「エーゲ」 永遠回帰の海 立花隆著:(写真)須田慎太郎 書籍情報社
この本は、ジャーナリスト・立花隆と報道カメラマン・須田慎太郎が、40日間8千キロに及ぶエーゲ海沿岸の古代遺跡を旅した思索紀行の記録である。
須田慎太郎の迫力ある壮大なスケールの写真をオールルカラーで掲載し、写真の迫力ある語りが、立花隆の深い思索と微妙に調和して、古代ギリシャ世界とは何であったか、歴史とは何であるのかを、大きなスケールで描き出している。
立花隆は、若い時に地中海周辺の国々をさ迷い歩いた。旅の目的はもっぱら古代の遺跡を訪ね歩くことであった。その時、数々の遺跡との出会いがあり、それは、それまでの立花隆の歴史観に大きく変更を迫る衝撃的な出会いであった。
その感動を本の中で立花隆はつきのように述べている。
「知識としての歴史はフェイクである。学校の教室で教えられた歴史。歴史書の中の歴史。歴史家の説く歴史。記録や資料の中に残された歴史。それらはすべてフェイクである。
最も正統な歴史は、記録されざる歴史、語られざる歴史、後世の人が何も知らない歴史なのではあるまいか。」
自分を圧倒する見事さで目の前に在る神殿は、記録された歴史の中から抹消され、その神殿がいかなるものか誰も知らない。そればかりか、その神殿にまつわる古代都市の途方もなく膨大な現実の集積は、記録されなかったという理由だけで、歴史の中からかき消されてしまっているという事実に立花隆は衝撃を受ける。そのことが彼を遺跡をめぐる旅へと駆り立てている。
更に、その思いは現代の歴史へと繋がっていく。
それは、今、世界中で日々起きていることであり、今この瞬間に世界で起きている無数の事象のほとんどすべてが、やがて歴史の虚無へと呑み込まれるという歴史観へと繋がっている。
この本は
序章 エーゲ 永遠回帰の海
(この章は、写真家・須田慎太郎が撮影した写真で構成されており、その写真に、立花隆が文を書き込んでいる。写真がすごい迫力)
第1章 聖山アトスへ
(アトスとは、世界で唯一の修道院自治共和国であり、ギリシャの憲法によって、修道院共同体の完全自治が保障されている。アトス半島には20の修道院があり、半島全体を分割領有している、ギリシャにとっても治外法権的な地域である。外国人、特に異教徒の入国は中々面倒で、女性の入国は禁止、動物といえども入国は厳しく制限されており、現代にあっても、中世さながらの自給自足の生活をして、修道僧が修業している山である。この地に入国を許可された立花、須藤両氏の紀行文の章)
第2章 アポロンとディオニュソス
第3章 聖なる神と性なる神
第4章 ネクロポリスと黙示録
第5章 終末後の世界
第2章、第3章は、先住民族の神々をギリシャの神々の中に繰り入れて体系化していく、神話時代の人々のエネルギーに満ち溢れた力強い神々の時代を遺跡の中から描き出している。
第4章から第5章にかけては、地方の一民族の異教に過ぎなかったキリスト教が次第に世界宗教として変貌して行く世界を追っている。
この本のギリシャ・ローマの古代世界についての深い思索は、私自身にも古代世界について再学習し、深く考える時間を与えてくれた。
とりわけ、日本の古代史について、「古事記」や「日本書紀」の時代について、考える新たな視点を与えてくれた。
歴史を長い物差しで、大きなスケールで考えることの凄さを教えられた。
折りしも今日本では、日本の天皇制をどう見るかに関して、「古事記」「日本書紀」を日本史のなかでどう位置づけるべきか、重大なテーマになっている。
日本の学校教育現場で歴史をどう教えるかについて、厳しい、せめぎ合いをしているところでもある。
遺跡の数々から古代史をどう構築するのか、
物言わぬ無数の歴史を、どう私たちは、想像力でほんとうの姿に近づけることが出来るのか。
教育の力が試される所でも在る。
日本人としての誇りとは何か。
この本は、戦後の歴史を自虐的でけしからん。日本人として、日本の歴史に誇りを持てという極めて政治的な主張の歴史観の卑小さを、彼方に追いやる壮大さがある。
そして、ほんとうの歴史とは何かを、改めてこの本は、私に考えさせてくれた。
とても示唆に富む歴史の見方を教えてくれた本でもある。
この本は、観光案内的なガイドブックではないが、人生のガイドブックである。
とてもスケールの大きな紀行書である。
遺跡をめぐり歩く旅を通して、人が世界とどう向き合うかを語りかけている。
写真も高価な美術書に劣らぬものが満載されており、見ごたえがある。しかも手ごろな値段なのである。(1500円)
遺跡めぐりの愛好家に読むことをお薦めしたい1冊である。
若い人々にもぜひ読んで欲しい1冊である。
(当ブログのDanjoseの写真花歳時記 (トルコの古代遺跡
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