仮面 幼少時代



幼少時代


そう、私が初めに仮面を被ったのは4歳の時だ。
4歳の頃の記憶など確かなものとは言えないが、あのことはよく憶えている・・・。
あの頃、父は仕事が忙しいと言い・・・家に帰ってくるのは月に2.3度・・。
私と姉は父が帰ってくる日は普段より早く眠り、出来る限り父と顔を合わせないようにした。
私達は父に対して「怖い」という感情しか無かったのだ。
姉もそうだったかは定かでは無いが、きっとそうだっただろう・・・。
父は帰ってくると必ず私達の顔を覗き込み、眠っているかどうかを確認し、襖一枚隔てた隣の部屋へ入っていく。
怒鳴り声にも聞こえる声で母に酒を運ばせ、悪態をついていた。
眠れない夜は私は息を潜め、耳を塞ぎ眠れぬ夜を過ごした。
夜が深まってくると、
「たすけて・・・」
そう聞こえる様な母の泣き声が聞こえてくる・・。
幼かった私にはどうすることも出来ず、ただ時折聞こえる低く鈍い「ドスッドスッ」という音に耳を塞いだ・・・。


夜が明けると決まって父は寝ており、母が朝食を作っている・・・
母は何も無かったような顔で私達に食事をさせ、笑顔を見せた・・・。
姉は声を出さずに泣いているかの様に見え・・・、無言で食を取る。
幼心に私も小さめの声で普段と変わらぬように努めた。
今想えば、いつも俯いていた母はどんな気持ちだったのだろう?
私達に傷やアザを見せない様に俯いていたのか・・・
罪悪感?
謝罪?

その姿に私はいつしか煩わしさを憶えた・・・。

その頃の私は家の中よりも外を好み、自分の親よりも他人の大人達に親の愛を求めた・・・
他人の目から見れば「人懐っこい子供」にしか見えなかっただろう・・・。
きっと、心の中にある理想の家族を求めていたのだと思う。
いつしか家での私は言葉を無くし、顔色を伺い、笑顔と呼ばれる仮面を被ることを憶えた・・・。

家に帰る時間はその頃の子供達にしては遅く、誰も居ない時間は家へ・・・
親や姉が家に居る時は、逃げる様に家を飛び出した・・・
家から少し歩いた場所に草むらがあり、そこで永遠とも思える時間と戦った・・・
「この家に居たら私が消えてしまう・・・」
幼い私にも危機感があったのだろうか?
逃げる場所も見つけることが出来ぬ年頃の話だ・・・

私から時折零れる笑顔・・・楽しい訳では無い、嬉しい訳でも無い・・・。
なぜか・・・自然と・・

想いとは裏腹に出てくる笑顔の仮面は、あの頃作りだされたのだろう。


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