ネオリアヤの言葉

ネオリアヤの言葉

手紙




今朝の十時、郵便受けにサナから手紙が届いた。
僕は、差出人にサナの名前を確認して少し驚いた。
葉書を書いてよこすことはこれまでも何度かあったけれど、中の便箋の厚みで、
封筒の中央部分がわずかに膨らみを持った手紙は、
僕の手の中で期待と不安のような胸騒ぎになった。
一昨日、電話で声を訊いたばかり。話をしたばかりなのに。
そんな想いが夕立のように降り、排水溝のない心に溜まっていく。
ハサミを入れる手元がほんのわずかに躊躇われる。
でも、あえて先入観を切り捨て、封を切った。

ナオキへ

電話をしたあと、なかなか眠れなくて今は十日の朝二時です。早く寝なさいと、怒られそうだよね。この手紙を書いたら寝ます。
ナオキの声を訊けて安心したのだけど、実は謝りたいことがあるんだ。
辛いふりをしてごめんなさい。
あんなこと云うつもりで電話したわけじゃないのに、気づいたら云わずにいられなかった。本当にごめん。
ナオキが金沢へ行ってからひと月半が経って、淋しいのは本当。声は訊けても、側にはいないし、
逢いたいと想うから、やっぱり淋しいと感じる。
でもね、辛くはない。
一人で過ごす時間が増えて、自分を見つめるいい機会になってます。
それなのに、私はナオキと離れていることを、まるで辛いかのように云ってしまいました。
その訳をずっと考えてたらこんな時間になっちゃった。
私ね、「辛い状況にいる自分」をみたかったんだと思う。
本当に悲しいのか辛いのか、それがどんな感じなのかを知りたかった。
そして、ナオキの気持ちを試してた。
ナオキが行って、逢えないことに辛さを感じない自分自身が、
どうしてか許せなくて、もしかしてナオキのことを本気で想っていないから?とも思った。
逢えないことが苦しくて、辛くて堪らなくなることで、
悲劇のヒロインぽくなれる気がしてたのかな。
おかしいよね。自分でも笑っちゃうけど。
私が辛いって云ったら、ナオキも「逢いたいよ」って云ってくれるかなって、
そんなこと考えて期待してた。
ナオキが困るだけなのは眼に見えてたのに。
私も、云ったあとでもの凄く後悔した。
それなりに毎日楽しく過ごしてるし、
ナオキと逢えるときのことを考えてワクワクしてることの方が断然に多いのにね。
あんなこと云って、お互いに疲れていくことを知りながら、
私はそれでもあの時、どうしても云わずにいられなかった。
自分勝手なとこはそのままなようです(笑)。
ごめんなさい。
電話で謝ることも考えたのだけど、
嫌気のさしたナオキが電話に出てくれなかったら…と想像したら臆病になって。
一方的にはなってしまうけれど、手紙の方が気持ちを伝えられるので、
たまにはいいかなと思いました。
ナオキを好きでいられることだけで、私は十分に幸せです。
そして時々、淋しくなることもあります。
でも、もう辛いふりはしません。ナオキも金沢で頑張ってね。
私もこっちで頑張ります。それでは、このへんで終わりにします。
体調に気をつけて。
またね。
午前三時十五分。おやすみなさい。

                                    サナ

まるで今にも泣き出しそうな声色で、サナが電話口で話していたのを思い出した。
サナに限ってそんなことを云うとは思っていなかったから、
とても驚いて、気持ちが醒めるのを感じたのも事実だった。
そんなことくらいで、サナを嫌いになったりはしないのだけれど、
これから堆積されていくかもしれない言葉と気持ちの重さを想像すると、
億劫になっていく未来が心のどこかに描かれた。
この手紙は、僕の気持ちを知りながらも、自身が発する様々な心の声を実践しているサナの姿をよく表していた。
自分を知るために、そして伝える術を知るために僕がいることを告白している。
僕を好きであることに変わりはなくても、僕がそうであるように、
サナもまた、いろいろな気持ちや、人の心の襞を知りたいのだろうと思う。
そのためならば、傷つくことも恐れない強さがあり、
それ故に傷つき易い脆さも同時に持ちあわせていた。
手紙を畳んで、再び封筒にしまいながら、
僕はサナがきっとそのうち一人でも生きていけるようになるだろうと確信する。
自然な流れのままに。



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