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2008.02.09
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カテゴリ: Essay
ヒース・レジャーの死についてのNY市当局の監察医(検死官)のステートメントはすでに英語・日本語併記で拙ブログでご紹介したのだが、このたった数行のステートメントさえ、日本のメディアはまともに当たっていないようだ。

まず、注意しておかなければいけないのは、この専門医の所見には、いっさい「過剰摂取」「大量服用」という言葉はないということ。あるのは、combined effects(複合作用)、abuse(誤用・乱用)という表現。そもそもここまで発表が遅くなったのは、最初の検査で、致死量に達するような毒性が体内から検出されなかったためだ。日本のメディアがほとんど決めつけていた「睡眠薬(のみを)大量服用したため」ではないということは、アメリカのメディアではすでに早い段階で間接的に伝えられていた。

また、アメリカのテレビ局は、この監察医の最終報告を受けて、アメリカでは違法ドラックより、実は複数の処方薬の誤った服用で亡くなる人が多いということも言っていた。一番の問題は、複数の処方薬の「飲み合わせ」だ。おそらく飲んでいた薬が過剰であったことは、もちろん想像にかたくないが、NY市当局の発表には、そうした表現はいっさいない。だから、 eiga.com速報 の「俳優ヒース・レジャーの死因を、ニューヨーク市検死官は2月6日、薬を大量に服用した“偶発的な薬物過剰摂取”と発表した」「検死官によると、これらの薬物成分がレジャーの血液内から大量に発見されたという」なんてのは誤報なのだ。「偶発的な」事故とは言っているが「薬物過剰摂取」とは言っていないし、「薬物成分が発見された」ことは伝えているが、「大量」とは言っていない。おまけに肝心の「複合作用」という言葉は見事に省かれている。「全て市販されているもの」というのも違う。ヒースの部屋で発見されたものは市販薬ではなくて、処方薬だった。わずか数段の速報ニュースに、これだけ間違いがあり、肝心なことが書かれていないのを見ると、ほとんどボーゼンとなってしまう。他の日本の媒体も同じようなもので、英語原稿を日本語に訳したもの以外は、あたかもドクターが「過剰摂取が原因」と発表したかのように書いている。「ほんのちょっとの事実に、大量の憶測を加えた」記事ばかりだ。

ヒースの体内から検出されたというヒドロコドンについては、去年の秋ぐらいにアメリカでは相当問題になっており、テレビでもしょっちゅうやっていた。FDAが咳止めなどに使われていた未承認ヒドロコドン含有製剤の製造販売を禁止したのだ。

ヒースが亡くなったときの、読売や 朝日 の記事も、単に「睡眠薬がそばにあった」「警察が過剰摂取の疑いで調査している」(朝日)「睡眠薬を大量に飲んだとみられるが、自殺だったかどうかは明らかになっていない」「ベッド脇に睡眠薬があった」(読売)と言っているだけだった。これではほとんどの読者は、「自殺?」と思ってしまう。アメリカのメディアは当初から一貫してずっと慎重で、睡眠薬を含めた複数の処方薬があったことを伝え、特に「睡眠薬」だけにしぼった報道はしなかった。ところが日本では、他の処方薬のことは見事に省略して短絡的に睡眠薬大量服用に結論づけるような記事を垂れ流したのだ。


ゲンダイネットの2008年2月5日付け記事 にいたっては、「fuc(ピー「自主規制音」)ing」としかいいようがない。

「遺体の傍らには巻かれた20ドル紙幣があり、警察はこれを使って麻薬を吸い込んだかどうか、目下、鑑定中だという」。この記事はほんの一部だけ真実がある。「20ドル紙幣があった」ということだ。よくドラックを鼻から吸引するときに丸めた紙幣を使う。それをにおわせているわけだが、この記事の元ネタは 1月23日のABCnewsの記

どうやら日本のメディアは、処方薬の乱用・誤用による「複合作用」の危険性については、まったく関心がないか、無知のようだ。どこを見ても「過剰摂取」という結論ありきの論調ばかり。日本とアメリカの処方薬の環境は違うとはいえ、どうしてドクターが明確に書いたことをやすやすと無視し、書いてもいないことを「発表した」などと書くのか。まったく理解できない。

こうした「ちょっとした事実に大量の憶測を交えた記事」があまりに多いのを見ると、暗澹となってしまう。記者は、自分たちが記事の対象にしている有名人は、自分と同じ人間ではなく、石か氷でできているとでも思っているのだろうか。自分に家族や大切な人がいるように、彼らにだってデタラメを書かれて傷つく人がいるなんてことは、想像もしないのだろうか。

世の中には、常に「正しいことを伝えようとする」人たちもいる。だが、真実や事実を書くのは、その調査や裏どりに非常に手間がかかり、かつ、デタラメほどおもしろくはない。

ちょっとした事実をふくらめてデタラメを垂れ流したほうが、簡単だし、大衆はおもしろがる。デタラメをデタラメだと証明するのはまた大変な労力を必要とする。だから、デタラメばかりが増殖して垂れ流され、真実や事実はどこかに隠れてわからなくなってしまう。ネット時代になって、その傾向に拍車がかかったように思う。

こうなると、やはり情報の受け手のリテラシー能力がますます必要になってくる。その情報が正しいか正しくないかをすぐに判別するのは大変だとしても、常に、「これ、本当なの?」と批判的に見る態度は必要だろう。そして、正しいかどうかを自分で判断するために、調べてみようとする姿勢も重要になるだろう。幸いインターネットというのは、正しく探せば、正しい情報を見つけられるツールでもあるのだ。

おまけ:
News.com.au によると、ミシェルに続いて、ヒースの元カノのスーパーモデル、ジェマ・ワードが葬儀参列のためパースに到着したもよう。

しかし、ホント、元カノだの現カノ(未満?)だの、やってくる女性の多いこと、多いこと。





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最終更新日  2008.02.09 03:59:06


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