| 困った顔の車掌さん |
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目が覚めたらまだ6時前だった。体内時計はまだヨーロッパ時間に合っていない。もぞもぞしていたらクロヤギも目が覚めたようだ。おはよう、クロヤギ。 「おはよー。・・・シロヤギさあ、昨日の夜歌ってたよ。」 は?歌ってた? 実は、自他共に認める寝言魔の私、しょっちゅう寝言は言っているけれど、歌っていたって・・? 「うん。なんかね、夜中にむくっと起きて、“トイレ~ トイレ~”って歌いながらトイレに行って、“おしっこでたの~”って歌いながら戻ってきた。」 “おしっこでたの~”ですか?そりゃちょっと、うそじゃないかと・・・。 「ウソじゃないよ!オイラもちょっとびっくりしたから“シロヤギ起きてるの?”って声かけたんだけど、そのままベッドに入ってったから寝ぼけてるのかな・・・、と思って。」 うーん、それは寝ぼけていたかも・・・。クロヤギだからよかったけど、友達と旅行に行ったときには歌わないようにしなきゃ。(ってどうやって?) 今日はまずミラノからイタリア領ティラノまで行き、スイス領ティラノ駅からベルニナ線に乗りかえサン・モリッツまで行く。ティラノで荷物を送り、途中下車してハイキングをする予定。ミラノ中央駅から8時15分の電車に乗らなければいけないので、パンとコーヒーの簡単な朝食を済ませ、急いで出発する。ホテルから駅までは10分足らず(昨夜は迷ったので30分くらいかかったけど。)だけれど、石畳の上、スーツケースを引いて歩くのはなかなか大変。手のひらが、肘が、痛くなってきた頃ようやく駅に着いた。 ミラノ駅はとても大きく、圧倒された。スイスではどこでも使える“スイスパス”をあらかじめ購入しておいたけれど、ミラノーティラノ間はここで切符を買わなくてはならない。クロヤギが 「ここで買えるんじゃないの?」 と指差した窓口は間違っていたので、自力で探し出した。 「ティラノまで大人2枚。」 お姉さんが無愛想に切符を2枚売ってくれた。 時刻表でフォームを確認し、さらに入り口付近に立っていた車掌さんに行き先を確認して乗り込む。さあ、今から2時間はここに座っていれば良いだけだから楽だぞっと。 列車はミラノを出発し北へ向かって進んでいく。窓の外はビルの谷間から、だんだん緑が多くなっていき、しばらくするとコモ湖が見えてきた。天気がよかったので、湖に光が映えてとてもきれい。2人して目を細めながらコモ湖を眺めていると車掌さんが検札にやって来た。 この列車に乗る前に行き先を確認した車掌さん。にっこり笑って差し出された手に2人分の切符を渡す。・・・あれ?なんか困ってる? 「○※/#!×・・・・・。」 あのー、イタリア語は全く分からないんですけど・・。 「・・○※△#▼×・・トリノ・・。」 ん?今トリノって言った?車掌さんが指差しながら示す私達の切符には確かにTrinoの文字が!! 「ちがう!トリノじゃなくてティラノに行きたいんですぅっ!!」 困った顔で切符を指差す車掌。ええーい、いくら困った顔をされてもトリノじゃなくてティラノに行きたいことには変わらんわい! 「ティラノ。私達の行きたいのはティラノなの!!!!。」 こちらも負けずに応酬。クロヤギも困った顔で参戦。(無言だけど。) なんだかイタリア語でぶつぶつつぶやいていた車掌さん、それでも最後には鋏を入れて切符を返してくれた。トリノまでいくらかかるのか分からないけれど、地図で見た限りではティラノより遠いとは思えない距離だったから、許してくれたのかも。途中で降ろされなくて本当によかった。 |