今回のコンサートで歌ったフィリップ・グラスのアリアもそんな系譜に位置づけられる歌唱だと思った。つまり、普通の人が屈折だとか倒錯だとか思う性格も、本人にとっては生来であり、その意味では純粋なのかもしれない。常軌を逸した理屈を切々と訴えるPlease listen to me。これを聴くと、悪魔も善い行いができないという意味で、純粋な性格なのかもしれない、そんな解釈があってもいいのではないかと思った。狂気の世界、倒錯した世界を青戸のひたすら明るく伸びやかな声で押しすすめたら、ぞっとするような新境地が拓かれるかもしれない。