フラメンコのこと「青い薔薇を放って」


余りの愛らしさに言葉を失ってしまったのを覚えている。
曲はグアヒーラ。扇子を持ってひらひらと舞う華奢な腕。
「チョウチョさん」と勝手に心で名つけて、ちょうどその時自分も
扇子を使う曲に取り組んでいた私は、必死で鏡の前で彼女の真似をしたものである。
聞くところによると、クラシックバレエをやっていらしたとの話。
小さな顔。
折れそうなウエスト。
細い腕。
なのに近くで見ると、指が小刻みに震えている。
しなやかな動きの奥にすごい力が実は働いているのだと、気付いたのも
最近のことだ。
白い指の繊細な流れるような動き。でもアクセントを取る時には
完璧な形で静止して、まばたきもしてはならない・・・・フラメンコは
静と動の両方の美しさを表現できなければいけないのだろう
そんな多分あたり前のことを気付かされてもらったのも
その方のいかげだったと思う。
綺麗に踊ること。
どうすればああなれるのか?
そんな疑問をやっと持てるようになった私は一応レッスン歴2年を数えていた。

おかしな時期だなと思ったそのチョウチョ先輩のライブ。
もう一人個性的で丸顔で大柄だけどキュートな踊りが持ち味で人気のあるカルチャーの講師を勤めている先輩とコンビで、小さな店で先週ライブがあった。
熱心なそのキュート先輩は「カホン」という打楽器をおそらく独学で
勉強したらしく、ギターとカホンと歌声、という奥の深い舞台を
私たちに見せてくれるとのことだった。
駆けつけた私に、同じクラスの友人からショックなひとこと。
「あの方おやめになるんだって・・・聞いた??」
一瞬言葉も出なかった。
「本州にねお嫁にいってしまうんだって・・・・あっちでも続けると
思うけどもう今日で最後なんだよ。結婚式は6月だって」

オレンジの水玉の愛らしい衣装。
多分新調したものだと思う。細い肩。細い腕。
でもしっかり愛する人について慣れた土地を離れる勇気をもった人だったのだ。渾身の舞に、止まらない涙がジャマで仕方ない。
最後だもの。
しっかり見ておきたい。いつかどこかでフラメンコを通じて再会できた時
本当に憧れて目標にしてましたと、せめて言いたい。
それに相応しいくらいに上手になりたい。
華麗なブエルタ(回転)。
いつもよりも激しい動き。飛び散る汗。
しっかり固めたはずの髪が乱れている。とても綺麗だった。
最後の回転の時に、小さな頭から髪に付けていた青いバラが勢いよく
飛んだ。
青いバラ。
不可能なもの。ありえないもの・・・余り好きではない言葉だったけれど。
その人はそれを、すぐ側で食い入るように見ている良きライバルだった
先生の手もとに偶然だけど、放った。
演出ではないけれど、最高にかっこよかった。

「フラメンコを習っていると結婚出来ないの。結婚は不可能だよ」
なんてよく聞いた言葉だったけど、
そんな事ばかりでもないんだなと思ったりした。
青いバラの意味は、不可能なこと。ブルーローズ・・・・
かなわない夢。

来週のレッスンで、一緒にまた練習が出来たらいいなと心から思う。
ありがとうございました。
どうかお幸せに。
必ずそう伝えておきたい。


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