下から美奈子が見上げていて、目が合った時とかね。」
「そう。あれも不思議だったけど、一度や二度じゃなかったから、本当に不思議だったわ。」
二人は、不思議なぐらい出会い、特に目が合ったのです。
俊一郎に至っては、美奈子が彼を見かけたら、絶対といっていいほど、振り向いて微笑んでくれたのです。
「そうだったな。不思議なぐらい目が合った。」
「それだけじゃないわ。あなた、私が見かけたら、後ろに目があるんじゃないかと思うほど振り向いて私を見たのよ。」
「うん。熱視線を感じた。」
茶化されて思わず笑ってしまった美奈子でしたが、他の男性たちと違って、下心のない、優しい視線だったのです。
「もう。でも、あなたの視線って、全くいやらしさが無いものだった。」
「だって、将来妻になる女性だって確信があったから、スケベ心で接する必要性を感じなかった。」
「そうじゃないでしょ。あなたは、誰にも下心を持ったことがなかったでしょう。」
「そうだな。」
普通の男性は、とりたてて美女ではありませんでしたが、健康的で明るい美奈子に、もれなく下心のこもった視線を送ったのです。
「それだけに、あなたとの巡り合いの縁、確かに信じたわ。一度や二度じゃなかったもん。しかも、この広い東京で、あなたとだけ出会うんだもの。だから、私も参加した渋谷での同期との飲み会の後。東京挟んで反対方向になるのに、4時間近く遠回りして、金町のマンションまで送って来てくれた夜、これこそ絶好の機会、いや、最初で最後の賭けだと、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、ラブレター書いたのよ。」
美奈子、10月でしたから、俊一郎の入社後既に6か月たっていましたが、その飲み会の席で、初めて彼と個人的にいろいろ会話して、山形のど田舎の農家の娘で家柄もなにもないことも、高卒であることも、全く差別せず、よく気が付いて仕事も下手な男性社員よりもできると、自分のことを認めてくれたし、もしかしたら脈があるかもと思って、本当に思い切って、ラブレターを書いたのです。
「うん。実は、美奈子からラブレターをもらえることを予知していたから、僕は、とても嬉しかったんだ。」
それだけの縁がなければ、社内の女性たちに言われたように、俊一郎と私は、住む世界の違う人間であり、結ばれるはずがないと、あっさり諦めたはずでした。
「私の逆ナン、受けてくれるのに、何時間考えたの。」
当時、聞くに聞けませんでしたが、ラブレターを渡した翌日、ちゃんとOKの返事の手紙をくれたのでした。
「5分、いや、3分かな。」
彼のことだから、即断即決だったことは想像していましたが、3分とは想定外でした。
「もう。カップラーメンみたいに簡単に決断したのね。私は、何時間も迷って、徹夜に近い状態で書いたラブレターだったのに。」
「その美奈子の気持ちが伝わったから、快くOKできたと考えてくれ。」
そう言ってもらえると、嬉しい美奈子でしたが、脱線したことに気付いたので、話を戻すことにしました。
「そうそう、元はと言えば、前世記憶と人格の話だった。」
「ああ、話したように、それぞれが天才ではあったが、今の自分にはほとんど反映されていない。だから、漫画みたいに、前世記憶があるからそのまま現世の能力につながるなんて都合のいいもんじゃない。」
それでも、前世記憶がないよりは、絶対有利だと美奈子は思っていました。
「それでも、得するでしょ。」
「得したとまでは思えなかったけど、損はしなかったな。何よりも、周囲が僕を見る眼が違ったから。」
それって、得なのでは。
「絶対、得でしょうが。」
「だから、漫画みたいに、現世の人格に能力が反映されていたら得だが、そうでもないから、それほどではない。しかし、周囲が天才と見るから、自然にそんな待遇をされ、結果的には、能力向上には役立っただろう。その程度だ。」
夫はそう言いますが、私は、それこそ人生を送る上で、大変有利になる才能だと思いました。
「あなたは、天才。何でもできるから、余り感じないだけよ。注目されるってだけでも、大きく違うものなのよ。」
「へー、そんなもんなのか。」
「そうなのよ。それが、持てる者の強みね。もっとも、天才のあなたには、能力のない人の悲しみ、ひがみ、妬み、嫉みは、理解できないでしょう。」
「うん。今の自分ができないことなら、できるように考え、いや、できる人の考えを真似て、できるように努力すればよいだけだ。悲しみも、ひがみも、妬みも、嫉みも、理解不能だ。」
それこそが、俊一郎が天才である秘訣なのです。
「あなたは、前世人格がなくても、その考えができる。それだけで、十分天才なのよ。誰でもできると思ったら、大間違いよ。」
俊一郎、そのことは理解していました。
「そうだな。誰でもできることではないことは、理解していた。しかし、逆に言えば、そういったネガティブな感情こそが、できない人の共通点でもあるな。」
「まあ、言われてみれば、そのとおりね。だから、ネガティブな面の少ない私を選んでくれたのでしょう。」
俊一郎が、ど田舎の高卒の私を選んでくれたのは、私にはネガティブな感情が少ないからであることを、美奈子は理解していました。
すると、彼は舌を出しました。
「それも、結果論だな。ネガティブな感情が少ないから、美奈子とうまく行ったと言う方が真実で、美奈子を選んだこと自体は、今の暮らしを幻視したことによるものだ。」
これは、以前から何度も聞かされていました。
普通の男性なら、いや、普通の人間なら、そんな感情の問題よりも、容姿や能力だけでなく、家柄、財産までも含めて、それを恋愛感情に反映させて、結婚相手とすることを決断するものなのですが、彼の場合は、極端に言えば、未来を幻視したから、結婚相手は私だ、という感じで、そこには、全く迷いがなかっただけでなく、恋愛感情も、損得勘定もなかったのです。
「あのねえ、私は、あなたのことを理解できるから、夫婦として44年間上手くやって来れたけど、普通の女性は、自分に恋し、愛してくれると思える相手で、かついろいろな条件も自分に有利だと思えるからこそ、結婚相手に選ぶものなのよ。」
この辺は、サヴァンの俊一郎には理解不能なのです。
「恋ってなあに。愛ってなあに。」
茶化すような言い方をするので、思わず笑ってしまった美奈子でしたが、サヴァンの感情欠陥には、毎度呆れるのです。
ただ、俊一郎の場合、単なる損得勘定ではなく、サヴァン症候群の物凄い演算能力の結果として、今の私との関係こそ最善の選択の結果であると結論づけて実現させることができたから、今の平穏な幸せがあるということは、否定できません。
「そうね。あなたに、愛や恋を説いても無駄だわ。」
「そう。無駄じゃ無駄じゃ。」
ムーミンだったかで、「無駄じゃ、無駄じゃ。」を連呼する哲学者が居たことを思い出した美奈子、笑い出しました。
「あはは、ムーミンに居たわ。」
「そう。アニメではジャコウネズミさんになってたけど、本当はマスクラットさんと言うべきなんだって。」
ジャコウネズミさんだとばかり思いこんでいた美奈子には、新たな知識でした。
「え、そうだったの。でも、何であなたがそんなこと知ってるの。」
「いや、ジャコウネズミって、鼻がとがっていて細いネズミなんだけど、ムーミンのあのキャラ、全然違うから変だなと思っていたんだ。すると、その後ムーミンのキャラクター紹介で、マスクラットが正しいとされていたから、なるほどと思った。」
俊一郎、疑問はすぐ調べるところがあり、それが、こんな知識にもつながるのです。
そう考えれば、これも天才である秘訣の一つとも言えるでしょう。
「あなたは、やっぱり天才よ。」
「そうか。ずっと言われ続けると、ありがたみも薄れるが。結局、言いたかったことは、前世記憶って、無いよりは面白いが、決して役に立つものではないということだ。」
美奈子、夫の言葉に笑い出しました。
「あなたが言っても、説得力無いわ。」
「前世記憶って、漫画のように役立つもんじゃない。それが、僕の実感だ。」
美奈子自身、時々、ああ、前世でこんなことがあったなと思うことはありましたが、夫の言うように、役立ったためしはありませんでした。
「うん。それはよくわかるわ。」
「役立つとすれば、現世人格が確立してから、前世記憶の経験を活用できれば、という条件付きだ。」
では、大学以降のことなら、それが当てはまるのでしょう。
「俊一郎さんの場合、むしろスポーツの才能はそちらになるでしょう。」
「そうだな。自分で考えるようになってからだから。」
結婚してから、夫が実はサッカーの名選手で、俊足かつフィールド全体を見ることができる視界を持っているらしいことを始めて知った美奈子でした。
「私が知っている限りは、サッカーがうまいってことね。」
「ああ、あれね、今だから言えるけど、むちゃくちゃ手抜きしてたんだよ。」
それでも、会社のサッカー同好会では、初代のMVPでした。
「じゃあ、真面目にやっていたら、どうなったのかしら。」
「サッカーはチームプレイだから、一人だけ突出しても、ゲームにならない。強いて言えば、僕が一人でボール持って相手チーム全員を抜いて行けばよかったのかもしれないが、そこまでする意味はないと思ったから、しなかった。」
「そう言えば、俊一郎さんって、運動自体全然しなかったと高子お母様は言ってたけど、それって、本当なの。」
俊一郎、中学生までは、全く運動をしませんでしたから、周囲も、この子は勉強では天才だが、運動は全くできないと思い込んでいたのです。
「本当だ。中学校まで、ほとんど運動しなかった。」
「それなのに、高校の時には100メートル12秒台で走るなんてことがあり得るの。しかも、高校でも体育でサッカーをしただけで、運動部にも入っていなかったんでしょう。何かきっかけがあったの。」
美奈子は、とても信じられませんでした。
「ああ、特に運動をしたことはなかったな。元はと言えば、小学校6年の体育で、ポートボールって競技だったと思うんだけど、プレー中に、ふとひらめいたんだな。」
「何を。」
「コート全体を視野に入れると、今誰にパスすれば点を取れるか、鳥瞰することができたんだ。そして、僕が思った通りに前線にロングパスを通したら、受けた選手が点を取ってくれた。それで、ああ、体育のゲームも面白いものなのだなと気付くことができて、それから、運動にも興味が出て、その気になったら、走っても突然速くなった。」
美奈子は、それは彼の超能力だと思っていました。
「あなたって、気の持ちようで全く変わるじゃない。それも、一種の超能力よ。」
「あはは、そうだ。「葬送のフリーレン」に出てくる性格の悪い女魔術師ユーベルの「大体何でも切れる魔法」を見て、ああ、これは僕だと思ったよ。」
つまり、夫は、自分でできると思ったことなら、何でもできるのです。
ユーベルの、「大体何でも切れる魔法。」は、自分が切れると思ったら、絶対切れないはずのものでも切れるという魔法で、常識どころか、全ての法則を無視して、切ってしまうことができるのです。
逆に、俊一郎は、どれだけ簡単なことでも、やる気が起きなければ、できないのです。
そう言えば、私と卓球してぼろ負けしたこともあったなあと、美奈子は思い出しました。
「あなたって、ユーベルに限らず、葬送のフリーレンに出てくる魔術師たちと同じね。」
「どういうことだ。」
「魔術って、イメージすることからスタートするのでしょう。イメージできることはできるけど、イメージできないことはできないってことよ。」
俊一郎、理解しました。
「そのとおりだな。確かに、イメージできないことはできない代わりに、イメージできるというか、間違ってイメージしてしまったことでも、できてしまう。」
俊一郎が、軽くけっただけで自分の左足を折ったり、指でつついただけでベンツのエンブレムを折ったりしたことだと思い付いて、美奈子は笑ってしまいました。
「そうよ。間違っても、悪いイメージを描いちゃダメなんだった、あなたは。」
「僕には、イメージトレーニングは危険なんだ。」

長くなったので、続く。
画像は、我が家のシュウメイギクです。
9月中旬から1か月半ぐらい咲いています。







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Last updated  Nov 6, 2024 08:58:05 PM
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